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25 犯行予告
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屋敷へ入ると、私たちは応接室へと向かった。
「それで、困ったこととは」
「殿下は最近王都に出没した、奇妙な盗賊の話を聞いたことはありますか」
聞き返した殿下にラウルはそう答えた。
「奇妙な盗賊?」
「はい。盗まれたのはマルトール伯爵のルビー『女神の心臓』、学園内の博物館にある彫刻『ヘンリーの天使』、それから教会にある『毒の聖杯』。分かっているものは以上ですがそれ以外にもあるかもしれません」
「美術品を狙っているのか」
「おそらく」
「毒の聖杯? 物騒な名前ですね」
「かつて司祭長がそれで王から毒を賜り処刑されたという言い伝えがあるんだ。銀製だったため、内側が変色している」
思わず聞くと殿下が説明した。
毒を盛った聖杯?! 何でそんなものを盗むの?
「それで、奇妙とは」
「はい。犯行を行う前に、必ず『予告』をするんです」
「予告?」
「何日にこれを盗むと手紙が届き、その通りに犯行が実施されているんです」
「マルトール伯爵と父は親しい付き合いで、相談がありましたの」
サーシャが説明を継いだ。
「お兄様が騎士のお仲間の方と警備にあたったのですが、結局盗まれてしまいまして……。それで、調べましたら、学園と教会でも同じような事件があって。さらに少し前に隣国でも騒ぎになっていたらしくて。同じ者の犯行ではないかと」
予告して盗むなんて、前世の小説や漫画で読んだ『怪盗』みたいだわ。
「その話が父のところに伝わったのが数日前ですが、ほぼ同時にこのエイリーの街に『予告』が届いたとの知らせも伝わったんです」
ラウルが言った。
「それで、関わりがあったお兄様が調査と警備のためにこの街に来ることになりましたの。殿下たちも滞在されているということで、私たちもラウル様と一緒に来ましたの」
「どうしてですか?」
サーシャの言葉に首を傾げた。
「護衛ですわ」
「護衛?」
「私、幼い頃から鍛えていますからそれなりに強いのですわ」
サーシャはグッと握り拳を作ってみせた。
「お兄様にもお墨付きをいただいておりますの」
「まあ、それは頼もしいわ」
さすが騎士のお家ね!
「今回の件はあまり騒ぎにしたくないと父や王家の意向がありまして。ですから殿下たちの護衛も露骨に増やせなくて、この二人に同行してもらいました」
「……エディーも護衛なの?」
「俺もそれなりに剣は扱えるし。それに父上たちが凄く心配してるから」
「え、本当に?」
「だから俺がちゃんと連れて帰るから大丈夫って伝えておいた」
ぽん、とエディーは私の頭に手を乗せた。
「まあ、犯行予定の日も場所も分かってるから、そこを避ければ問題ないだろうけど」
「犯行予定の日って、いつなの?」
「明後日だ。場所は……」
「図書館です」
エディーがラウルを見ると、ラウルはそう答えた。
「図書館? あの元礼拝堂の?」
「その礼拝堂に納められた『女王の涙』と呼ばれる宝石です」
「女王の涙……」
思わず殿下を見た。
「今日見せてもらったものか」
非公開の部屋に飾られていた中に、そう呼ばれているブローチがあったのだ。
かつて存在した女王が愛用していた宝石を礼拝堂に納めたものだと、館長が説明してくれたのだ。『女王の涙』という名前は、元々は赤い石だったのが、女王の最愛の夫が亡くなった時に流した涙がその石に落ちて青く染まったという伝説があるのだという。
宝飾品としてはそこまで特徴的なものではなかったが、そんな不思議な逸話と殿下に『クリスティナの瞳と同じ色だな』と言われたのとで印象に残っていたのだ。
「ですので、本来ならば明後日は天文台で流星群を見る予定でしたが。この屋敷から出ないで欲しいんです」
「そうか。残念だが仕方ないな」
「屋敷の屋上からも見られますし、流星群は数日続く予定ですので、別日に行かれるか天文台に確認してみます」
「ああ」
「明日は市場へ案内する予定でしたが、それも変更しましょうか」
「いや。大事にしたくはないのだろう? あまり予定を変えるのも不審を与えるだろうから、明日は予定通りにしよう」
「承知しました」
殿下の言葉にラウルは頭を下げた。
「クリスティナ」
部屋へ戻ろうとするとエディーが声をかけてきた。
「殿下と二人きりで、変なことされていないか?」
「……変なことって?」
「例えば、襲われたりとか」
「するはずないだろう」
殿下の声が聞こえると、肩に手が乗る感触があった。
「私はクリスティナを大切にすると誓ったんだ。ねえ、クリスティナ」
「……はい」
(キスするのは違うのかしら)
少し腑に落ちないところはあるけれど。でもキスのことをエディーに知られたらとても面倒なことになりそうだから、一応殿下に同意した。
「本当に?」
「私を疑うのか」
「ええ。信用できませんからね」
王太子に向かってなんてこと言うの?!
