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第33話 嬉しかったこと
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シルフィアの柔らかな髪に頬を埋め、アークレイは大きく息を吐き出す。
こんなにも穏やかな気持ちになれたのは久しぶりだった。
華奢な細い身体を強く抱きしめると、背に回されたシルフィアの腕が戸惑いながらもそれに応えてくれる。
そんな些細なことが心震えるほどに嬉しい。
意識していなかったが、王になってからというもの、常に緊張から気を張っていたのかもしれない。
シルフィアに抱かれると、こんなにも癒されて安堵する自分がいる。
この腕を手放したくないと思うほどに。
シルフィアは、アークレイの腕の中にいることをどう思っているのだろうか。
同じように想ってくれているのだろうか。
「シルフィア」
「はい」
名を呼べば、アークレイの肩口に頬を寄せていたシルフィアの顔が上げられ、まっすぐにその碧玉の瞳で見上げてくる。
「俺のことを慕っていると、好きだと言ってくれたな?」
その瞳を覗き込むように問いかければ、シルフィアは目元を染めた。
動揺したように瞳を忙しなく動かし、頬を染めながらも、きゅっと唇を噛み締めて、「はい・・・・・」と小さな声で頷いた。
「シルフィアは、俺のどこを好きになってくれたのだ?」
「え・・・・・・」
「俺の何がシルフィアの心を惹いたのか興味があるな」
「そ、そのような・・・・・・」
恥かしがるシルフィアが愛しくて、頬に軽く口づければ、ますます顔を赤く染めて俯いてしまう。
「シルフィア、教えてくれないか?」
「そのようなこと、申し上げられません・・・・・・」
「何故だ?」
「は・・・・・恥かしいからです・・・・・」
「俺は先ほど、シルフィアを愛しく想う理由を散々貴方に言っただろう?俺は恥かしくなどなかったぞ?だから・・・・・シルフィアも俺に教えてくれ」
シルフィアは戸惑いの表情でアークレイをちらりと見上げ、だが未だ逡巡するように目を伏せてしまう。
そんなシルフィアに、アークレイはわざと悲しげな表情を浮かべて嘆息する。
「駄目なのか?やはり、シルフィアを愛しいと想う気持ちは、俺のほうがずっと強いのだな」
「そっ!そのようなことはございません!」
勢い良く顔を上げたシルフィアは、かっと目を見開いた。
「わ、私のほうが、ずっと強くアークレイ様のことを愛しています!」
熱烈なシルフィアの告白にアークレイは驚き、きょとんと固まったまま目を見開いてしまう。
そんなアークレイの様子にハッと我に返ったシルフィアは、一層顔を真っ赤にさせ、両手を口にあてて慌てふためき、緩んだアークレイの腕の中から逃げ出してしまう。
「い、今のは!違います!違います!お忘れください!」
恥かしさのためか、シルフィアはそのままシーツに顔を埋めてしまった。
無意識のうちに思わず本音が出てしまったのだろう。
「シルフィア・・・・・・」
驚いたアークレイだったが、シルフィアの熱い想いに嬉しさがこみあげてくるのを止められなかった。
シーツに倒れこみ、顔を隠したままのシルフィアの肩にそっと触れれば、びくっとその肩が大きく揺れる。
「シルフィア、顔を上げてくれ」
だが、シルフィアは顔を埋めたまま、嫌とばかりに大きく首を振る。
そのたびに、柔らかな白金の髪がサラサラとシーツにこぼれおちていく。
その髪をそっとかき上げて白い項に口づけを落とせば、シルフィアは肩を竦めて慌てたように顔を上げた。
真っ赤に染まった頬と、潤んだ碧玉の瞳、切なげに寄せられた眉根。
本人は全くの無意識なのだろうが、思わず息を飲んでしまうほどの色香に満ちていた。
「え?あっ・・・」
