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美しく去る者は後に口を出さない
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文化祭はおおむね成功した。桜木ヒカルがやはり広告塔になったらしく、またいくつかビブリオバトルなどで実績を上げてきたからか、今年の注目度は高かった。文芸賞を獲った鈴木の新作を一番に読めるのは俺たちの部誌だから、そういう意味では貴重だし破格の安さだろう。
受験を考えている中学生から地方紙の鈴木の新聞記事を読んできてくれた近所の人たちまで、多くの客層が訪れた。校内の先生方にも評判で、俺が部長だと知ると皆驚愕した。
俺は目つきも悪いし長身だから先生受けは果てしなく悪かったが、その日を境に教師たちの俺を見る目は少し変わった気がした。現代文の時間には当てられ、褒められることも多くなった。しかしそれ以外の、特に理系の教科の成績は目も当てられなかった。
二学期の期末試験では鈴木が数学、俺が数学と化学を落とした。伊月は学年で四番目の成績だった。
「落ちたな」
伊月が廊下に貼られた成績上位発表者表の自分の欄を見ながら言った。伊月は前回二位だった。
「嫌味じゃねえか」
俺は悪態をつく。
「お前、現代文だったら東大クラスなのにな」
実際に俺は現代文のみで言えばほとんど一位をキープし続けていた。
「どうせ数学出来ませんよ」
期末試験が終わったあとは部活を休みにした。俺と鈴木が再試験を受けなければならなかったからだ。俺ら伊月に毎晩数学を教わった。加えて、俺は化学もちんぷんかんぷんだったので本当にわらをもつかむ勢いだった。
「そういや、一年生たちは成績大丈夫なのかな」
「梶が上位で発表されているらしいぞ」
伊月が言う。何気にこいつは情報通だ。
「やっぱり理系科目ができるやつは違うねえ」
「伊月君、どうしよう、なにもわからない……」
鈴木が教科書を見ながら涙目になる。こいつも数学に関してはさっぱりらしい。人には得手不得手があるものだ。
「若狭もギリギリ五十番くらいで発表されていた気がするな」
伊月が思い出したかのように言う。
「よく見てるなあ」
「伊月君、わかんないよお」
鈴木は泣きそうだった。
「大丈夫、大丈夫。まず基礎からやろう」
伊月に間近で教えられている鈴木は必死だけど夢中になっていて、いつもより表情がころころ変わる。そういえば、鈴木は伊月が別れたことを知っているのだろうか。
再試験は伊月のおかげで何とか突破した。鈴木もギリギリ大丈夫だったらしい。俺たちは久々に三人だけで、近くのサイゼリヤで祝杯をあげた。
「どんどん頼め」
俺と鈴木が伊月におごる予定だった。
「いや、おごらなくていいよ。普通に三人で食べよう、久しぶりに」
「なに、男前を発揮していているんだよ」
俺が突っ込むと鈴木が笑った。なんとなく懐かしい感じがした。
「勉強するとお腹すくよねえ、ピザでも頼もうか」
俺と伊月はドキッとする。頭を動かした後の鈴木の食欲旺盛ぶりは目を見張るものがあるからだ。俺はやっぱりおごらない、と首を振りながら目で伊月に合図する。伊月もうなずいた。結局三人、割り勘でその日は食べた。
「志望校とか、お前たちもう決めているの?」
俺は何気に言う。
「俺はK大かな」
超有名大学の名前を伊月がこともなげに言った。
「私は私立になると思う……」
鈴木が下を向いて言う。
「俺も私立かな、理系科目はからっきしだしな」
「なんかやりたいことはないのか?」
伊月が言う。
「俺は経済学部が法学部に入る」
「俺は文学部かな、それくらいしか興味のあるものなんてないし」
俺は正直に言う。
「だよなあ」
伊月も賛成する。
「私も」
鈴木がうなずく。
「もう受験かあ」
鈴木がポツリと言った。窓の外の葉はすでに枯れ、外に出て息をするとそれは白くなった。
「お前、ところで次期部長は誰にするつもりなんだ?」
帰り道、伊月が言う。俺に聞いた。
「若狭かな。副部長が佐伯、会計と技術が梶、編集担当が高橋になればいいだろう」
「みんなに何かしら役職があるんだね」