青ざめていると、殿下はふっと笑った。
「そういう君は信用できるのか? 妃候補であるクリスティナに変なことをしないという」
「――もちろんです」
そう答えてエディーが私を見たので頷いた。……エディーに告白された時に額にキスされたり、以前より距離は近くなったけれど……殿下ほどではないし。
「これが牽制というものですわね!」
「……そうだね」
サーシャが目を輝かせる隣でラウルがため息をついているのが見えた。
「それで、困ったこととは」
「殿下は最近王都に出没した、奇妙な盗賊の話を聞いたことはありますか」
聞き返した殿下にラウルはそう答えた。
「奇妙な盗賊?」
「はい。盗まれたのはマルトール伯爵のルビー『女神の心臓』、学園内の博物館にある彫刻『ヘンリーの天使』、それから教会にある『毒の聖杯』。分かっているものは以上ですがそれ以外にもあるかもしれません」
「美術品を狙っているのか」
「おそらく」
「毒の聖杯? 物騒な名前ですね」
「かつて司祭長がそれで王から毒を賜り処刑されたという言い伝えがあるんだ。銀製だったため、内側が変色している」
思わず聞くと殿下が説明した。
毒を盛った聖杯?! 何でそんなものを盗むの?
「それで、奇妙とは」
「はい。犯行を行う前に、必ず『予告』をするんです」
「予告?」
「何日にこれを盗むと手紙が届き、その通りに犯行が実施されているんです」
「マルトール伯爵と父は親しい付き合いで、相談がありましたの」
サーシャが説明を継いだ。
「お兄様が騎士のお仲間の方と警備にあたったのですが、結局盗まれてしまいまして……。それで、調べましたら、学園と教会でも同じような事件があって。さらに少し前に隣国でも騒ぎになっていたらしくて。同じ者の犯行ではないかと」
予告して盗むなんて、前世の小説や漫画で読んだ『怪盗』みたいだわ。
「その話が父のところに伝わったのが数日前ですが、ほぼ同時にこのエイリーの街に『予告』が届いたとの知らせも伝わったんです」
ラウルが言った。
「それで、関わりがあったお兄様が調査と警備のためにこの街に来ることになりましたの。殿下たちも滞在されているということで、私たちもラウル様と一緒に来ましたの」
「どうしてですか?」
サーシャの言葉に首を傾げた。
「護衛ですわ」
「護衛?」
「私、幼い頃から鍛えていますからそれなりに強いのですわ」
サーシャはグッと握り拳を作ってみせた。
「お兄様にもお墨付きをいただいておりますの」
「まあ、それは頼もしいわ」
さすが騎士のお家ね!
「今回の件はあまり騒ぎにしたくないと父や王家の意向がありまして。ですから殿下たちの護衛も露骨に増やせなくて、この二人に同行してもらいました」
「……エディーも護衛なの?」
「俺もそれなりに剣は扱えるし。それに父上たちが凄く心配してるから」
「え、本当に?」
「だから俺がちゃんと連れて帰るから大丈夫って伝えておいた」
ぽん、とエディーは私の頭に手を乗せた。
「まあ、犯行予定の日も場所も分かってるから、そこを避ければ問題ないだろうけど」
「犯行予定の日って、いつなの?」
「明後日だ。場所は……」
「図書館です」
エディーがラウルを見ると、ラウルはそう答えた。
「図書館? あの元礼拝堂の?」
「その礼拝堂に納められた『女王の涙』と呼ばれる宝石です」
「女王の涙……」
思わず殿下を見た。
「今日見せてもらったものか」
非公開の部屋に飾られていた中に、そう呼ばれているブローチがあったのだ。
かつて存在した女王が愛用していた宝石を礼拝堂に納めたものだと、館長が説明してくれたのだ。『女王の涙』という名前は、元々は赤い石だったのが、女王の最愛の夫が亡くなった時に流した涙がその石に落ちて青く染まったという伝説があるのだという。
宝飾品としてはそこまで特徴的なものではなかったが、そんな不思議な逸話と殿下に『クリスティナの瞳と同じ色だな』と言われたのとで印象に残っていたのだ。
「ですので、本来ならば明後日は天文台で流星群を見る予定でしたが。この屋敷から出ないで欲しいんです」
「そうか。残念だが仕方ないな」
「屋敷の屋上からも見られますし、流星群は数日続く予定ですので、別日に行かれるか天文台に確認してみます」
「ああ」
「明日は市場へ案内する予定でしたが、それも変更しましょうか」
「いや。大事にしたくはないのだろう? あまり予定を変えるのも不審を与えるだろうから、明日は予定通りにしよう」
「承知しました」
殿下の言葉にラウルは頭を下げた。
「クリスティナ」
部屋へ戻ろうとするとエディーが声をかけてきた。
「殿下と二人きりで、変なことされていないか?」
「……変なことって?」
「例えば、襲われたりとか」
「するはずないだろう」
殿下の声が聞こえると、肩に手が乗る感触があった。
「私はクリスティナを大切にすると誓ったんだ。ねえ、クリスティナ」
「……はい」
(キスするのは違うのかしら)
少し腑に落ちないところはあるけれど。でもキスのことをエディーに知られたらとても面倒なことになりそうだから、一応殿下に同意した。
「本当に?」
「私を疑うのか」
「ええ。信用できませんからね」
王太子に向かってなんてこと言うの?!
青ざめていると、殿下はふっと笑った。
「そういう君は信用できるのか? 妃候補であるクリスティナに変なことをしないという」
「――もちろんです」
そう答えてエディーが私を見たので頷いた。……エディーに告白された時に額にキスされたり、以前より距離は近くなったけれど……殿下ほどではないし。
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