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かわい子ちゃん襲来編

なら何を言っても同じです

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 ある意味、正論すぎるマチルダの言葉にどんどん旗色が悪くなる小鳥ちゃんは矛先をマチルダから沈黙を貫いている他のオネエさん達に変えた。

 「っ、あ、あなた方はそれでいいんですか?!」

 喘ぐような小鳥ちゃんの問いかけに、答えるよう先に動いたのはバーバラだった。私の椅子の背もたれに片手を乗せ、覗きこむように腰を曲げて私の意思を確認しようとする。私もなけなしの覚悟を決め、抱えていた頭を上げてバーバラに顔を向けた。バーバラの目が、いいの?と確認と気遣いの色をのせて問いかけてくる、私はバーバラから目をそらさないまま了承の意味を込めて頷いた。
 優しく微笑んだバーバラがその笑みのまま小鳥ちゃんに向き直り、この流れの退路を塞ぐ一石を落ち着きのある優しい声音で投じた。

「我らが姫のお望みのままに。このライオネルに不満はありません」 

 カトリーナに目だけ向けると心配げな色を浮かべていた。私が安心させるように頷くとカトリーナは一度目を伏せたが、小鳥ちゃんに向けた視線はいつもの表情を読ませない目になっていた。そしてまた一つ石を投じる、相変わらず低くて腰にクるいい声で。

「同じく。俺に一切の不満はない」

 どうしよう、泣きそう。前の時のような悪ふざけで楽しみながら演じてる訳じゃない。オネエさん達に無理やり男のフリをさせている現状に罪悪感から泣き喚きたくなってくる。考えが体に出たのか、いつの間にか俯きがちになっていた私の頭に大きな手が乗せられて、ぽんぽんと軽く叩かれた。顔を上げて手の持ち主であるキャサリンを見れば、明るい笑顔のままバチンとウインクをくれた。違った意味で涙が出そうだ。いい子いい子と子供の頭を撫でるように私の頭の上に置かれた手を動かしながらキャサリンもまた偽りの言葉を吐く。

「我ら一同、想いは一つ。姫と共にあることを望むがゆえに不満などありませぬ。でなければここには居りますまい」

 撫でる力加減が狂ってきたのかゆっさゆっさと頭が揺れる。色々限界でもう若干涙目な私にマチルダが泣きだすんじゃないのかとハラハラした表情で見てくるが、逆に小鳥ちゃんは顔を真っ赤に染めて突き刺すような激しい目つきで私を見据えている。どんな誤解をしているのか恐ろしい、素敵な男性達から想いを言葉にされて感極まっている、などと思われていたら……駄目だ、考えただけで死にたくなってくる。

「これで気は済んだかい? 我々は皆、この状況を受容している」

 マチルダが会話の締めにかかった。小鳥ちゃんには悪いが、ここからの逆転はないだろう。

「そ、それでもっ、こんな関係は、許されないわ」

 活路を求めて足掻くことは決して悪いことではない。

「君に許して貰う必要がどこにあるんだ? そもそも疑問だったんだが、なぜ我々は糾弾されなくてはいけない? しかも赤の他人な、君に」

 でもマチルダは許さない。ここまで人を傷つける言葉を使うマチルダを、私は初めて見た。それほど怒っている。他の皆も止めない。つまり大なり小なり、彼女はオネエさん達を怒らせてしまった事にほかならない。

「……でもっ、でもだって!」

 それ以上言葉が続かない小鳥ちゃんの顔は悲そうに歪んでいる。だがマチルダは躊躇なく非情に言葉を投げつけた。

「もう君は帰った方がいい」

 暗にこれ以上話すことはないと示せば、小鳥ちゃんは俯いて両手を強く握り絞めた。彼女にしたらとてつもない屈辱だろう。説得すれば嘘で煙に撒いて、力を行使しても通じず。自分の正当性すら歯牙にもかけない。まあこっちにしたら酷い言いがかりで休日の朝っぱらから押しかけられるは話は信用されないはで打つ手なし。お互い笑顔とまではいかなくてももっと穏便にすませたかった。

「どうぞ、お帰りはこちらですよ」

 動こうとしない小鳥ちゃんにそう声をかけたのは、自力で復活したアンジェリカ。優しい笑顔を浮かべているが貼り付けているだけというのが分かる。目も笑ってなければ醸し出す雰囲気すら笑顔とはかけ離れている。これは相当マチルダに怒っているね。

 アンジェリカが嫌味ったらしくリビングのドアを開いて促すも、小鳥ちゃんは動かない。どうしようかとマチルダに目で指示を仰げば、盛大な溜息が返ってくる。だけどそのマチルダの溜息が引き金になったのか小鳥ちゃんが勢いよく顔を上げ、私に向かって言葉を投げつけてきた。

「なんであんたなのよ! こんなっこんなの、あんただけズルい!!」

 ズルいって……おい。ちょっとまて。

「あんたみたいなおばさんが彼らにちやほやされるなんて、間違ってる!!」

 私がおばさんならオネエさん達もおばさんな年齢です。

「こんな逆ハーレムっ、私は絶対に許さない!!」

 えーと、うん。これ、本音、だよね? 
 ぶっちゃけそんなくだらない理由でこんな事態を引き起こしたの?
 
 うん、小鳥ちゃん。君はおバカだ。


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