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こめたろうのたび
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「『こめたろう』は『ごはんのくに』で、クッキーを見つけたんだ。米太郎は親切だから、貴方はチョコレートの国に行った方が活躍できますよ、って言うんだ。
でもクッキーは言うんだ。『あそこは優秀なチョコレートに合う官僚になる訓練もあるし、規律ばかりで好きじゃない、こちらの国の方が気楽でいい。それに、俺はもう向こうの国でおいしい書庫レートに会うクッキーの配合を考えるビジネスで儲けて、リモートワークをしているのさ』と」
「何それ、面白い」
鈴木が笑った。
「急に近代的だね」
「それで、こめたろうは驚愕するんだ。浅はかだった自分のことを鑑みるんだ。というのも、そのクッキーは別に優秀にならなくても生きて楽しく過ごせていればそれでいいという考えを持っていたからなんだ。
『チョコレートの国』の住人はほとんどが優秀な官僚や政治家や軍人にならなければならないと確信している。まるで宗教みたいに妄信して、そのために生きている。
でもそのクッキーは違った。権力にはまるで興味がなく、自分自身がいいと思う生き方を追求していた。何より、自分の国と他の国を知って比較しうえで自由な生き方を選択していた。そんな者に出会ったのは初めてのことだったから、こめたろうはかなりショッキングだったんだ。だから、こめたろうは写真と文章を使って、いろんな国を旅して本を作ることにした」
「うんうん」
「こめたろうは、いろんな国と価値観と選択肢があるってことを、みんなに知らせるべきだと考えた。そのためには各地を旅して、それを書き留めて本にするのが一番いい方法だと思ったんだ。だから、それからはいろんな人を聞き、いろんな生き方と文化を学ぶことにした」
「へえ、面白い」
鈴木が相槌を打つ。
「ごめん、これでおしまい」
「あああ、続き、気になるなあ。もうこれで完結なの?」
「わからない。またパッと内容が思いつくかもしれないからね」
「へえ、すごいなあ、日向君はパッと話を思いつくタイプか」
まあ、今回の話は優理愛のセリフから着想を得たのだが、それは黙っておこう。
「鈴木もそうだろ」
「私はどうやってアイディアが生まれるのか、自分でもわからないからなあ。書いているうちに思いつくんだ」
「そんなもんなのか?」
でも、確かにわかるかもしれない。俺も最初はこんな話になるとは思ってもいなかった。
「天才って、そういうものなのかもな」
俺はぽつりと言う。
「そうかなあ」
「うん」
俺は言う。
「将棋の羽生善治さんが言っていたよ。努力ってのは、報われるか報われないかわからないところで持続的に情熱をもって勝負することだって。鈴木にはその力があるし、何より夢中になれる力があると思う」
「そうかなあ、でも書くのは楽しいよ、とても苦しい時もあるけど、たまあにね」
「うん、さっき言っていたみたいに、誰もが孤独を抱えていると思うんだ。俺だって、鈴木みたいにうまく小説が書けなくて、かといって伊月みたいに行動力があるわけじゃないから悩んだ時期もあった。でも、俺は、自分が生きたいように生きようと思うんだ」
「そっか」
鈴木が柔らかい声で言った。
「うん」
「あのね」
鈴木が唐突に言った。
「日向君は本当に」
そこで沈黙が流れた。難病かはわからない、時間が止まってしまったかと一瞬錯覚するほど、長く感じられた。
「すごい人だと思う」
その日はその後、他愛もない話をして電話を切った。
でもクッキーは言うんだ。『あそこは優秀なチョコレートに合う官僚になる訓練もあるし、規律ばかりで好きじゃない、こちらの国の方が気楽でいい。それに、俺はもう向こうの国でおいしい書庫レートに会うクッキーの配合を考えるビジネスで儲けて、リモートワークをしているのさ』と」
「何それ、面白い」
鈴木が笑った。
「急に近代的だね」
「それで、こめたろうは驚愕するんだ。浅はかだった自分のことを鑑みるんだ。というのも、そのクッキーは別に優秀にならなくても生きて楽しく過ごせていればそれでいいという考えを持っていたからなんだ。
『チョコレートの国』の住人はほとんどが優秀な官僚や政治家や軍人にならなければならないと確信している。まるで宗教みたいに妄信して、そのために生きている。
でもそのクッキーは違った。権力にはまるで興味がなく、自分自身がいいと思う生き方を追求していた。何より、自分の国と他の国を知って比較しうえで自由な生き方を選択していた。そんな者に出会ったのは初めてのことだったから、こめたろうはかなりショッキングだったんだ。だから、こめたろうは写真と文章を使って、いろんな国を旅して本を作ることにした」
「うんうん」
「こめたろうは、いろんな国と価値観と選択肢があるってことを、みんなに知らせるべきだと考えた。そのためには各地を旅して、それを書き留めて本にするのが一番いい方法だと思ったんだ。だから、それからはいろんな人を聞き、いろんな生き方と文化を学ぶことにした」
「へえ、面白い」
鈴木が相槌を打つ。
「ごめん、これでおしまい」
「あああ、続き、気になるなあ。もうこれで完結なの?」
「わからない。またパッと内容が思いつくかもしれないからね」
「へえ、すごいなあ、日向君はパッと話を思いつくタイプか」
まあ、今回の話は優理愛のセリフから着想を得たのだが、それは黙っておこう。
「鈴木もそうだろ」
「私はどうやってアイディアが生まれるのか、自分でもわからないからなあ。書いているうちに思いつくんだ」
「そんなもんなのか?」
でも、確かにわかるかもしれない。俺も最初はこんな話になるとは思ってもいなかった。
「天才って、そういうものなのかもな」
俺はぽつりと言う。
「そうかなあ」
「うん」
俺は言う。
「将棋の羽生善治さんが言っていたよ。努力ってのは、報われるか報われないかわからないところで持続的に情熱をもって勝負することだって。鈴木にはその力があるし、何より夢中になれる力があると思う」
「そうかなあ、でも書くのは楽しいよ、とても苦しい時もあるけど、たまあにね」
「うん、さっき言っていたみたいに、誰もが孤独を抱えていると思うんだ。俺だって、鈴木みたいにうまく小説が書けなくて、かといって伊月みたいに行動力があるわけじゃないから悩んだ時期もあった。でも、俺は、自分が生きたいように生きようと思うんだ」
「そっか」
鈴木が柔らかい声で言った。
「うん」
「あのね」
鈴木が唐突に言った。
「日向君は本当に」
そこで沈黙が流れた。難病かはわからない、時間が止まってしまったかと一瞬錯覚するほど、長く感じられた。
「すごい人だと思う」
その日はその後、他愛もない話をして電話を切った。
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