アークレイはシルフィアの肩をぐいっと押し、勢い良くシーツの上に仰向けにさせると、両手首掴んでシーツに押さえつけた。
「アークレッ・・・・・っ・・・・・」
驚くシルフィアがアークレイの名を呼び終えるよりも前に覆いかぶさり、その唇を塞ぐように強く口づけた。
何度も何度も、軽くついばむように。
何度も何度も、深く貪るかのように。
幾度となく重ねあう向きを変えながら。
口づけの合間に、時々漏れるシルフィアの吐息が耳をくすぐった。
高い音をたてて唇を離すと、肩で息をしながら、トロンとした視線定まらぬ表情でアークレイを見上げてくる。
「どうだ?俺のほうがずっとシルフィアを愛しているぞ?」
滑らかな頬を撫でれば、シルフィアは少し拗ねたような表情になる。
「・・・・・・アークレイ様は、酷い方です・・・・・」
「酷い?先ほどもそれを言われたな?そのような酷い男のことが、シルフィアは好きなのか?」
口の端を上げて笑えば、未だ唇を尖らせたまま、だが目元をうっすらと染めてシルフィアは小さく頷いた。
「はい・・・・・・好き、です」
「酷い男なのに?」
本気でそう思われているわけではないことはもちろんわかっていたが、顔を近づけて揶揄して問えば、シルフィアは恥かしそうに目を伏せてもう一度頷いた。
「はい・・・・・・アークレイ様のお言葉や仕草に、私はいとも容易く心を奪われてしまいます。アークレイ様は、酷い方です」
「は・・・・・・ははははっ!」
一瞬何を言われたのか理解出来なかったが、その言葉がじわじわと脳内に浸透し、全てを理解し受け入れると、思わず大きな声で笑ってしまっていた。
「わっ、笑いごとではございません!」
馬鹿にされたとでも思ったのだろう。
シルフィアはかあっと顔を紅潮させて、怒った顔でアークレイの胸を軽く叩いてくる。
だが、そんな表情も全てがアークレイにとっては可愛いだけだ。
「そう怒るな。何も馬鹿にしているわけではない」
「ですがっ」
「馬鹿にするどころか・・・・・あー・・・・・もう、貴方という人は・・・・・・」
くすくすと笑いながら、シルフィアの身体をぎゅっと抱きしめる。
「シルフィア・・・・・・貴方という人は、何て純粋で可愛い人なのだ」
「え・・・・・・?」
「まったく・・・・・・貴方こそ酷い人だ。俺を何度恋に落とせば気が済むのだ」
少し身体を離したアークレイは、恥かしそうに、だが戸惑うような表情のシルフィアに笑みを返し、音をたてて軽く口づけた。
「ますますシルフィアに聞きたくなったな」
「何を、でございますか?」
「俺のどこを好きになってくれたのだ?俺の顔か?」
「え?」
「まあ、父譲りではあるが、シルフィアを惹き付けるほどのものでもないだろう・・・・・男の俺としては、ウォーレンやオーガスティン団長のような、もっと男らしい顔立ちに憧れるがな。では性格か?よくウォーレンには、責任感が強すぎて頑固だと言われるのだが。はは、これでは少しも良いところはないな」
はははと笑ったアークレイに、シルフィアは驚いたように目を見開いた。
「そのようなことはございません!」
僅かに身体を起こしたシルフィアは、小刻みに首を振り、真剣な眼差しでシルフィアをまっすぐに見つめてくる。
「アークレイ様は・・・・・・素敵な方です」
「・・・・・・シルフィア」
「謁見の間で初めてお会いしたとき、あの・・・・・・国王たる貴方様にこのようなことを申し上げるのは失礼かもしれませんが・・・・・・」
「良い。話してくれ」
先を促すように親指の腹で頬をなでれば、少しだけ恥かしそうに目元を染めて小さく頷いた。
「とても素敵な方だと思いました。端正で、凛々しくて、精悍で、気品があって、同じ男として少し羨ましいとも思ったほどです」
「ほう?」
シルフィアからそのようなことを言われて、アークレイも嬉しくないはずがない。
