それでも日は昇る

阿部梅吉

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地獄を抜けたものは誰かの光になることもある

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 俺らは再試験もひと段落し、部活を再開させた。

「っつー分けで、これからは若狭主導で、でもみんながそれぞれ意見を出し合って活動していってほしい。俺たちは、あの件を除いてもうほぼ部活には出なくなると思う」

「もう二年生も終わるしな」

伊月が淡々と言う。

「ああ、もう受験かあ」

鈴木がため息をつく。

「えっ、俺なんかでいいのかわからないけれど」

若狭が立ち、みんなの方に向き直る。

「伊月部長が皆のいいところを見て引き上げてくれたように、俺もそういう風になりたいと思います、よろしくお願いいたします」

若狭がいつになく真剣な表情で言う。いつも笑顔の若狭は、誰とでも仲良くなれるし、その分皆のそれぞれいいところを引き出してくれるだろう。

「俺は元部長、な」

俺が突っ込む。伊月が笑う。鈴木が少し目じりを下げ、寂しそうに笑う。佐伯はびっくりしたような顔をしている。梶はいつも通りに見えるが、確かな自信にあふれた笑顔が見える。高橋も落ち着いてはいるが、口角が上がっている。俺が拍手すると、みんなも拍手した。

「ほら、佐伯も」

俺が言う。佐伯が立ち上がる。

「私が副部長なんて、信じられません。私は伊月先輩みたいにいろいろできないかもしれないけれど、頑張ります」

拍手が送られる。

「大丈夫」

俺が言う。

「俺はたとえうまくできてもできなくても、しんどい状況で踏ん張れるやつが前に立つべきだと思ったんだ。だから大丈夫」

俺が言うと、また更に拍手が起こった。

「会計と技術部長は梶な」

俺が誘導する。

「技術部長なんて堅苦しい役職になりましたが、要は困っていることがあれば何でも相談してほしいということです、よろしくお願いします」

梶が深々と頭を下げる。

「編集部長は高橋」

「校正と編集担当になりました。何とか頑張ります。皆さんが上達してどんどん枚数が増えていますが、何とか頑張りたいと思います。よろしくお願いいたします」

高橋がクールに笑う。若狭がごめん、という顔付きをする(鈴木も一瞬ドキッとしていた)。

「というわけで、交代式は終わり。俺たち二年は今後、あの活動以外参加しないと思う。その、編集者と連絡とるっていうやつ」

皆から歓声が上がった。

「どうだったんですか?」

「アポイントはとった。今後は鈴木を筆頭に完成した作品は片っ端からいろんな出版社に持ち込んでアドバイスをもらおうと思う」

「出版社は経路も違うから、その作品に合わせないといけないの。文学賞も色や字数制限があるし」鈴木が俺の説明を補填する。

「鈴木が教えてくれた出版社は純文学の経路が強いが、短くも野心的な作風を期待しているみたいだ。例えば若狭が書いているファンタジーは受け付けないだろう」

「そうなんですね」

若狭が目を丸くして言う。

「だから、その出版社の毛色を見ながら片っ端から電話をかける」

「結構、編集さんによって当たりはずれとかあるし、人によって全然言うこと違う人から……」

鈴木が斜め下を見ながらぼそぼそと言う。その様子にどこか苦労が垣間見える。

「しばらくは若狭がファンタジーや俺は少し短めの純文学や児童向け、佐伯と鈴木は純文学系統の出版社を探すことから始めようと思う。高橋は引き続き校正、伊月と梶は情報収集全般だな」

「はい」

若狭が元気よく言う。

「はい」

梶が眼鏡を整える。

「わかりました」

高橋が軽くお辞儀しながら言う。

「はいっ」

佐伯が少し遅れて返事する。

「とりあえず今日は交代式で終わり。残りたい奴は残っていいよ」

その日はこの場でお開きにしたが、結局全員が残っていろいろ調べ物をした。


 「先輩」俺は帰り道、若狭に話しかけられた。外はもう雪が降っている。

「一緒に帰ってもいいですか?」

俺は伊月と鈴木といた。

「わかった」

俺は応じた。

「ごめん。鈴木、伊月、先に二人で帰っていて」

「オッケー」

伊月は軽い。彼女と別れてから、伊月はまた俺たちと帰るようになっていた。

「バイバーイ」

鈴木が手を振る。

俺と伊月は二人で歩いた。歩くと雪の音がしゃくしゃくと聞こえた。若狭は下を向き、何も言わなかった。ちらと前方を見て、伊月と鈴木が遠くに離れるのを確認した。

「なんか不安でもあるのか?」

俺から口を開いた。

「不安はありますけど、もちろん」

しゃくしゃく、と音がする。歩くと白い地面からコンクリートが見える。

「なんで俺なのかな、って」

「え?」

「なんで俺なのかなって思って」

「部長が?」

「そうっす」

若狭がうなずく。

「俺、佐伯さんみたいに早く書けるわけでもないし、梶みたいに機械に詳しかったりするわけでもないし、高橋さんみたいに知識があったり校正うまいわけでもないし」

若狭は淡々と語るが、その口調はいつもとは違い、普段のこいつにはない「重さ」が感じられた。

「あははははは」

俺はつい笑ってしまった。

「えっなんですか?」

若狭がびっくりする。

「いや、ごめん」

若狭が真剣なこともわかるが、若狭が真剣になればなるほどほど笑ってしまう。

「考えることってみんな一緒なんだなあ、って思うと面白くて」

「どういうことです?」

若狭はイヌみたいに目を丸くする。

「いや、おれもまるきり同じこと、考えていたからさ」

俺は笑う。

「っていうか、今でもぶっちゃけ思っているな、同じこと」

「そうなんですか?」

若狭の目が一段と丸くなる。

「うんうん」

俺は頷く。

「だってさ、あの弁が立つ生徒会の伊月にかたや作家の鈴木だよ?俺が劣等感持たないわけないじゃん。まじで悩んだもん」

「へえ、意外ですね」

「そうかあ?」

俺はそう思われることの方が意外だった。

「いつも何すればいいのかわからなかったし、何が得意で、何ができるのかさえ分からなかった。伊月の真似してビブリオバトルに出たり、鈴木にあおられて小説書いてみたりしてさ。どっちもどっちだったんんだけどさ」

「そんなこと、ないです」

若狭がいつもの大きな声で言う。

「先輩の作品、好きです」

「ありがとう」

俺はつい口角が緩む。

「でも、俺も悩んだんだよ。俺、なんもできないからさ。本を好き勝手読んで生きているだけだしさ。だから若狭の気持ち、痛いほどわかるから、笑っちゃった。つい。ごめんな」

「ああ、もう」

若狭がため息をつきながら悲しそうな顔をする。それがまた本当にイヌみたいな仕草で、また俺が笑う。

「でもさ、若狭はいろんな人と仲良くなれるじゃないか?」

俺が笑いを抑えながら言う。

「本当にリーダーに大事な素質ってさ、誰かの才能を見抜くことなんだよな」

俺は続ける。

「若狭にはそういう力が誰よりもある気がしたんだ」

俺たちは並んで歩く。雪が深々と降り積もる。俺のコートにも雪がしみこむ。

「だから、大丈夫だと思う。俺が保証する」

「……」

若狭は丸い目をして、何か言いたげに口を動かそうとしたが、二秒口ごもり、

「わかりました」
と言った。

「大丈夫」

俺は若狭の肩をたたき、二人で駅に入った。
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