悪役令嬢は国一番の娼婦を目指したい

冬野月子

文字の大きさ
6 / 14

06

『ほう、これは…』
『美味いものだな…!』

グラスに注がれた酒を口に含んで、男達は口々に感嘆の声をあげた。


『これは蒸留酒の中に果物とスパイスを漬け込んだものです』
そう答えてイザベラは瓶を掲げてみせた。
『それぞれの風味が引き立って美味しく仕上がりましたわ』

『実に香りがいい』
『鼻に抜けるスパイスがたまらないな』
『蒸留酒というのはキツくて飲みにくいと思っていたが…こうやって飲むと美味いのだな』

『蒸留酒は日持ちも良いので旅のお供にもおすすめですの。お土産用に小分けしたものをご用意いたしましたから帰国の道中もお楽しみ下さいませ』
『それはありがたい』
『これは我が国でも広めてみたいものだ』
『この蒸留酒というのは高価なものなのか?』

『価格につきましてはこちらの商会の方に…』
イザベラの言葉に、早速シヴォリとレディントンの商人がなにやら話を始める。

(上手くいけば輸入だけでなく輸出も出来そうね…)

男達の様子を眺めながら、イザベラは思惑が上手くいった事に安堵した。




イザベラがオーキッドハウスに来て二週間近く。
今夜はシヴォリ王国の賓客を接待する日だ。

この二週間、接待担当の女性達にシヴォリ語やイザベラが知るシヴォリの事を教えながら、何か今夜の話題のネタとなるものがないか考えていた。
二国の友好の証に、互いの特産品を使ったものを。
そう考え、思いついたのがこの浸漬酒だ。

蒸留酒はワインなどの醸造酒に比べて製造工程も多く、技術も必要なためこの世界ではあまり普及していない。
このレディントン王国では比較的出回ってはいるが、他国と比べると珍しいらしいのだ。

前世のイザベラはお酒が好きだった。
焼酎やウォッカに果物やスパイスなどを漬け込むのにハマっていた時期もあり、それを思い出したのだ。

最初は話のネタになればいいくらいに思ったのだが、今夜の接待に協力してくれる商会の者にこの浸漬酒を提案した所、これは商機になる…!と食いついてきた。
シヴォリ側に蒸留酒を売り込むいい宣伝になると。
幾つもの食材の中から特に美味しい組み合わせを早く見つける事ができたのも、その商会のおかげだ。





(初仕事が上手くいって良かった…)

盛り上がる場を中座して、イザベラは中庭へ出ると冷たい夜風をゆっくり吸い込んだ。

二週間という短期間でどれだけ準備できるか不安だったが、オーキッドハウスの女性達は優秀で接客に最低限必要なシヴォリ語を覚える事ができた。
そしてイザベラは彼女達に接客術を学び、皆で協力して今日の日を迎えたのだ。

(娼婦の仕事とは違うけれど…これはこれで楽しいかも)


「イザベラ嬢」

満足感に浸っていると背後から声をかけられ、イザベラは振り返った。


「メイナード殿下…」
「今夜はありがとう。君のおかげで大成功だ」
「…いえ、皆で協力しあったからです。お役に立てて良かったですわ」
イザベラは歩み寄ってきた、金髪碧眼の男性を見上げ微笑んだ。

メイナード・レディントンは国王の歳の離れた弟で、まだ二十六歳の若さながら外交の仕事を任されている。
今回のシヴォリ王国との貿易も、彼が中心となって動いているのだ。



「それにしても…まさか君がここにいたとは」
表情を曇らせると、メイナードはイザベラに向かって頭を下げた。
「あの愚かな甥が、本当に申し訳ない」

「頭をお上げ下さい…!」
王弟に頭を下げられイザベラは焦った。
「殿下が謝る事ではございません」
「だが君をこんな所に入れさせるなど…これは王家の責任だ」
メイナードはため息をついた。
「国王夫妻も怒っているが…そもそも彼らが息子に甘いのが悪い。せめて私が気付いてやれれば良かったのだが」
「いえ本当に…殿下は全く悪くありませんから」