「立ち居振る舞いは堂々とされており、王として品格と自信を兼ね備えられておられる、大変ご立派な国王陛下だと思いました」
「シルフィアにそのように言ってもらえると嬉しいものだな。自分では欠点は見えても、美点はよくわからぬから尚更だ」
「そのような・・・・・・私には、アークレイ様に欠点があるとは思えません。優しくて、包容力があって、ご家族を大切になさっている・・・・・一方で、国のため、民のために力を尽くそうとされる強い意思をお持ちで・・・・・・素晴らしい方だと思います」
「はは、買いかぶりすぎではないのか?」
正直に言えば、アークレイは、自分は決して完璧な人間ではないと思っている。
性格的に弱い面があることもわかっているし、苦手なことも少なからずある。
そのような一面を他人に見せること自体、己が弱いためでもあり、だからこそ常に完璧であろうと振る舞うのかも知れない。
今までは、そのような弱い顔を誰にも見せてこなかった。
王妃たちにも子供たちにも、周囲の家臣たちにも。
だが、シルフィアには、知らず知らずのうちにさらけ出していた。
恐らく、シルフィアならば、弱い自分を受け止めて包み込んでくれる何かがあるのだと、無意識下で気づいていたのかも知れない。
「では、もうその頃から俺のことを好いてくれていたのか?」
一目惚れというものだろうか。
そういう意味では、アークレイも謁見の間で初めてシルフィアと出会ったときに、この透き通るような美貌に目を奪われていたのは事実だ。
「わかりません・・・・・・国王陛下として素晴らしい方だとは思いましたし、このようなご立派な方の正妃になるのだと安堵し、嬉しくもありましたが・・・・・・自分のような者が正妃になって本当に良いのだろうかと恐れ多くて、戸惑いや不安もございました」
どこまでも謙虚なシルフィアに思わず苦笑がもれる。
自分の容姿も性格も才能も立場も、もっと誇っても、もっと自惚れてもいいのに。
「この国に来て、アークレイ様から嬉しいことをたくさん頂戴いたしました」
「嬉しいこと?」
「はい。私には勿体無いほどのたくさんのことを、アークレイ様から頂戴いたしました。その優しさに触れるうちに、次第に惹かれていったのだと思います」
「ほう?例えばどのような?」
「はい。王宮の庭園にお連れいただいたことも嬉しかったですし、メリアールと私の剣をセンシシアからお持ちいただいたことも嬉しかったです。あと、『フェリス・ローズ』にお連れいただいたことも。あのように、お店で買い物をすることは初めてのことでしたので、とても楽しかったです」
シルフィアとてセンシシアの王族だ。
街中に出て買い物をする機会など今までなかったのだろう。
キラキラと楽しそうに瞳を輝かせていたシルフィアを思い出す。
「離宮にお連れいただいたこと。そして、母上様・・・・・・エレーヌ様にお会いできたことも嬉しかったです。お綺麗で、お優しい方でした」
「母も貴方に会えてとても嬉しそうだった。帰り際、式を終えて落ち着いたら、シルフィアをまたお連れするようにとしつこく言われたからな」
「真でございますか?」
手を合わせて指先を口元にあて、「それも嬉しいことのひとつですね」と、シルフィアは本当に嬉しそうに微笑んだ。
「あと・・・・・・一番嬉しかったのは、お名前を呼ばせていただけたことです」
「名前?」
「はい。アークレイ様の、王名ではない真のお名前です。おこがましいことだとは思いますが、特別なその名を呼ばせていただけたことが嬉しかったです」
「それは俺も同じだ。シルフィアに名を呼んで貰えて嬉しかった」
軽く頬に口づけをすれば、シルフィアは恥かしそうに目元を細めてはにかむように小さく微笑む。
「他には?他にもシルフィアが嬉しかったことはあるのか?」
