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エピローグ
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『この国も大きくなったな』
「そうだのう」
城に立つ塔の窓から二人の男が眼下に広がる街を眺めていた。
「やっと戦争は終わったが…儂はすっかり歳を取ってしまった」
皺だらけの己の手を見てそう言うと、老人は隣に立つ赤毛の青年を見上げた。
「お主は初めて会った時と変わらないのう、サラマンダー」
『人と精霊は寿命が違うからな』
「…精霊の寿命とはどれくらいだ」
『さあ。環境次第だが千年は超えるだろう』
「そうか……随分と長いのう」
老人は視線を窓の外へと送った。
「サラマンダー。頼みがあるのだが」
『何だ』
「儂が死んだ後も…この国を見守ってくれないか」
窓の外を見つめたまま老人は言った。
「まだまだこの国は小さくて弱い。周囲の国々も狙っている。ずっととは言わぬが安泰の世になるまでお主の力を貸して欲しい」
『代わりにこの塔をくれるか』
やや間があってサラマンダーは答えた。
「この塔を?」
『ここからの眺めは気に入っている』
「…塔だけでよいのか?」
『充分だ』
見上げた老人と視線を合わせる。
『約束しよう。この国とお前の一族を守護すると』
「———感謝する。これで儂も安心して隠居できる」
満足そうに頷くと、ルースウッド王国初代国王は再び視線を城下へ戻した。
サラマンダーはうっすらと目を開けた。
塔の前庭で温かな日差しに微睡むうちに夢を見ていたようだった。
翼を羽ばたかせ、起き上がろうとして———腕の中で丸くなっている幼子に気づいた。
柔らかそうな赤毛と白い肌を持つ彼は、幸せそうな笑みを浮かべたまま眠っていた。
『また抜け出して来たか』
起きるのを諦めて再び目を閉じる。
「またルークはここにいるのね」
しばらくして聞こえた声に目を開けると微笑を湛えた女性が立っていた。
女性は幼子を抱き上げるとその頬を優しく撫でた。
「ん…」
「ルーク。お父様がお帰りになるからお迎えしましょう」
目を覚ました幼子にそう言って額にキスを落とす。
「……やー」
幼子はもがくと母親の腕から抜けだし、サラマンダーにしがみついた。
「サラマンダーといる」
「まあ、困ったわねえ」
『アリア。もっと強く躾てくれ。ルキウスに嫉妬されるのは私なんだ』
「ごめんなさいね。ルーク、サラマンダーが困っているわ。ね、いらっしゃい」
幼子は不服そうに頬を膨らませたが、今度は大人しく母親の腕に収まった。
結婚し王太子となったルキウスとアリアの間に生まれた王子ルークは、物心がつくより前からサラマンダーに懐いていた。
己の足で自由に歩けるようになってからはサラマンダーの姿を探して毎日のように王宮中を走り回る。
人の姿であやしているとルキウスが「どちらが父親が分からない」と拗ねるので、最近はいつでも本来の姿で過ごすようになってしまったが、大きな精霊獣が幼い王子の子守をする姿は城の人間達の目には微笑ましく映るようだった。
「そういえば、クレイグ様から手紙が届いたの」
ルークを抱き上げたアリアが言った。
『クレイグ?ウンディーネの連れ合いか』
「ええ。後継者が決まったからやっとウンディーネの住む西の湖に行かれるんですって。二人が喧嘩するたびに大雨が降るってウィリアム義兄様が嘆いていたから。これでマクファーソン領は落ち着くわね」
『そう何度も喧嘩をするのに別れないのか』
「喧嘩するほど仲が良いという事ね」
『お前達はあれきり全くしないな』
「ふふ、よほどシルフの仕打ちが堪えたのね」
結婚してすぐの頃、些細な事で小さな喧嘩になった事があった。
本当に些細な理由だったが———初めての出来事に動揺したアリアの感情の乱れを察したシルフが直ぐに風の森へと連れ帰り、新婚早々十日近くも会えなくなってしまった。
以来、ルキウスは溺愛といっていいほどにアリアを甘やかすようになったのだ。
『———いずれにせよ平和なら良い』
「ふふっそうね。じゃあルーク、行きましょう」
「サラマンダーまたね」
手を振るルークに尾を振って応えると、サラマンダーは翼を広げ、塔の中へと入っていった。
窓の外に広がる街並みは、昔に見た時よりもずっと広がり活気に満ちていた。
戦の時代は遥か昔へと過ぎ去り、約束の期限だった安泰の世はとっくに手に入っていたが、ここでの生活は気に入っている。
自分に懐く幼い王子の行く末も気になる。
———亡き友との約束を守るのもいいが、新たな友と新しい約束をするのもいいかもしれない。