鈴木が顔を輝かせて言う。
「そういうのっていいよね」
鈴木は丸い目をキラキラさせる。
「俺たちにだってあるだろ」
俺は言う。
「鈴木はエースなんだから」
「そうそう、俺たちが鈴木を引き立てるための影。鈴木が光(ひかり)。作家がいれば編集者だって営業だっているだろ」
「そういうもんかなあ」
当の鈴木はあまりピンと来ていないみたいだ。
「そうそう、鈴木はエースなんだから」
俺も同意する。
有栖川優梨愛との連絡は頻繁に行われていた。というのも、俺も読書のスピードが速い方だと思っていたが、向こうは俺並に、いや俺以上にそのスピードが尋常ではなく、毎日のように読書記録や本の感想が送られてきた。
俺の知らない本もあったし、知っている本もあった。いずれにせよそれらは俺を喜ばせた。それは大体夜の八時ごろに送られてきた。今日、あいつが読んだ本は何だろう、そう思うと少なからずわくわくする自分がいた。人生で初めてこんなにも俺以上に圧倒される人物はいなかったからだ。
しかしその日の連絡はいつもと違っていた。
【よかったら今度一緒に本屋に行きませんか?】
相変わらず敬語のその文章は、たった一文だが俺の心をかき乱すのには十分すぎるほどの威力を持っていた。俺はなんて楓ばいいのかわからなかった。向こうはあくまで、俺を趣味の合う人間だと思っているし、俺もそう思っていることには変わりはないのだが、いかんせん一度しか会ったことのない女子と二人きりでどこかに行くのはとても緊張する。
鈴木とは仲良くなれたが、あれは伊月がいてくれた力が大きかった。俺は、俺自身だけの力で女子とどこかに行って話して、楽しく過ごすことができるのだろうか。俺は悩んで、どう返信すればいいのかわからなかった。伊月に相談したかったが、からかわれるのも嫌だった。
と、携帯の音が鳴る。
【私も読書領域を広げたくて】
ダメ押しが来た。俺は袋小路に入った気がした。断る理由もない。第一、俺もこいつと話がしたかった。
【いいですよ】
俺は震える手でその文字を打った。
【俺はT駅の丸善が好きですけど、何かおすすめの本屋はありますか?】
檸檬の絵文字が届く。すかさず俺は爆弾の絵文字を送る。
【いいですね、私もあそこが好きです】
どうやら俺はうまく返事ができたようだ。
【日向さんの都合のいい日はありますか?】
【早いけれど今度の土曜日】
【13時ごろでどうでしょう】
俺はOKの絵文字を送った。向こうからはディズニーの【了解】の絵文字が送られてきた。
受験を考えている中学生から地方紙の鈴木の新聞記事を読んできてくれた近所の人たちまで、多くの客層が訪れた。校内の先生方にも評判で、俺が部長だと知ると皆驚愕した。
俺は目つきも悪いし長身だから先生受けは果てしなく悪かったが、その日を境に教師たちの俺を見る目は少し変わった気がした。現代文の時間には当てられ、褒められることも多くなった。しかしそれ以外の、特に理系の教科の成績は目も当てられなかった。
二学期の期末試験では鈴木が数学、俺が数学と化学を落とした。伊月は学年で四番目の成績だった。
「落ちたな」
伊月が廊下に貼られた成績上位発表者表の自分の欄を見ながら言った。伊月は前回二位だった。
「嫌味じゃねえか」
俺は悪態をつく。
「お前、現代文だったら東大クラスなのにな」
実際に俺は現代文のみで言えばほとんど一位をキープし続けていた。
「どうせ数学出来ませんよ」
期末試験が終わったあとは部活を休みにした。俺と鈴木が再試験を受けなければならなかったからだ。俺ら伊月に毎晩数学を教わった。加えて、俺は化学もちんぷんかんぷんだったので本当にわらをもつかむ勢いだった。
「そういや、一年生たちは成績大丈夫なのかな」
「梶が上位で発表されているらしいぞ」
伊月が言う。何気にこいつは情報通だ。
「やっぱり理系科目ができるやつは違うねえ」
「伊月君、どうしよう、なにもわからない……」
鈴木が教科書を見ながら涙目になる。こいつも数学に関してはさっぱりらしい。人には得手不得手があるものだ。
「若狭もギリギリ五十番くらいで発表されていた気がするな」
伊月が思い出したかのように言う。
