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選択肢は無限でも選び取ることが出来るのは一つだけだ 1
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二学期の初め、鈴木は全校生徒の前で表彰された。学校としても、優秀な生徒がいることを前面にアピールしたいのだろう。しかし、当の鈴木自身は放っておいて欲しいみたいだった。表彰式の間、俺と伊月は体育館の奥の方で、右足と右手を同時に出しながら歩く彼女を見守った。
そんな鈴木の胸中とはお構いなしに、その日から周囲の鈴木に対する目は明らかに変化した。鈴木はすっかり有名人になった。そこまでは俺と伊月の想定内だった。
想定外なことに、同時に文芸部の注目もかなりのものとなった。それは鈴木が、全校生徒の前で自分の作品を「文芸部みんなで作った作品」と称したからだ。一年生三人だけで細々と活動していた文芸部の知名度は、この日を境に一気に上がった。特に伊月は部長だったから、奴の周りには性別も学年も関係なく、人が集まるようになった。しかし彼は、「あの作品は鈴木の実力だよ」と繰り返すだけで、その謙虚な姿勢が伊月の人気を(生徒ならず先生にまでも)さらに加速させた。
俺はと言うと、相変わらずあまり多くの人には話しかけられなかった。ただ、国語の成績だけは抜群に良かったから、勉強を教えてくれと申し出る人が出て来た。俺は快くそれを引き受けた。初めは誰かに物を教えるなんてできないと思っていたが、やってみると案外楽しかった。現代文は、論理的思考さえあれば必ず正解にたどり着ける教科だから、ちゃんと教えさえすれば皆納得できる。不思議なことに、国語の答えには正解がいくつもある、と信じている人間がたくさんいた。それは俺を少なからず驚かせたが、その度に俺は首を横に振った。
「表現方法が無限にあるだけだ。正解は一通りしかない」
俺はそのたびに繰り返した。
二学期が始まってからの二週間後、伊月がとあるパンフレットを俺たちに見せた。その日は午前授業だったから、俺たちは学校の近くのマクドナルドに集まっていた。
「隣町でビブリオバトルが開かれるそうなんだ」
伊月が相変わらずのニヤニヤ顔で言った。ビブリオバトルとは、参加者が各自好きな本の紹介をし、一番読みたいと感じた本を決める大会のことだ。伊月はいつになく自信に溢れていた。
「十月に市民文化センターで行われる。毎年、他の高校からも何人か出てるみたいだ。強制はしないが、もしよかったら、出てみないか?」
伊月は満面の笑みで俺らを見た。
「俺は出る」
即答だった。
「読んでいない本を知るいい機会だしな」
その気持ちもあったが、本当は鈴木が賞を獲った一件から、俺は何か、自分自身の目標が欲しいと感じていた。俺はあれから小説のネタを探すようにはなったものの、依然として自分の小説を形にできていなかった。伊月も俺と同じような気持ちだったのかもしれない。このところ、奴が文芸雑誌を度々チェックしていたのを俺は見ている。俺と伊月の心は一つだった。が、鈴木の反応はいまいちだった。
「私は、十月締め切りの賞に応募したいから、今回はパスかな」
鈴木は淡々と言った。賞を獲ったにも関わらず、鈴木の創作ペースは一向に落ちていなかった。むしろ、前よりも新しいアイディアが出るペースは速くなっていた。鈴木が大切にしているネタ帳とプロット帳は、伊月と俺も見ることができたから、間違いない。あの作品を皮切りに、鈴木は更なる成長を遂げようとしていた。
「そうだな、光は今の作品に集中、俺らは一か月、大会に集中。しばらくはこれで行こう。光、当日は見に来てくれるよな?」
伊月は優しく話しかけた。その声はよく通り、どこか俺らを安心させた。
「うん、土曜日なんだね。空けておくよ」
「鈴木だけが有名じゃ、立つ瀬がないしな。やるからには優勝だ」
伊月が笑う。
「お前はもとから人気者だから別にいんだよ、俺が優勝する。鈴木は今のままでいいだろ」
俺も伊月も、鈴木の言葉を聞いた時から、鈴木は自分のやりたいようにやるべきだと直感していた。
「ただし、今まで通り、鈴木の小説の校正は俺がやる」
俺は鈴木の目をなるべく見ながら言った。
「鈴木は才能あるし、一人で自分の書きたいこと書けば、それだけで形になるとは思う。でもだからと言って、そこで俺に遠慮されたら、俺は怒る。だから俺は今まで通り、鈴木の作品を読む」
「まあ、当たり前だろ。改めて言わなくても」
伊月が頷く。
「言っとかないと、鈴木は遠慮しがちだしな」俺は鈴木の目を見て、話す。
「それはお前が、話しかけづらいオーラ出してるからだろ」
伊月が突っ込む。
「出してねえよ」
「わかった」
鈴木が簡潔に言った。オレンジジュースを一気飲みして、パソコンを取り出す。
「遠慮しません」
そう言い残して、鈴木は自分の小説の世界に潜っていった。ついでに俺らの目の前にあったチキンとポテトを何も言わずに食べてしまった。おそらく無意識なのだろう、鈴木は集中すると食欲が増える。
