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火の章
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どうしてこういう事になったのだろう。
王宮へと向かう馬車に揺られながらアリアは思った。
姉に会うために初めて領地を離れ、王都へと出てきて。
義兄に連れて行かれた夜会でルキウス王子と出会い…求婚されて。
綺麗なドレスや宝石を身に付け、数日おきに王宮へと通っている。
少し前まで全く想像すらした事のない今の状況に、アリアは困惑を感じていた。
「———」
無意識に大きなため息が漏れる。
『アリア』
『どうしたの?アリア』
『疲れたの?』
いつの間にか数個の小さな光がアリアの周りを飛び交っていた。
「…そうね…疲れたのかしら」
『疲れたら休もうよ』
『帰る?』
『森に帰る?』
『帰りたい?』
「森……」
ふと胸の奥に鈍い痛みを感じた。
領地に帰ればまた今まで通りの生活が待っているだろうか。
家族に囲まれて、穏やかなあの森で精霊達と過ごす時間に。
けれどあすこには———
「…いいえ、森には帰らないわ」
『どうして?』
「だって帰ったら…会えなくなるもの」
『誰に?』
「姉様や…ルキウス様に」
その名前を口にすると、胸にさっきとはまた違う疼きを覚えた。
『王子に会えないといや?』
『アリアは王子が好きなの?』
「———うーん…」
好きといえば好きなのだろうけれど。
———どういう「好き」なのかが分からなかった。
初めて会った時は突然抱きしめられたりキスをしてきたり、乱暴な人なのかとも思ったけれど。
何度も会っているとサラマンダーの言っていた通り、本当は穏やかで優しく、そして素直な人なのだと分かる。
エイダの言うようにいつもルキウスの事を考えている事はないけれど———一緒に過ごす時間は楽しいし、帰るのが名残惜しいと思う時もある。
「好きかどうかは分からないけれど…会えなくなったら寂しいわ」
『じゃあシルフは?』
光がくるくるとアリアの周りを回る。
『シルフには会えなくていいの?』
「…シルフは———シルフにも会いたいけれど…」
心の奥にある見えそうで見えない感情を探るようにアリアは首を傾けた。
「シルフと…ルキウス様は…違うから…」
『違うの?』
『何が違うの?』
「うーん……」
『こら』
ひときわ大きな赤い光が現れた。
『あまりアリアを苛めるな』
『サラマンダー』
『苛めていないよ』
『アリアとお話、楽しいの』
『困らせるような話をするな』
赤い光は人の形になると、アリアの目の前に腰を下ろした。
『悪いな、こいつら人間と話せるのが珍しいから』
「いえ…」
『人間だからじゃないよ』
『アリアがいいの』
『分かったから静かにしろ』
サラマンダーが乱暴に払うと、飛び回っていた光はかき消えた。
『アリア。大丈夫か』
サラマンダーはアリアの前髪をかき上げた。
『顔色がよくない』
「サラマンダー…私…」
藍色の瞳がサラマンダーを見上げた。
「このまま…ルキウス様と結婚するの?」
『嫌なのか』
「嫌ではないけれど…分からないの」
いつもよりも潤んだ瞳が暗く光る。
「ルキウス様への気持ちも…お妃になるという事も…いくら考えても……でも早く好きになれって…」
『そうか。アリアにはまだ早かったか』
ふわりと温かな光がアリアを包み込んだ。
『精霊にも人間にも振り回され続けて。可哀想に』
「…いいえ…」
『少し休むといい』
サラマンダーの声が耳元で響くと、アリアの瞼はゆっくりと落ちていった。
「アリア?!」
サラマンダーに抱きかかえられたアリアの姿に、ルキウスは慌てて駆け寄った。
『眠っているだけだ。少し熱があるが』
「熱?!」
『疲れが出たのだろう』
「アリア…」
ルキウスはそっとアリアの額に手を当てた。
発熱した白い肌はうっすらと赤みを帯びていた。
『アリアは風の精霊が大事にし過ぎたせいで人の世界の事に疎い。お前達の思惑に心がついていかないんだ』
ルキウスと後ろに控えるブライアンを見てサラマンダーは言った。
『彼女を急かすな。熱だけで済めば良いが、あまりに体調を崩すような事があると風の森へ帰さなければならなくなる』
「帰す…?」
『加護付きだからな。風の精霊を怒らせる訳にはいかないんだ』
