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五年後
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あれから五年の月日が流れた。俺は高校を卒業した後に私立の文学部に入り、アメリカ文学のゼミに入った。卒論では村上春樹とアメリカ文学をめぐるその影響力と類似点を検証し、都内の海外文学を扱う小さな出版社に見事内定が出た。出版は就活時期が遅く、夏になっても内定が一つも出ていないのは俺だけだったからかなり焦ったが、割と名の知れた出版社に勤めることができて俺としては御の字だった。
鈴木もある私立大学の文学部に所属し、在学中に二つの本を出した。高校三年の時にも鈴木は本を出したから、これで通算四冊目だ。その後鈴木は大学生ながら作家・ライターとして活動し、今もフリーランスで働いていた。彼女は最近作詞も行っていた。
結局高校三年生の時のあのあと、文学賞を獲って書籍化にまで至ったのは鈴木の作品だけで、俺の作品は出版社の目にも止まらなかった。一社だけ、子供向けの書籍を出している会社が俺の作品を見て「面白い」と言ってくれたが、それ以降連絡は途絶えてしまった。
伊月は予言通りK大学の法学部に進み、官僚の試験を突破して今業務に邁進している。なかなか普段から連絡が付きづらく、また政治でいろいろあると途端に忙しくなるみたいで、朝から晩まで働き詰めみたいだった。三人とも都内にはいたがなかなか会う時間はなかった。
俺と優理愛の関係は続いていた。優理愛はあっさりと当然のごとく日本で一番難しい大学の文科一類に合格し、その後アメリカに一年生留学、来年からはアカデミックに進みたいと大学院に進む気でいた。優理愛の家は父親が医者なおかげもあり、教育にはいくらでもお金をかけても構わないという考えの家だったから、両親もあっさりとそれを承諾した。そのため、優理愛は未だ大学に残って論文を猛スピードで書き上げていた。生来夢中になると止まらなくなるタイプで勉強熱心な優理愛は研究者に向いている性格だったらしく、卒論がそのままファーストの論文になった。俺から見たらそれは本当にすごいことだった。
俺と彼女は一週間に一度くらいの頻度で電話をし、一カ月に一度のペースでどこかに行った。
夏には二人で鎌倉に旅行にも行った。途中で外国人に話しかけられた時、優理愛が俺に代わって外人と話してくれたりもした。そんなとき、どこか彼女が生き生きしているように見えて、それが誇らしくもあり、寂しくもあった。
俺は大学在学中にも文芸部に所属し、小説をいくつか書いた。でもそれはどれも中途半端だった。優理愛に時たま聞かせて見せて
「おもしろい」
と言ってくれたが、俺は満足していなかった。
大学四年のころ、就活もしながら出版社に自分の小説を持ち込んだ。俺はそこでいろいろと言われた。
会話文が変、読む時間がない、無駄に長い、もう少しわかりやすい題材にしてくれ、暗い、うちの社風に合っていない、などなど。それらは俺の言葉に何も響いてこなかった。確かにそうなのかもしれないが、だからと言ってどう書き直せばいいのかわからなかった。何が書きたいのかもわからなくなっていた。
鈴木もある私立大学の文学部に所属し、在学中に二つの本を出した。高校三年の時にも鈴木は本を出したから、これで通算四冊目だ。その後鈴木は大学生ながら作家・ライターとして活動し、今もフリーランスで働いていた。彼女は最近作詞も行っていた。
結局高校三年生の時のあのあと、文学賞を獲って書籍化にまで至ったのは鈴木の作品だけで、俺の作品は出版社の目にも止まらなかった。一社だけ、子供向けの書籍を出している会社が俺の作品を見て「面白い」と言ってくれたが、それ以降連絡は途絶えてしまった。
伊月は予言通りK大学の法学部に進み、官僚の試験を突破して今業務に邁進している。なかなか普段から連絡が付きづらく、また政治でいろいろあると途端に忙しくなるみたいで、朝から晩まで働き詰めみたいだった。三人とも都内にはいたがなかなか会う時間はなかった。
俺と優理愛の関係は続いていた。優理愛はあっさりと当然のごとく日本で一番難しい大学の文科一類に合格し、その後アメリカに一年生留学、来年からはアカデミックに進みたいと大学院に進む気でいた。優理愛の家は父親が医者なおかげもあり、教育にはいくらでもお金をかけても構わないという考えの家だったから、両親もあっさりとそれを承諾した。そのため、優理愛は未だ大学に残って論文を猛スピードで書き上げていた。生来夢中になると止まらなくなるタイプで勉強熱心な優理愛は研究者に向いている性格だったらしく、卒論がそのままファーストの論文になった。俺から見たらそれは本当にすごいことだった。
俺と彼女は一週間に一度くらいの頻度で電話をし、一カ月に一度のペースでどこかに行った。
夏には二人で鎌倉に旅行にも行った。途中で外国人に話しかけられた時、優理愛が俺に代わって外人と話してくれたりもした。そんなとき、どこか彼女が生き生きしているように見えて、それが誇らしくもあり、寂しくもあった。
俺は大学在学中にも文芸部に所属し、小説をいくつか書いた。でもそれはどれも中途半端だった。優理愛に時たま聞かせて見せて
「おもしろい」
と言ってくれたが、俺は満足していなかった。
大学四年のころ、就活もしながら出版社に自分の小説を持ち込んだ。俺はそこでいろいろと言われた。
会話文が変、読む時間がない、無駄に長い、もう少しわかりやすい題材にしてくれ、暗い、うちの社風に合っていない、などなど。それらは俺の言葉に何も響いてこなかった。確かにそうなのかもしれないが、だからと言ってどう書き直せばいいのかわからなかった。何が書きたいのかもわからなくなっていた。
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