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火の章
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「ですから……殿下。話を聞いていますか」
「しつこいぞオスカー」
先を歩いていたルキウスは振り返ると不快げに眉をひそめた。
「その話なら何度も聞いている」
「ならば行動に移して下さい。もう十八歳だというのに候補となる者すらいないなど———」
「分かっていると言っているだろう」
ルキウスは相手の言葉を遮ると、癖のある赤毛を乱暴に掻き上げた。
「ですが殿下———」
「まあまあ、その辺でやめておけオスカー」
それまで黙って後ろを歩いていた近衛騎士ブライアン・マクナイトが口を開いた。
「お前の説教は俺も聞き飽きた」
「———」
王子付補佐官オスカー・エインズワースは大きくため息をついた。
「今日の夜会、きちんと御令嬢方のお相手をして下さいよ」
「…先に行く」
ふい、と二人に背を向けるとルキウスは速足で歩き出した。
「…あまりしつこいと逆効果じゃないのか」
ルキウスの背中を見送りながら、ブライアンは呟いた。
「私だって言いたくて言っている訳ではない」
オスカーはもう一度ため息をついた。
「殿下が早くお相手を決めないから小言も増えるのだ」
「しかしなあ。…正直、ここまでくると殿下本人に選ばせるのは難しいんじゃないのか」
「……私もそう思うが、陛下の御意向だ。仕方がない」
ルースウッド王国は、小さいながらも豊かな自然と穏やかな気候に恵まれた平和な国である。
その平和な王国で臣下達を悩ませている数少ない問題の一つが、王国唯一の王子ルキウスの花嫁探しだった。
これまで幾度も夜会や茶会など、見合いの場を設けてきていたが———そして国内の貴族の娘のほとんどと会っているのだが、王子のお眼鏡にかなう令嬢は未だ見つからなかった。
女性嫌いという訳ではないし、王子本人も探す気はあるようだったが、どうにも気に入る相手が現れないらしい。
———最終的には周囲の者が相応しい相手を選んで娶らせる事になるのだろうが、生涯を共にする相手なのだからなるべく本人に選ばせてやりたいという国王夫妻の親心もあり、既に成年を越えた歳となっても婚約者はおろか候補者すらいない状況だった。
「———ああ。そういえば、ウィリアム・マクファーソンが今日の夜会に珍しい娘を連れてくると言っていたな」
「ウィリアムが?」
ブライアンの言葉に、オスカーは首を傾げた。
「珍しいとは?」
「さあ。親戚としか聞いていないが」
「…まだ僅かでも望みはあるか」
長い廊下の遠くに見えるルキウスの背中を見つめ、オスカーは呟いた。
大広間は華やかな衣装を纏った人々の熱気に満ちていた。
———退屈だな。
階段を上がった先、大広間全体を見渡せる場所でルキウスは手すりに寄りかかり、空になったグラスを弄んでいた。
こんな所にいないで下に降りなければならないと———そう思うのだが、身体が動かなかった。
自分の立場は分かっているし、責任感もあるつもりだ。
幾人も引き合わされた令嬢達の中で、少しはいいと思った相手がいなかった訳でもない。
だがどうしても———この人だと言い切れる程には心が動かないのだ。
ふと、何かに呼ばれたような感覚を覚えルキウスは顔を上げた。
彷徨わせた視線が自然と引き寄せられるように向いた先に———金色の光を見つけた。
「しつこいぞオスカー」
先を歩いていたルキウスは振り返ると不快げに眉をひそめた。
「その話なら何度も聞いている」
「ならば行動に移して下さい。もう十八歳だというのに候補となる者すらいないなど———」
「分かっていると言っているだろう」
ルキウスは相手の言葉を遮ると、癖のある赤毛を乱暴に掻き上げた。
「ですが殿下———」
「まあまあ、その辺でやめておけオスカー」
それまで黙って後ろを歩いていた近衛騎士ブライアン・マクナイトが口を開いた。
「お前の説教は俺も聞き飽きた」
「———」
王子付補佐官オスカー・エインズワースは大きくため息をついた。
「今日の夜会、きちんと御令嬢方のお相手をして下さいよ」
「…先に行く」
ふい、と二人に背を向けるとルキウスは速足で歩き出した。
「…あまりしつこいと逆効果じゃないのか」
ルキウスの背中を見送りながら、ブライアンは呟いた。
「私だって言いたくて言っている訳ではない」
オスカーはもう一度ため息をついた。
「殿下が早くお相手を決めないから小言も増えるのだ」
「しかしなあ。…正直、ここまでくると殿下本人に選ばせるのは難しいんじゃないのか」
「……私もそう思うが、陛下の御意向だ。仕方がない」
ルースウッド王国は、小さいながらも豊かな自然と穏やかな気候に恵まれた平和な国である。
その平和な王国で臣下達を悩ませている数少ない問題の一つが、王国唯一の王子ルキウスの花嫁探しだった。
これまで幾度も夜会や茶会など、見合いの場を設けてきていたが———そして国内の貴族の娘のほとんどと会っているのだが、王子のお眼鏡にかなう令嬢は未だ見つからなかった。
女性嫌いという訳ではないし、王子本人も探す気はあるようだったが、どうにも気に入る相手が現れないらしい。
———最終的には周囲の者が相応しい相手を選んで娶らせる事になるのだろうが、生涯を共にする相手なのだからなるべく本人に選ばせてやりたいという国王夫妻の親心もあり、既に成年を越えた歳となっても婚約者はおろか候補者すらいない状況だった。
「———ああ。そういえば、ウィリアム・マクファーソンが今日の夜会に珍しい娘を連れてくると言っていたな」
「ウィリアムが?」
ブライアンの言葉に、オスカーは首を傾げた。
「珍しいとは?」
「さあ。親戚としか聞いていないが」
「…まだ僅かでも望みはあるか」
長い廊下の遠くに見えるルキウスの背中を見つめ、オスカーは呟いた。
大広間は華やかな衣装を纏った人々の熱気に満ちていた。
———退屈だな。
階段を上がった先、大広間全体を見渡せる場所でルキウスは手すりに寄りかかり、空になったグラスを弄んでいた。
こんな所にいないで下に降りなければならないと———そう思うのだが、身体が動かなかった。
自分の立場は分かっているし、責任感もあるつもりだ。
幾人も引き合わされた令嬢達の中で、少しはいいと思った相手がいなかった訳でもない。
だがどうしても———この人だと言い切れる程には心が動かないのだ。
ふと、何かに呼ばれたような感覚を覚えルキウスは顔を上げた。
彷徨わせた視線が自然と引き寄せられるように向いた先に———金色の光を見つけた。
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