「よく見てるなあ」
「伊月君、わかんないよお」
鈴木は泣きそうだった。
「大丈夫、大丈夫。まず基礎からやろう」
伊月に間近で教えられている鈴木は必死だけど夢中になっていて、いつもより表情がころころ変わる。そういえば、鈴木は伊月が別れたことを知っているのだろうか。
再試験は伊月のおかげで何とか突破した。鈴木もギリギリ大丈夫だったらしい。俺たちは久々に三人だけで、近くのサイゼリヤで祝杯をあげた。
「どんどん頼め」
俺と鈴木が伊月におごる予定だった。
「いや、おごらなくていいよ。普通に三人で食べよう、久しぶりに」
「なに、男前を発揮していているんだよ」
俺が突っ込むと鈴木が笑った。なんとなく懐かしい感じがした。
「勉強するとお腹すくよねえ、ピザでも頼もうか」
俺と伊月はドキッとする。頭を動かした後の鈴木の食欲旺盛ぶりは目を見張るものがあるからだ。俺はやっぱりおごらない、と首を振りながら目で伊月に合図する。伊月もうなずいた。結局三人、割り勘でその日は食べた。
「志望校とか、お前たちもう決めているの?」
俺は何気に言う。
「俺はK大かな」
超有名大学の名前を伊月がこともなげに言った。
「私は私立になると思う……」
鈴木が下を向いて言う。
「俺も私立かな、理系科目はからっきしだしな」
「なんかやりたいことはないのか?」
伊月が言う。
「俺は経済学部が法学部に入る」
「俺は文学部かな、それくらいしか興味のあるものなんてないし」
俺は正直に言う。
「だよなあ」
伊月も賛成する。
「私も」
鈴木がうなずく。
「もう受験かあ」
鈴木がポツリと言った。窓の外の葉はすでに枯れ、外に出て息をするとそれは白くなった。
「お前、ところで次期部長は誰にするつもりなんだ?」
帰り道、伊月が言う。俺に聞いた。
「若狭かな。副部長が佐伯、会計と技術が梶、編集担当が高橋になればいいだろう」
「みんなに何かしら役職があるんだね」
鈴木が顔を輝かせて言う。
「そういうのっていいよね」
鈴木は丸い目をキラキラさせる。
「俺たちにだってあるだろ」
俺は言う。
「鈴木はエースなんだから」
「そうそう、俺たちが鈴木を引き立てるための影。鈴木が光(ひかり)。作家がいれば編集者だって営業だっているだろ」
「そういうもんかなあ」
当の鈴木はあまりピンと来ていないみたいだ。
「そうそう、鈴木はエースなんだから」
俺も同意する。
有栖川優梨愛との連絡は頻繁に行われていた。というのも、俺も読書のスピードが速い方だと思っていたが、向こうは俺並に、いや俺以上にそのスピードが尋常ではなく、毎日のように読書記録や本の感想が送られてきた。
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しかしその日の連絡はいつもと違っていた。
【よかったら今度一緒に本屋に行きませんか?】
相変わらず敬語のその文章は、たった一文だが俺の心をかき乱すのには十分すぎるほどの威力を持っていた。俺はなんて楓ばいいのかわからなかった。向こうはあくまで、俺を趣味の合う人間だと思っているし、俺もそう思っていることには変わりはないのだが、いかんせん一度しか会ったことのない女子と二人きりでどこかに行くのはとても緊張する。
鈴木とは仲良くなれたが、あれは伊月がいてくれた力が大きかった。俺は、俺自身だけの力で女子とどこかに行って話して、楽しく過ごすことができるのだろうか。俺は悩んで、どう返信すればいいのかわからなかった。伊月に相談したかったが、からかわれるのも嫌だった。
と、携帯の音が鳴る。
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【いいですよ】
俺は震える手でその文字を打った。
【俺はT駅の丸善が好きですけど、何かおすすめの本屋はありますか?】
檸檬の絵文字が届く。すかさず俺は爆弾の絵文字を送る。
【いいですね、私もあそこが好きです】
どうやら俺はうまく返事ができたようだ。
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