眠るアリアに視線を落としてサラマンダーはそう言った。
王宮へと向かう馬車に揺られながらアリアは思った。
姉に会うために初めて領地を離れ、王都へと出てきて。
義兄に連れて行かれた夜会でルキウス王子と出会い…求婚されて。
綺麗なドレスや宝石を身に付け、数日おきに王宮へと通っている。
少し前まで全く想像すらした事のない今の状況に、アリアは困惑を感じていた。
「———」
無意識に大きなため息が漏れる。
『アリア』
『どうしたの?アリア』
『疲れたの?』
いつの間にか数個の小さな光がアリアの周りを飛び交っていた。
「…そうね…疲れたのかしら」
『疲れたら休もうよ』
『帰る?』
『森に帰る?』
『帰りたい?』
「森……」
ふと胸の奥に鈍い痛みを感じた。
領地に帰ればまた今まで通りの生活が待っているだろうか。
家族に囲まれて、穏やかなあの森で精霊達と過ごす時間に。
けれどあすこには———
「…いいえ、森には帰らないわ」
『どうして?』
「だって帰ったら…会えなくなるもの」
『誰に?』
「姉様や…ルキウス様に」
その名前を口にすると、胸にさっきとはまた違う疼きを覚えた。
『王子に会えないといや?』
『アリアは王子が好きなの?』
「———うーん…」
好きといえば好きなのだろうけれど。
———どういう「好き」なのかが分からなかった。
初めて会った時は突然抱きしめられたりキスをしてきたり、乱暴な人なのかとも思ったけれど。
何度も会っているとサラマンダーの言っていた通り、本当は穏やかで優しく、そして素直な人なのだと分かる。
エイダの言うようにいつもルキウスの事を考えている事はないけれど———一緒に過ごす時間は楽しいし、帰るのが名残惜しいと思う時もある。
「好きかどうかは分からないけれど…会えなくなったら寂しいわ」
『じゃあシルフは?』
光がくるくるとアリアの周りを回る。
『シルフには会えなくていいの?』
「…シルフは———シルフにも会いたいけれど…」
心の奥にある見えそうで見えない感情を探るようにアリアは首を傾けた。
「シルフと…ルキウス様は…違うから…」
『違うの?』
『何が違うの?』
「うーん……」
『こら』
ひときわ大きな赤い光が現れた。
『あまりアリアを苛めるな』
『サラマンダー』
『苛めていないよ』
『アリアとお話、楽しいの』
『困らせるような話をするな』
赤い光は人の形になると、アリアの目の前に腰を下ろした。
『悪いな、こいつら人間と話せるのが珍しいから』
「いえ…」
『人間だからじゃないよ』
『アリアがいいの』
『分かったから静かにしろ』
サラマンダーが乱暴に払うと、飛び回っていた光はかき消えた。
『アリア。大丈夫か』
サラマンダーはアリアの前髪をかき上げた。
『顔色がよくない』
「サラマンダー…私…」
藍色の瞳がサラマンダーを見上げた。
「このまま…ルキウス様と結婚するの?」
『嫌なのか』
「嫌ではないけれど…分からないの」
いつもよりも潤んだ瞳が暗く光る。
「ルキウス様への気持ちも…お妃になるという事も…いくら考えても……でも早く好きになれって…」
『そうか。アリアにはまだ早かったか』
ふわりと温かな光がアリアを包み込んだ。
『精霊にも人間にも振り回され続けて。可哀想に』
「…いいえ…」
『少し休むといい』
サラマンダーの声が耳元で響くと、アリアの瞼はゆっくりと落ちていった。
「アリア?!」
サラマンダーに抱きかかえられたアリアの姿に、ルキウスは慌てて駆け寄った。
『眠っているだけだ。少し熱があるが』
「熱?!」
『疲れが出たのだろう』
「アリア…」
ルキウスはそっとアリアの額に手を当てた。
発熱した白い肌はうっすらと赤みを帯びていた。
『アリアは風の精霊が大事にし過ぎたせいで人の世界の事に疎い。お前達の思惑に心がついていかないんだ』
ルキウスと後ろに控えるブライアンを見てサラマンダーは言った。
『彼女を急かすな。熱だけで済めば良いが、あまりに体調を崩すような事があると風の森へ帰さなければならなくなる』
「帰す…?」
『加護付きだからな。風の精霊を怒らせる訳にはいかないんだ』
眠るアリアに視線を落としてサラマンダーはそう言った。
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