いつも外交の仕事であちこちを飛び回っているメイナードは王宮にいる方が少ない。
内情を知るひまもないのだろう。

「だが…」
「それに正直、あの王子から解放された事の方が嬉しいんです」
笑顔でイザベラは言った。


「———君がクリストファーとの婚約を望んでいないという噂は本当だったのだな」
イザベラにつられるようにメイナードも笑みを見せた。
「それに…賓客を相手にしている姿は板についていた。君は接客に向いているのかな」
「そうですね、今回の仕事は楽しかったです」
働くのは嫌いではない。
接客の仕事は前世でもした事がなかったが、お偉いさんへのプレゼンと思えば前世の知識や経験が活かせる。


「そうか。では今度は客として君に接待をしてもらおうかな」
「はい、ぜひお越しください」
「それじゃあ近いうちに」

(メイナード殿下は仕事ができる男って感じでカッコイイなあ。ホント、どこかの王子とは大違いだわ)

そう思いながら、イザベラは手を振り接待の場へと戻るメイナードの背中を見送った。

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された令嬢は、“神の寵愛”で皇帝に溺愛される 〜私を笑った全員、ひざまずけ〜

夜桜
恋愛
「お前のような女と結婚するくらいなら、平民の娘を選ぶ!」 婚約者である第一王子・レオンに公衆の面前で婚約破棄を宣言された侯爵令嬢セレナ。 彼女は涙を見せず、静かに笑った。 ──なぜなら、彼女の中には“神の声”が響いていたから。 「そなたに、我が祝福を授けよう」 神より授かった“聖なる加護”によって、セレナは瞬く間に癒しと浄化の力を得る。 だがその力を恐れた王国は、彼女を「魔女」と呼び追放した。 ──そして半年後。 隣国の皇帝・ユリウスが病に倒れ、どんな祈りも届かぬ中、 ただ一人セレナの手だけが彼の命を繋ぎ止めた。 「……この命、お前に捧げよう」 「私を嘲った者たちが、どうなるか見ていなさい」 かつて彼女を追放した王国が、今や彼女に跪く。 ──これは、“神に選ばれた令嬢”の華麗なるざまぁと、 “氷の皇帝”の甘すぎる寵愛の物語。

【完結】男運ゼロの転生モブ令嬢、たまたま指輪を拾ったらヒロインを押しのけて花嫁に選ばれてしまいました

Rohdea
恋愛
──たまたま落ちていた指輪を拾っただけなのに! かつて婚約破棄された過去やその後の縁談もことごとく上手くいかない事などから、 男運が無い伯爵令嬢のアイリーン。 痺れを切らした父親に自力で婚約者を見つけろと言われるも、なかなか上手くいかない日々を送っていた。 そんなある日、特殊な方法で嫡男の花嫁選びをするというアディルティス侯爵家のパーティーに参加したアイリーンは、そのパーティーで落ちていた指輪を拾う。 「見つけた! 僕の花嫁!」 「僕の運命の人はあなただ!」 ──その指輪こそがアディルティス侯爵家の嫡男、ヴィンセントの花嫁を選ぶ指輪だった。 こうして、落ちていた指輪を拾っただけなのに運命の人……花嫁に選ばれてしまったアイリーン。 すっかりアイリーンの生活は一変する。 しかし、運命は複雑。 ある日、アイリーンは自身の前世の記憶を思い出してしまう。 ここは小説の世界。自分は名も無きモブ。 そして、本来この指輪を拾いヴィンセントの“運命の人”になる相手…… 本当の花嫁となるべき小説の世界のヒロインが別にいる事を─── ※2021.12.18 小説のヒロインが出てきたのでタグ追加しました(念の為)

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

大好きな婚約者に「距離を置こう」と言われました

ミズメ
恋愛
 感情表現が乏しいせいで""氷鉄令嬢""と呼ばれている侯爵令嬢のフェリシアは、婚約者のアーサー殿下に唐突に距離を置くことを告げられる。  これは婚約破棄の危機――そう思ったフェリシアは色々と自分磨きに励むけれど、なぜだか上手くいかない。  とある夜会で、アーサーの隣に見知らぬ金髪の令嬢がいたという話を聞いてしまって……!?  重すぎる愛が故に婚約者に接近することができないアーサーと、なんとしても距離を縮めたいフェリシアの接近禁止の婚約騒動。 ○カクヨム、小説家になろうさまにも掲載/全部書き終えてます