「そういや、ビブリオバトルって、どうやって勝敗決めるの?」
俺は思い出したかのように伊月に聞いた。
「あ、そこから?」
その日から、俺と伊月は勉強会を始めた。
そんな鈴木の胸中とはお構いなしに、その日から周囲の鈴木に対する目は明らかに変化した。鈴木はすっかり有名人になった。そこまでは俺と伊月の想定内だった。
想定外なことに、同時に文芸部の注目もかなりのものとなった。それは鈴木が、全校生徒の前で自分の作品を「文芸部みんなで作った作品」と称したからだ。一年生三人だけで細々と活動していた文芸部の知名度は、この日を境に一気に上がった。特に伊月は部長だったから、奴の周りには性別も学年も関係なく、人が集まるようになった。しかし彼は、「あの作品は鈴木の実力だよ」と繰り返すだけで、その謙虚な姿勢が伊月の人気を(生徒ならず先生にまでも)さらに加速させた。
俺はと言うと、相変わらずあまり多くの人には話しかけられなかった。ただ、国語の成績だけは抜群に良かったから、勉強を教えてくれと申し出る人が出て来た。俺は快くそれを引き受けた。初めは誰かに物を教えるなんてできないと思っていたが、やってみると案外楽しかった。現代文は、論理的思考さえあれば必ず正解にたどり着ける教科だから、ちゃんと教えさえすれば皆納得できる。不思議なことに、国語の答えには正解がいくつもある、と信じている人間がたくさんいた。それは俺を少なからず驚かせたが、その度に俺は首を横に振った。
「表現方法が無限にあるだけだ。正解は一通りしかない」
俺はそのたびに繰り返した。
二学期が始まってからの二週間後、伊月がとあるパンフレットを俺たちに見せた。その日は午前授業だったから、俺たちは学校の近くのマクドナルドに集まっていた。
「隣町でビブリオバトルが開かれるそうなんだ」
伊月が相変わらずのニヤニヤ顔で言った。ビブリオバトルとは、参加者が各自好きな本の紹介をし、一番読みたいと感じた本を決める大会のことだ。伊月はいつになく自信に溢れていた。
「十月に市民文化センターで行われる。毎年、他の高校からも何人か出てるみたいだ。強制はしないが、もしよかったら、出てみないか?」
伊月は満面の笑みで俺らを見た。
「俺は出る」
即答だった。
「読んでいない本を知るいい機会だしな」
その気持ちもあったが、本当は鈴木が賞を獲った一件から、俺は何か、自分自身の目標が欲しいと感じていた。俺はあれから小説のネタを探すようにはなったものの、依然として自分の小説を形にできていなかった。伊月も俺と同じような気持ちだったのかもしれない。このところ、奴が文芸雑誌を度々チェックしていたのを俺は見ている。俺と伊月の心は一つだった。が、鈴木の反応はいまいちだった。
「私は、十月締め切りの賞に応募したいから、今回はパスかな」
鈴木は淡々と言った。賞を獲ったにも関わらず、鈴木の創作ペースは一向に落ちていなかった。むしろ、前よりも新しいアイディアが出るペースは速くなっていた。鈴木が大切にしているネタ帳とプロット帳は、伊月と俺も見ることができたから、間違いない。あの作品を皮切りに、鈴木は更なる成長を遂げようとしていた。
「そうだな、光は今の作品に集中、俺らは一か月、大会に集中。しばらくはこれで行こう。光、当日は見に来てくれるよな?」
伊月は優しく話しかけた。その声はよく通り、どこか俺らを安心させた。
「うん、土曜日なんだね。空けておくよ」
「鈴木だけが有名じゃ、立つ瀬がないしな。やるからには優勝だ」
伊月が笑う。
「お前はもとから人気者だから別にいんだよ、俺が優勝する。鈴木は今のままでいいだろ」
俺も伊月も、鈴木の言葉を聞いた時から、鈴木は自分のやりたいようにやるべきだと直感していた。
「ただし、今まで通り、鈴木の小説の校正は俺がやる」
俺は鈴木の目をなるべく見ながら言った。
「鈴木は才能あるし、一人で自分の書きたいこと書けば、それだけで形になるとは思う。でもだからと言って、そこで俺に遠慮されたら、俺は怒る。だから俺は今まで通り、鈴木の作品を読む」
「まあ、当たり前だろ。改めて言わなくても」
伊月が頷く。
「言っとかないと、鈴木は遠慮しがちだしな」俺は鈴木の目を見て、話す。
「それはお前が、話しかけづらいオーラ出してるからだろ」
伊月が突っ込む。
「出してねえよ」
「わかった」
鈴木が簡潔に言った。オレンジジュースを一気飲みして、パソコンを取り出す。
「遠慮しません」
そう言い残して、鈴木は自分の小説の世界に潜っていった。ついでに俺らの目の前にあったチキンとポテトを何も言わずに食べてしまった。おそらく無意識なのだろう、鈴木は集中すると食欲が増える。
「そういや、ビブリオバトルって、どうやって勝敗決めるの?」
俺は思い出したかのように伊月に聞いた。
「あ、そこから?」
その日から、俺と伊月は勉強会を始めた。
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