己の思いつきに満足すると、サラマンダーは再び午睡を楽しむ事にした。
おわり
「そうだのう」
城に立つ塔の窓から二人の男が眼下に広がる街を眺めていた。
「やっと戦争は終わったが…儂はすっかり歳を取ってしまった」
皺だらけの己の手を見てそう言うと、老人は隣に立つ赤毛の青年を見上げた。
「お主は初めて会った時と変わらないのう、サラマンダー」
『人と精霊は寿命が違うからな』
「…精霊の寿命とはどれくらいだ」
『さあ。環境次第だが千年は超えるだろう』
「そうか……随分と長いのう」
老人は視線を窓の外へと送った。
「サラマンダー。頼みがあるのだが」
『何だ』
「儂が死んだ後も…この国を見守ってくれないか」
窓の外を見つめたまま老人は言った。
「まだまだこの国は小さくて弱い。周囲の国々も狙っている。ずっととは言わぬが安泰の世になるまでお主の力を貸して欲しい」
『代わりにこの塔をくれるか』
やや間があってサラマンダーは答えた。
「この塔を?」
『ここからの眺めは気に入っている』
「…塔だけでよいのか?」
『充分だ』
見上げた老人と視線を合わせる。
『約束しよう。この国とお前の一族を守護すると』
「———感謝する。これで儂も安心して隠居できる」
満足そうに頷くと、ルースウッド王国初代国王は再び視線を城下へ戻した。
サラマンダーはうっすらと目を開けた。
塔の前庭で温かな日差しに微睡むうちに夢を見ていたようだった。
翼を羽ばたかせ、起き上がろうとして———腕の中で丸くなっている幼子に気づいた。
柔らかそうな赤毛と白い肌を持つ彼は、幸せそうな笑みを浮かべたまま眠っていた。
『また抜け出して来たか』
起きるのを諦めて再び目を閉じる。
「またルークはここにいるのね」
しばらくして聞こえた声に目を開けると微笑を湛えた女性が立っていた。
女性は幼子を抱き上げるとその頬を優しく撫でた。
「ん…」
「ルーク。お父様がお帰りになるからお迎えしましょう」
目を覚ました幼子にそう言って額にキスを落とす。
「……やー」
幼子はもがくと母親の腕から抜けだし、サラマンダーにしがみついた。
「サラマンダーといる」
「まあ、困ったわねえ」
『アリア。もっと強く躾てくれ。ルキウスに嫉妬されるのは私なんだ』
「ごめんなさいね。ルーク、サラマンダーが困っているわ。ね、いらっしゃい」
幼子は不服そうに頬を膨らませたが、今度は大人しく母親の腕に収まった。
結婚し王太子となったルキウスとアリアの間に生まれた王子ルークは、物心がつくより前からサラマンダーに懐いていた。
己の足で自由に歩けるようになってからはサラマンダーの姿を探して毎日のように王宮中を走り回る。
人の姿であやしているとルキウスが「どちらが父親が分からない」と拗ねるので、最近はいつでも本来の姿で過ごすようになってしまったが、大きな精霊獣が幼い王子の子守をする姿は城の人間達の目には微笑ましく映るようだった。
「そういえば、クレイグ様から手紙が届いたの」
ルークを抱き上げたアリアが言った。
『クレイグ?ウンディーネの連れ合いか』
「ええ。後継者が決まったからやっとウンディーネの住む西の湖に行かれるんですって。二人が喧嘩するたびに大雨が降るってウィリアム義兄様が嘆いていたから。これでマクファーソン領は落ち着くわね」
『そう何度も喧嘩をするのに別れないのか』
「喧嘩するほど仲が良いという事ね」
『お前達はあれきり全くしないな』
「ふふ、よほどシルフの仕打ちが堪えたのね」
結婚してすぐの頃、些細な事で小さな喧嘩になった事があった。
本当に些細な理由だったが———初めての出来事に動揺したアリアの感情の乱れを察したシルフが直ぐに風の森へと連れ帰り、新婚早々十日近くも会えなくなってしまった。
以来、ルキウスは溺愛といっていいほどにアリアを甘やかすようになったのだ。
『———いずれにせよ平和なら良い』
「ふふっそうね。じゃあルーク、行きましょう」
「サラマンダーまたね」
手を振るルークに尾を振って応えると、サラマンダーは翼を広げ、塔の中へと入っていった。
窓の外に広がる街並みは、昔に見た時よりもずっと広がり活気に満ちていた。
戦の時代は遥か昔へと過ぎ去り、約束の期限だった安泰の世はとっくに手に入っていたが、ここでの生活は気に入っている。
自分に懐く幼い王子の行く末も気になる。
———亡き友との約束を守るのもいいが、新たな友と新しい約束をするのもいいかもしれない。
己の思いつきに満足すると、サラマンダーは再び午睡を楽しむ事にした。
おわり
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