異世界転移したと思ったら、実は乙女ゲームの住人でした

冬野月子

文字の大きさ
31 / 62
第4章 もう一つの魔力

02

しおりを挟む
「…は?」
「ル、ルーチェ?!」
さあっとロゼは血の気が引いていった。
「殿下にそんな事したの?!」
「だってホンット子どもみたいな我儘言うのよ?!」
「殿下はまあ君じゃないのよ!」

「…マークン?」
呆然としていたランドは思わず聞き返した。
「あ…私の前世の弟です…」
ルーチェは答えた。
「我儘でいたずらばかりなのでいつもゴツンとやってたんですけれど…」
ルーチェは握った拳を軽く振り下ろした。
「…反射的に殿下にもやってしまいました」

ひかりの八歳下の弟の誠は、よく姉や雫にちょっかいを掛けてはひかりに制裁されていた。
その弟とユークがかぶってしまい、無意識に手が出ていたのだ。

「それで…どうしたの…?」
「…殿下が呆然としていたのでその隙に出てきました」
あの時のユークの顔は…正直思い出すと笑ってしまうけれど。


「そんな…事して…大丈夫なの?」
ロゼは声を震わせた。
さすがに侍女が王太子に手を挙げるなど…まず過ぎるはずだ。
「———クビで済むといいけどね…」
苦笑まじりにランドは言った。

「クビで済んでも…殿下に手を出したと知られたら再就職先探すのも難しいかあ」
はあ、とルーチェはため息をついた。

「だ、大丈夫よ」
ロゼはルーチェの腕を掴んだ。
「もしもそうなったら…うちで雇ってもらえるようお父様にお願いするわ。私付きの侍女にしてもらうから」
「ロゼ様…」
思わずルーチェはロゼに抱きついた。

「うち…貧乏で家に帰っても迷惑がられるだけなんです…」
そもそもルーチェが王宮に働きにきたのも、食い扶持を減らすためだ。
貧乏貴族では良縁も望めないので王宮や有力貴族の元で働き、そこで出会いを得るのがルーチェ達下級貴族の娘の定番だった。

「ええ…ルーチェがあまり怒られないようお兄様にもお願いするわ」
そう言ってロゼもルーチェを抱きしめ返した。


「…あれ、君たち」
ふとランドは眉をひそめた。
「魔力が…強くなった?」

「え?」
「ちょっと、離れてみて」
ランドの言葉に二人は身体を離した。
「もう一度、さっきみたいに…ああ」
納得したようにランドは頷いた。
「二人とも魔力が強くなったね」

「魔力が強く…?」
ロゼとルーチェは顔を見合わせた。
「感じないかい」
「…分かりませんけれど…」
ぎゅう、とロゼはルーチェに抱きついた。
「こうしていると…心がふわっと軽くなるようで…とても落ち着きます」

「もう一度離れて。今度は手を重ねて、そこに意識を集中して。どう?」
「あ…」
ルーチェの手を握って目を閉じたロゼは口を開いた。
「何か…温かなものを感じるけれど…これが魔力…?」
それは幼い時に感じた兄や父の魔力とはまた別の感覚を覚えた。

「手を離して。ルーチェ、いいかい」
ランドはルーチェの手を取った。
触れた部分が光を帯びる。
「へえ、これは…」

「何か…分かったんですか」
「確かに心を落ち着かせるような…ルーチェの力は〝癒し〟のような効果があるんだな」
そう言ってランドは手を離した。

「そうか。ルーチェの力を使ってロゼの魔力への恐怖心を減らせれば…魔力を制御できるようになるかもしれないな」
「本当ですか」
「癒し…」
ルーチェは自分の手を見た。
「———まあ、その癒しの手で君は殿下を殴った訳だけど」
「…う…それは…」

「あ、あの…二百年前の王妃様も癒しの力を持っていたのですか」
ルーチェが落ち込んできたのでロゼは慌ててランドに尋ねた。
「さあ。王妃の力についての記述はどこにもなくてね。でも代わりに興味深い事を見つけたよ」
「それは…?」
その時、ドアをノックする音が聞こえた。


「失礼、ああルーチェ」
オリエンスが入ってきた。
「殿下の様子がおかしいんだけど、心当たりある?」

「え…おかしいとは…」
「何かものすごく落ち込んでるんだ」
ふう、とオリエンスは息を吐いた。

「落ち込んでいる…?」
「何を聞いても無言でね、仕事は止まってるし理由は分からないし…。君、さっきまで殿下と一緒にいたよね」
「…ええと…いましたけれど…」

「ルーチェ、ちょっと」
ランドはルーチェの耳に口を寄せた。
「拳を上げるんじゃなくて、殿下の手を握るんだ」
「…は?!」
「癒しの力で殿下を癒せるか試してみて」
「出来る訳ありませんって!」
ルーチェは思わず声を上げた。

「やらないとさっきの事、オリエンスにバラすけど」
「…う…」


「何かあったのか」
「……さあ?」
オリエンスに尋ねられ、ロゼは首を傾げた。
ユークが無言という事は、ルーチェがユークに拳を上げた事をオリエンスは知らないのだろう。