「はい。図々しくも、政にお役にたちたいと申し出た私の願いを叶えてくださいました。それに、合同演習にもお連れくださって・・・・・・弓を引くアークレイ様の姿はとても格好よかったです」
「はは、そうか?」
シルフィアに誉められると妙にくすぐったいが、アークレイも悪い気はしない。
世辞で言っているわけではなく、シルフィアは、心からそう言ってくれているから尚更だ。
「はい。あと、剣・・・・・・アークレイ様の大切な剣を私にお預けくださいました。驚きましたけど、嬉しかったです」
「まあ、余程のことがない限り、俺が他人に剣を預けたのは、後にも先にもシルフィアだけだな」
だから、あの場にいた主だった騎士は、総騎士団長をはじめ、表情には出していなかったが、アークレイの珍しい行動に随分と驚いている様子だった。
あのウォーレンでさえも然りだ。
「本当に私などがお預かりしてよかったのでしょうか・・・・・・」
「構わぬよ。剣は俺の魂であり俺の分身だ。だからこそ、シルフィアに預けたいと思ったのだから。迷惑だったか?」
「迷惑だなどということはございません。アークレイ様からそのように信頼いただいて嬉しかったです。ですから、私も・・・・・・」
シルフィアは、ふと自分の腰に手をあて、何やら不思議そうな表情になる。
腰にあるはずの目的のものが無いということに違和感を覚えているようだ。
「シルフィアの剣は、俺が外した。枕元に置いてある」
指差せば、少し身体をずらして頭上を見上げ、そこに置かれた自身の剣を視界にとらえ、ほっと安堵したような表情に変わった。
「私にとってもこの剣は大切なものです・・・・・・人を傷つけ殺めるものでもございますが、この剣はアークレイ様をお護りするためのものでもあり、私自身を護るためのものです。そのように・・・・・・剣を持つことの意味を、アークレイ様は私にお与えてくださいました。それも嬉しかったことの一つです」
「シルフィア・・・・・・」
恥かしそうにしながらもアークレイへの想いを隠さず、真摯に気持ちを伝えてくれるシルフィアに、アークレイの心の内はシルフィアへの愛しさが募るばかりだった。
こんなにも穏やかな気持ちになれたのは久しぶりだった。
華奢な細い身体を強く抱きしめると、背に回されたシルフィアの腕が戸惑いながらもそれに応えてくれる。
そんな些細なことが心震えるほどに嬉しい。
意識していなかったが、王になってからというもの、常に緊張から気を張っていたのかもしれない。
シルフィアに抱かれると、こんなにも癒されて安堵する自分がいる。
この腕を手放したくないと思うほどに。
シルフィアは、アークレイの腕の中にいることをどう思っているのだろうか。
同じように想ってくれているのだろうか。
「シルフィア」
「はい」
名を呼べば、アークレイの肩口に頬を寄せていたシルフィアの顔が上げられ、まっすぐにその碧玉の瞳で見上げてくる。
「俺のことを慕っていると、好きだと言ってくれたな?」
その瞳を覗き込むように問いかければ、シルフィアは目元を染めた。
動揺したように瞳を忙しなく動かし、頬を染めながらも、きゅっと唇を噛み締めて、「はい・・・・・」と小さな声で頷いた。
「シルフィアは、俺のどこを好きになってくれたのだ?」
「え・・・・・・」
「俺の何がシルフィアの心を惹いたのか興味があるな」
「そ、そのような・・・・・・」
恥かしがるシルフィアが愛しくて、頬に軽く口づければ、ますます顔を赤く染めて俯いてしまう。
「シルフィア、教えてくれないか?」
「そのようなこと、申し上げられません・・・・・・」
「何故だ?」
「は・・・・・恥かしいからです・・・・・」
「俺は先ほど、シルフィアを愛しく想う理由を散々貴方に言っただろう?俺は恥かしくなどなかったぞ?だから・・・・・シルフィアも俺に教えてくれ」