【完結】貧乏子爵令嬢は、王子のフェロモンに靡かない。

櫻野くるみ
恋愛
王太子フェルゼンは悩んでいた。 生まれつきのフェロモンと美しい容姿のせいで、みんな失神してしまうのだ。 このままでは結婚相手など見つかるはずもないと落ち込み、なかば諦めかけていたところ、自分のフェロモンが全く効かない令嬢に出会う。 運命の相手だと執着する王子と、社交界に興味の無い、フェロモンに鈍感な貧乏子爵令嬢の恋のお話です。 ゆるい話ですので、軽い気持ちでお読み下さいませ。

転生令嬢、シスコンになる ~お姉様を悪役令嬢になんかさせません!~

浅海 景
恋愛
物心ついた時から前世の記憶を持つ平民の子供、アネットは平凡な生活を送っていた。だが侯爵家に引き取られ母親違いの姉クロエと出会いアネットの人生は一変する。 (え、天使?!妖精?!もしかしてこの超絶美少女が私のお姉様に?!) その容姿や雰囲気にクロエを「推し」認定したアネットは、クロエの冷たい態度も意に介さず推しへの好意を隠さない。やがてクロエの背景を知ったアネットは、悪役令嬢のような振る舞いのクロエを素敵な令嬢として育て上げようとアネットは心に誓う。 お姉様至上主義の転生令嬢、そんな妹に絆されたクーデレ完璧令嬢の成長物語。 恋愛要素は後半あたりから出てきます。

崖っぷち令嬢は冷血皇帝のお世話係〜侍女のはずが皇帝妃になるみたいです〜

束原ミヤコ
恋愛
ティディス・クリスティスは、没落寸前の貧乏な伯爵家の令嬢である。 家のために王宮で働く侍女に仕官したは良いけれど、緊張のせいでまともに話せず、面接で落とされそうになってしまう。 「家族のため、なんでもするからどうか働かせてください」と泣きついて、手に入れた仕事は――冷血皇帝と巷で噂されている、冷酷冷血名前を呼んだだけで子供が泣くと言われているレイシールド・ガルディアス皇帝陛下のお世話係だった。 皇帝レイシールドは気難しく、人を傍に置きたがらない。 今まで何人もの侍女が、レイシールドが恐ろしくて泣きながら辞めていったのだという。 ティディスは決意する。なんとしてでも、お仕事をやりとげて、没落から家を救わなければ……! 心根の優しいお世話係の令嬢と、無口で不器用な皇帝陛下の話です。

婚約破棄された「無能」聖女、拾った子犬が伝説の神獣だったので、辺境で極上もふもふライフを満喫します。~捨てた国が滅びそう?知りません~

ソラ
ファンタジー
「エリアナ、貴様との婚約を破棄し、この国から追放する!」 聖女としての魔力を使い果たし、無能と蔑まれた公爵令嬢エリアナ。 妹に婚約者を奪われ、身一つで北の最果て、凍てつく「死の森」へと捨てられる。 寒さに震え死を覚悟した彼女が出会ったのは、雪に埋もれていた一匹の小さなしっぽ。 「……ひとりぼっちなの? 大丈夫、私が温めてあげるわ」 最後の手向けに、残されたわずかな浄化の力を注いだエリアナ。 だが、その子犬の正体は――数千年の眠りから目覚めた、世界を滅ぼす伝説の神獣『フェンリル』だった! ヒロインの淹れるお茶に癒やされ、ヒロインのブラッシングにうっとり。 最強の神獣は、彼女を守るためだけに辺境を「極上の聖域」へと作り替えていく。 一方、本物の聖女(結界維持役)を失った王国では、災厄が次々と降り注ぎ、崩壊の危機を迎えていた。 今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくる王子たち。 けれど、エリアナの膝の上には、甘えん坊の神獣様(執着心MAX)が陣取っていて――。 「聖女の仕事? いえ、今は神獣様とのお昼寝の方が忙しいので」 無自覚チートな聖女と、彼女にだけはデレデレな神獣様による、逆転溺愛スローライフが幕を開ける!