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日常編

日常編 終幕

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 一週間あった休暇はなんだかんだであっという間に過ぎ去り、本日が最終日という悲しい現実。

 主に残っていた休暇の使い道は先日朝から大変迷惑をかけたご近所さんと石鹸屋さんへの謝罪に使われた。
 特に左隣の戸建てにご夫婦で住み、子育てを終わらせた世代であるケイシーさんに長時間掴まって大変だった。一緒に回ってたバーバラがケイシーさんに腕を掴まれた私をさっさと見捨て帰って行ったのは恨むべき行為である。疲れた顔をして帰ってきた私に「お疲れ様でした」と気遣わし気に駆け寄り直ぐに回復術かけてくれたからって絆され……ないん、だか、ら。うそ、秒で許した。

 一番迷惑をかけた石鹸屋さんへ一人で謝りに行くのは心許ないが、いくら神聖術師が温和かつ廉潔で有名といえど一般女性を怯えさせてしまう立派な体格なバーバラをまた連れて行くのは戸惑われた。マチルダという元凶はもう二度と連れて行ってはいけない。これは後世に残すべき戒めである。
 キャサリンやカトリーナが付き添ってくれようとしたがバーバラより筋肉による物理的な威圧と空間圧迫が余計悪化するので諦めて一人で向かった。アンジェリカは魔力放出しながらの精神的圧迫により石鹸屋周辺住民の精神がストレスで無事死亡する未来しかないので考えるだけ無駄だ。

 二度と来れないと思っていた石鹸屋の扉を意を決して開ければ丁度人がはけた後なのか店内には一番迷惑をかけてしまった店員さんだけ。一直線に店員さんに向い先日は大変申し訳ありませんでしたと言葉と顔全体で謝罪をすれば、酷く恐縮されてしまった。店員さんの優しさにもう惚れそう。

 お詫びの品で私の好物でもあるキャサリン特製カヌレもどきを押し付け、ここで買い物をする事を楽しみにしていたのにマチルダが迷惑かけちゃったからと寂しげに諦めてしまったキャサリンとカトリーナの為に私は恥を忍んで店員さんに懇願した。
 アレはもう連れてこないのでちょっと大きい、いやかなり大きいマッチョだけど心優しい仲間がいてこのお店に訪れるのを楽しみにしている事、アレはもう連れてこないので良ければ人が一番少ない時間を狙って来ますのでまた買い物に来させて下さい。アレはもう連れてこないので! と三度強調して必死に言い募り70度の角度になるように頭を下げれば店員さんは小さく悲鳴を上げ、直ぐに傍まで来ると頭を上げてくれと逆に店員さんを困らせてしまった。

 結果的には店員さんもとい、あの後話しをして分かったがオーナー兼店長さんだったふんわり系で可愛い女性は私の頼みを嫌がらず、それどころか快く受け入れてくれた。
 朝の通常営業一時間前なら貸切にできるのでどうだろうと提案までしてくれ、店長さんの負担になるのではと遠慮すれば店舗の二階を住居として使用しているので特に困らないし売り上げが増えるなら大歓迎だと笑顔で言われた。バーバラとマチルダが手当り次第購入していた香油はいい収入になったらしい。

 仲間と伺う日を決めたら後日また来ますと伝え店長さんとお互い笑顔で挨拶を交し、最良の結果をキャサリンとカトリーナに持ち帰る事が出来た。勿論それを伝えた二人はとっても喜んでくれた。その笑顔が見れただけで頑張って良かったと思える。でもキャサリン、感激からの抱擁はもう少し手加減してくれないと私の肋骨が音を立てそう。軋む音がして地味に痛むので助けを求めバーバラと口を開こうとしたら直ぐ横に来ていたバーバラが回復術を発動していた。さすがバーバラ。ありがとう。

 丁度リビングにいたアンジェリカにも一緒に行く? と聞いてみるが「んー」と気のない返事をされただけで終わった。

 魔術師二人のストレスは、褒められた事ではないがあの残虐な討伐で大分解消されたのかアンジェリカは若干ツンツンしているものの口調や声音はいつもの状態に戻っていた。問題のマチルダとの喧嘩もお互い落し所を見つけたのか討伐後町で合流した時には二人は喧嘩を終わらしていた。
 
 マチルダもあれからは普段と変わらないどころか、逆に少し気が抜けている感じさえする。今も長ソファに横になり足を組んだ両足は背凭れに引っかけているという非常にダラしない恰好を晒している。これは珍しいを通り越して異常ではないかと疑っている。本当ちょっと心配になってくるレベルだ。

 結局、マチルダに対しての私の怒りは持続しなかった。合流して即バーバラが説教をはじめ、お叱りを受けた後のマチルダの瞳をみたら怒りが収まってしまった。
 自分の非を認め、私に対して気まずげでいて素直に謝るに謝れないといった目を見てしまったら駄目だった。私には一人弟がいるのだが喧嘩した後よくそんな目をしていた弟とマチルダの目が重なって、少しだけ笑いそうになってしまったのはここだけの秘密だ。
 ちゃんとその事を話し合ってないし謝られてもなければ私も謝ってない。うん、お互い様だからいっかな。

 ただ、少しだけマチルダに対しての怖さが抜けずビクつくは見逃してくれ。


 ああ、明日からまた変わらない日常だ。





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