シルフィアは戸惑いの表情でアークレイをちらりと見上げ、だが未だ逡巡するように目を伏せてしまう。
そんなシルフィアに、アークレイはわざと悲しげな表情を浮かべて嘆息する。
「駄目なのか?やはり、シルフィアを愛しいと想う気持ちは、俺のほうがずっと強いのだな」
「そっ!そのようなことはございません!」
勢い良く顔を上げたシルフィアは、かっと目を見開いた。
「わ、私のほうが、ずっと強くアークレイ様のことを愛しています!」
熱烈なシルフィアの告白にアークレイは驚き、きょとんと固まったまま目を見開いてしまう。
そんなアークレイの様子にハッと我に返ったシルフィアは、一層顔を真っ赤にさせ、両手を口にあてて慌てふためき、緩んだアークレイの腕の中から逃げ出してしまう。
「い、今のは!違います!違います!お忘れください!」
恥かしさのためか、シルフィアはそのままシーツに顔を埋めてしまった。
無意識のうちに思わず本音が出てしまったのだろう。
「シルフィア・・・・・・」
驚いたアークレイだったが、シルフィアの熱い想いに嬉しさがこみあげてくるのを止められなかった。
シーツに倒れこみ、顔を隠したままのシルフィアの肩にそっと触れれば、びくっとその肩が大きく揺れる。
「シルフィア、顔を上げてくれ」
だが、シルフィアは顔を埋めたまま、嫌とばかりに大きく首を振る。
そのたびに、柔らかな白金の髪がサラサラとシーツにこぼれおちていく。
その髪をそっとかき上げて白い項に口づけを落とせば、シルフィアは肩を竦めて慌てたように顔を上げた。
真っ赤に染まった頬と、潤んだ碧玉の瞳、切なげに寄せられた眉根。
本人は全くの無意識なのだろうが、思わず息を飲んでしまうほどの色香に満ちていた。
「え?あっ・・・」
アークレイはシルフィアの肩をぐいっと押し、勢い良くシーツの上に仰向けにさせると、両手首掴んでシーツに押さえつけた。
「アークレッ・・・・・っ・・・・・」
驚くシルフィアがアークレイの名を呼び終えるよりも前に覆いかぶさり、その唇を塞ぐように強く口づけた。
何度も何度も、軽くついばむように。
何度も何度も、深く貪るかのように。
幾度となく重ねあう向きを変えながら。
口づけの合間に、時々漏れるシルフィアの吐息が耳をくすぐった。
高い音をたてて唇を離すと、肩で息をしながら、トロンとした視線定まらぬ表情でアークレイを見上げてくる。
「どうだ?俺のほうがずっとシルフィアを愛しているぞ?」
滑らかな頬を撫でれば、シルフィアは少し拗ねたような表情になる。
「・・・・・・アークレイ様は、酷い方です・・・・・」
「酷い?先ほどもそれを言われたな?そのような酷い男のことが、シルフィアは好きなのか?」
口の端を上げて笑えば、未だ唇を尖らせたまま、だが目元をうっすらと染めてシルフィアは小さく頷いた。
「はい・・・・・・好き、です」
「酷い男なのに?」
本気でそう思われているわけではないことはもちろんわかっていたが、顔を近づけて揶揄して問えば、シルフィアは恥かしそうに目を伏せてもう一度頷いた。
「はい・・・・・・アークレイ様のお言葉や仕草に、私はいとも容易く心を奪われてしまいます。アークレイ様は、酷い方です」
「は・・・・・・ははははっ!」
一瞬何を言われたのか理解出来なかったが、その言葉がじわじわと脳内に浸透し、全てを理解し受け入れると、思わず大きな声で笑ってしまっていた。
「わっ、笑いごとではございません!」
馬鹿にされたとでも思ったのだろう。
シルフィアはかあっと顔を紅潮させて、怒った顔でアークレイの胸を軽く叩いてくる。
だが、そんな表情も全てがアークレイにとっては可愛いだけだ。
「そう怒るな。何も馬鹿にしているわけではない」
「ですがっ」
「馬鹿にするどころか・・・・・あー・・・・・もう、貴方という人は・・・・・・」