「ともかくルーチェ、戻ってくれ」
「…はい…」
「ルーチェ」
ロゼはルーチェの手を握りしめた。
「私付きの侍女になってくれるのも嬉しいけれど…それよりもお兄様たちの平穏のために殿下を〝攻略〟してきてね」
他の二人に聞こえないよう小声で囁く。
「攻略…って」
「だって殿下のルートなのでしょう?」
「…望んだ訳じゃないけど…」
「お兄様たちを助けて、お願い」
「———とりあえず戻ります」
ルーチェはため息をついた。
昔から…ひかりは雫の〝お願い〟に弱いのだ。




「頑張ってね、ルーチェ!」
閉ざされるドアに向かってロゼは声を掛けた。

「ルーチェに何を言ったの」
「秘密です」
ロゼはランドを振り返った。
「殿下…怒るのではなくて落ち込んでしまったのですね」
「よほど衝撃だったんだろうな。今まで唯一の王子として甘やかされてきたから、まさか侍女に手を挙げられるとは思いもしなかったんだろう」
クスクスとランドは笑った。
「まあ、これを機に反省してくれればいいが」
「そうですね…」
思い出したようにロゼは顔を上げた。

「あの、さっき言いかけた興味深い事とは…」

「ああ、過去の色持ちについて調べたんだけどね」
ランドは机の上に置いた一冊の本を手に取った。
「全員が男だったんだ」

「え」
「女性は二百年前の王妃と、君たち二人だけ。———ロゼが魔力を制御できないのも関係があるのかもしれないね」
パラパラと本をめくりながらランドはそう言った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

キズモノ転生令嬢は趣味を活かして幸せともふもふを手に入れる

藤 ゆみ子
恋愛
セレーナ・カーソンは前世、心臓が弱く手術と入退院を繰り返していた。 将来は好きな人と結婚して幸せな家庭を築きたい。そんな夢を持っていたが、胸元に大きな手術痕のある自分には無理だと諦めていた。 入院中、暇潰しのために始めた刺繍が唯一の楽しみだったが、その後十八歳で亡くなってしまう。 セレーナが八歳で前世の記憶を思い出したのは、前世と同じように胸元に大きな傷ができたときだった。 家族から虐げられ、キズモノになり、全てを諦めかけていたが、十八歳を過ぎた時家を出ることを決意する。 得意な裁縫を活かし、仕事をみつけるが、そこは秘密を抱えたもふもふたちの住みかだった。

推しの悪役令嬢を幸せにします!

みかん桜
恋愛
ある日前世を思い出したエレナは、自分が大好きだった漫画の世界に転生していることに気付いた。 推しキャラは悪役令嬢! 近くで拝みたい!せっかくなら仲良くなりたい! そう思ったエレナは行動を開始する。 それに悪役令嬢の婚約者はお兄様。 主人公より絶対推しと義姉妹になりたい! 自分の幸せより推しの幸せが大事。 そんなエレナだったはずが、気付けば兄に溺愛され、推しに溺愛され……知らない間にお兄様の親友と婚約していた。

至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます

下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。

【完結】『運命』を『気のせい』と答えたら、婚姻となりまして

うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
 ヴォレッカ・サミレットは、領地の危機をどうにかするために、三年ぶりに社交界へと婚姻相手を探しにやってきた。  第一にお金、次に人柄、後妻ではなく、できれば清潔感のある人と出会いたい。 そう思っていたのだが──。 「これは、運命だろうか……」 誰もが振り返るほどの美丈夫に、囁かれるという事態に。 「気のせいですね」 自身が平凡だと自覚があり、からかって遊ばれていると思って、そう答えたヴォレッカ。  だが、これがすべての始まりであった。 超絶平凡令嬢と、女性が苦手な美丈夫の織りなす、どこかかみ合わない婚姻ラブストーリー。 全43話+番外編です。

編み物好き地味令嬢はお荷物として幼女化されましたが、えっ?これ魔法陣なんですか?

灯息めてら
恋愛
編み物しか芸がないと言われた地味令嬢ニニィアネは、家族から冷遇された挙句、幼女化されて魔族の公爵に売り飛ばされてしまう。 しかし、彼女の編み物が複雑な魔法陣だと発見した公爵によって、ニニィアネの生活は一変する。しかもなんだか……溺愛されてる!?

モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します

みゅー
恋愛
乙女ゲームに、転生してしまった瑛子は自分の前世を思い出し、前世で培った処世術をフル活用しながら過ごしているうちに何故か、全く興味のない攻略対象に好かれてしまい、全力で逃げようとするが…… 余談ですが、小説家になろうの方で題名が既に国語力無さすぎて読むきにもなれない、教師相手だと淫行と言う意見あり。 皆さんも、作者の国語力のなさや教師と生徒カップル無理な人はプラウザバック宜しくです。 作者に国語力ないのは周知の事実ですので、指摘なくても大丈夫です✨ あと『追われてしまった』と言う言葉がおかしいとの指摘も既にいただいております。 やらかしちゃったと言うニュアンスで使用していますので、ご了承下さいませ。 この説明書いていて、海外の商品は訴えられるから、説明書が長くなるって話を思いだしました。

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】 23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも! そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。 お願いですから、私に構わないで下さい! ※ 他サイトでも投稿中

処理中です...