それでも日は昇る

阿部梅吉

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自分のスタイルは挑戦することでしか確立できない 1

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 夏になった。六月は正確にはまだ夏とは言えないのかもしれないが、俺の中ではもう夏になった。なぜなら暑いからである。このところの気温は異常だ。蒸し暑くて、外に出るのも嫌になる。

 夏の俺たちの目標は、休みを利用して作品を作り上げることだった。俺は一作を作り上げたものの、二作目のアイディアは出ていなかった。ちょっと書いてみても、どれもどうもパッとしない。佐伯も俺と同じ症状に悩まされていた。
 俺と佐伯は似ている。まず初めに書きたいことがあるのではなく、最初に「小説家になりたい」という気持ちがあるから、ネタが無い時はとことん苦しむ。そう意味では、俺と佐伯はどこかで気持ちが通じ合っていた。鈴木は去年、伊月と一緒に出したアイディアを消化するべく短編を書いていた。順調なのは鈴木だけだった。若狭は、一度軽い気持ちで書いてしまったものが今や四百頁を超える大作になってしまい、収拾がつかなくなっていた。若狭の原稿は、俺と鈴木のチェックを執筆と同時並行で行うことにした。

 伊月と梶は、夏休みにとある大学で開かれる弁論大会に向けて練習していた。テーマは文学から少し離れてしまうが、俺としては別に構わなかった。ビブリオバトルのいい練習にもなる。皆も特に何も言わなかった。特に梶は発表慣れしていないところがある。きっといい刺激になるだろう。
 高橋はマイペースで本を読み、たまに詩と俳句を考えていた。小説の執筆に疲れると、俺たちは遊びで短歌を考えた。

「ああ出ない 良いアイディアよ どこにある 日向」

「日向君 それは毎日 見つけなさい 鈴木」

「先輩は やっぱすげえっす 俺どうしよう 若狭」

「君とする 課題は少し 軽くなる
 終わらないでよ 三十一日  高橋」

「スルーして 短歌読んでる 高橋さん 若狭」

「高橋の スルースキルは 一流だ 日向」

「練習に 集中できない まじめにやれ 伊月」

「へいへい」

こんな調子だった。

 その夏、弁論大会で伊月が優秀賞、梶が審査員特別賞をもらった。高橋の俳句が賞に入選した。小説組は何の成果も得られなかった。俺は落胆した。俺のみならず、鈴木にも受賞の声がかからなかった。どうしてだ?あいつの作品のクオリティは下がっていないはずだった。俺にはわからないことが多かった。伊月は狙う文学賞と作風がミスマッチしていた、と分析した。

 夏休みの後半、俺は伊月を夜の公園に呼び出した。夕方になってもまだ辺りは薄暗く、完全に日が落ちていない。十分後、ポロシャツにジーンズにサンダルの伊月が現れた。

「改めて弁論大会、おめでとう」

俺は悔しさを抑え、努めてさらっと言う。

「何だよ、改まられるときしょいな。何か企んでるのか?」

「まあ、企んでいるっていうか、相談だな」

「なんだよ」

「誰か指導者がいてくれたら、って思う」

俺たちの部活には一応、顧問がいた。国語の辻先生だ。ただ、国語の先生は文芸部だけでなく、バレー部の顧問でもあったから、部活には滅多に顔を出さない。何か欲しいものがあれば相談する程度だった。

「小説を指導してくれる人」

「辻さんじゃだめなのか?」

「小説を作ったことのある人の方が良い」

「そういや、轟さんは?」

伊月が思い出したように言う。

「轟さんは本屋の店員だけどさ、なんとなく信頼できる」

「誰だっけ?」

「ひどいなお前、ビブリオの会長だよ」

俺はようやく思い出した。

「ああ、髪の薄い」

「本人の前でそれ言うなよ」

伊月はため息をついた。

「大丈夫だとは思うけど言わねえよ。轟さんか。でも、一年くらい会って無いな。俺、ビブリオから少し離れてたし」

「まあでも、やってみるしかないんじゃねえ?」

「そうだよな」

伊月は、ブランコの柵に座っていた。俺は右足で、地面の砂に円を書いた。
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