くすくすと笑いながら、シルフィアの身体をぎゅっと抱きしめる。
「シルフィア・・・・・・貴方という人は、何て純粋で可愛い人なのだ」
「え・・・・・・?」
「まったく・・・・・・貴方こそ酷い人だ。俺を何度恋に落とせば気が済むのだ」
少し身体を離したアークレイは、恥かしそうに、だが戸惑うような表情のシルフィアに笑みを返し、音をたてて軽く口づけた。
「ますますシルフィアに聞きたくなったな」
「何を、でございますか?」
「俺のどこを好きになってくれたのだ?俺の顔か?」
「え?」
「まあ、父譲りではあるが、シルフィアを惹き付けるほどのものでもないだろう・・・・・男の俺としては、ウォーレンやオーガスティン団長のような、もっと男らしい顔立ちに憧れるがな。では性格か?よくウォーレンには、責任感が強すぎて頑固だと言われるのだが。はは、これでは少しも良いところはないな」
はははと笑ったアークレイに、シルフィアは驚いたように目を見開いた。
「そのようなことはございません!」
僅かに身体を起こしたシルフィアは、小刻みに首を振り、真剣な眼差しでシルフィアをまっすぐに見つめてくる。
「アークレイ様は・・・・・・素敵な方です」
「・・・・・・シルフィア」
「謁見の間で初めてお会いしたとき、あの・・・・・・国王たる貴方様にこのようなことを申し上げるのは失礼かもしれませんが・・・・・・」
「良い。話してくれ」
先を促すように親指の腹で頬をなでれば、少しだけ恥かしそうに目元を染めて小さく頷いた。
「とても素敵な方だと思いました。端正で、凛々しくて、精悍で、気品があって、同じ男として少し羨ましいとも思ったほどです」
「ほう?」
シルフィアからそのようなことを言われて、アークレイも嬉しくないはずがない。
「立ち居振る舞いは堂々とされており、王として品格と自信を兼ね備えられておられる、大変ご立派な国王陛下だと思いました」
「シルフィアにそのように言ってもらえると嬉しいものだな。自分では欠点は見えても、美点はよくわからぬから尚更だ」
「そのような・・・・・・私には、アークレイ様に欠点があるとは思えません。優しくて、包容力があって、ご家族を大切になさっている・・・・・一方で、国のため、民のために力を尽くそうとされる強い意思をお持ちで・・・・・・素晴らしい方だと思います」
「はは、買いかぶりすぎではないのか?」
正直に言えば、アークレイは、自分は決して完璧な人間ではないと思っている。
性格的に弱い面があることもわかっているし、苦手なことも少なからずある。
そのような一面を他人に見せること自体、己が弱いためでもあり、だからこそ常に完璧であろうと振る舞うのかも知れない。
今までは、そのような弱い顔を誰にも見せてこなかった。
王妃たちにも子供たちにも、周囲の家臣たちにも。
だが、シルフィアには、知らず知らずのうちにさらけ出していた。
恐らく、シルフィアならば、弱い自分を受け止めて包み込んでくれる何かがあるのだと、無意識下で気づいていたのかも知れない。
「では、もうその頃から俺のことを好いてくれていたのか?」
一目惚れというものだろうか。
そういう意味では、アークレイも謁見の間で初めてシルフィアと出会ったときに、この透き通るような美貌に目を奪われていたのは事実だ。
「わかりません・・・・・・国王陛下として素晴らしい方だとは思いましたし、このようなご立派な方の正妃になるのだと安堵し、嬉しくもありましたが・・・・・・自分のような者が正妃になって本当に良いのだろうかと恐れ多くて、戸惑いや不安もございました」
どこまでも謙虚なシルフィアに思わず苦笑がもれる。
自分の容姿も性格も才能も立場も、もっと誇っても、もっと自惚れてもいいのに。
「この国に来て、アークレイ様から嬉しいことをたくさん頂戴いたしました」
「嬉しいこと?」
「はい。私には勿体無いほどのたくさんのことを、アークレイ様から頂戴いたしました。その優しさに触れるうちに、次第に惹かれていったのだと思います」
「ほう?例えばどのような?」
「はい。王宮の庭園にお連れいただいたことも嬉しかったですし、メリアールと私の剣をセンシシアからお持ちいただいたことも嬉しかったです。あと、『フェリス・ローズ』にお連れいただいたことも。あのように、お店で買い物をすることは初めてのことでしたので、とても楽しかったです」
シルフィアとてセンシシアの王族だ。
街中に出て買い物をする機会など今までなかったのだろう。
キラキラと楽しそうに瞳を輝かせていたシルフィアを思い出す。
「離宮にお連れいただいたこと。そして、母上様・・・・・・エレーヌ様にお会いできたことも嬉しかったです。お綺麗で、お優しい方でした」
「母も貴方に会えてとても嬉しそうだった。帰り際、式を終えて落ち着いたら、シルフィアをまたお連れするようにとしつこく言われたからな」
「真でございますか?」
手を合わせて指先を口元にあて、「それも嬉しいことのひとつですね」と、シルフィアは本当に嬉しそうに微笑んだ。
「あと・・・・・・一番嬉しかったのは、お名前を呼ばせていただけたことです」
「名前?」
「はい。アークレイ様の、王名ではない真のお名前です。おこがましいことだとは思いますが、特別なその名を呼ばせていただけたことが嬉しかったです」
「それは俺も同じだ。シルフィアに名を呼んで貰えて嬉しかった」
軽く頬に口づけをすれば、シルフィアは恥かしそうに目元を細めてはにかむように小さく微笑む。
「他には?他にもシルフィアが嬉しかったことはあるのか?」
「はい。図々しくも、政にお役にたちたいと申し出た私の願いを叶えてくださいました。それに、合同演習にもお連れくださって・・・・・・弓を引くアークレイ様の姿はとても格好よかったです」
「はは、そうか?」
シルフィアに誉められると妙にくすぐったいが、アークレイも悪い気はしない。
世辞で言っているわけではなく、シルフィアは、心からそう言ってくれているから尚更だ。
「はい。あと、剣・・・・・・アークレイ様の大切な剣を私にお預けくださいました。驚きましたけど、嬉しかったです」
「まあ、余程のことがない限り、俺が他人に剣を預けたのは、後にも先にもシルフィアだけだな」
だから、あの場にいた主だった騎士は、総騎士団長をはじめ、表情には出していなかったが、アークレイの珍しい行動に随分と驚いている様子だった。
あのウォーレンでさえも然りだ。
「本当に私などがお預かりしてよかったのでしょうか・・・・・・」
「構わぬよ。剣は俺の魂であり俺の分身だ。だからこそ、シルフィアに預けたいと思ったのだから。迷惑だったか?」
「迷惑だなどということはございません。アークレイ様からそのように信頼いただいて嬉しかったです。ですから、私も・・・・・・」
シルフィアは、ふと自分の腰に手をあて、何やら不思議そうな表情になる。
腰にあるはずの目的のものが無いということに違和感を覚えているようだ。
「シルフィアの剣は、俺が外した。枕元に置いてある」
指差せば、少し身体をずらして頭上を見上げ、そこに置かれた自身の剣を視界にとらえ、ほっと安堵したような表情に変わった。
「私にとってもこの剣は大切なものです・・・・・・人を傷つけ殺めるものでもございますが、この剣はアークレイ様をお護りするためのものでもあり、私自身を護るためのものです。そのように・・・・・・剣を持つことの意味を、アークレイ様は私にお与えてくださいました。それも嬉しかったことの一つです」
「シルフィア・・・・・・」
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