アンドロール

竹壱 有司

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第二章

第二十三話

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 さて、これで30分程度消費してしまった。他に予定が無いので散策しつつ、イリーナや凜でも見つけようか……いや、イリーナを見つけてしまうと良いように集られてしまう。
「どうするかぁ」
 乾パンだけでは忍びないので、他に食料を扱うところを覗いてみようか。ほぼ予算が無いけど。
 人が行き交う広場を歩きつつ、周囲に目をやるが……この辺りの住民か、俺たちと同じようなフィールドグレーの制服を着た連中だけだ。
 ただ、それだけの人間がいる中でも目に留まった人物がいた。小さな体を薄汚れたショーウィンドウにくっつけて何かをまじまじと見つめている。
 全く動こうとしない彼女に近づき、声を掛けてみる。
「凜。どうしたんだ?」
「……直秋さん」
 黒髪を揺らして、こちらに振り向いた凜。彼女の行動も気になるが、お供であるイリーナがいないのも気がかりだ。
「まずは何をしてるのか教えてくれ」
「……これを見ていました」
「なるほどな」
 彼女が見ていたもの。それは、色あせた子供用のドレスだ。元は水色を基調としたものだったのだろうが、放置されているせいか白いドレスにも見える。
 この短期間で、本当に人間のような思考になっているのか? 食べ物の次は、女の子が興味を持ちそうなものに惹かれている訳だし。
「……私にも物品を売買するための金銭はもらえるのでしょうか」
「お給料みたいなものは貰えるぞ。もう少し先だけどな」
「……これを手に入れたいと思います」
「なら、あまり無理せずに生き残る事を優先にな。イリーナみたいに脳天をぶち抜くのが得意なら別だが……ところで、もう一人のお嬢さんはどちらに?」
「……美味しいものを見つけたとのことで、ここで待っているように言われました。直秋さんの背後にいます」
 あまり振り向きたくはない。しかし、苦虫を噛み潰したような表情で待ち構えているであろう彼女を無視し続ける訳にもいかないだろう。
 恐る恐る振り返れば……予想通りの表情で立っているイリーナさんが目に入った。
「あのさ、脳天ぶち抜くとか褒めてるの?」
「褒めてます」
「あんまり可愛い感じじゃないから、好きじゃないんだけど」
 渋い表情の彼女は、手に持っている袋に入ったドライフルーツをパクリ。
「……私にも頂けますか?」
「はい、どうぞ」
 乾燥させたミカンだろうか、その1房を凜へ。受け取った彼女は、小さな口へ放り込み、モグモグと咀嚼した。
 数秒もしないうちに飲み込む凜。
「……とても美味しいです。チョコレートと違った優しい甘さです」
「俺にはくれないのか?」
「失礼な事を言う直君にはあげないよ」
 ぷいっとそっぽを向いてしまった狙撃手さんのご機嫌を取らなければ。
 俺は上着のポケットから、先ほど入手したネックレスと凜のグリスを取り出す。
「じゃあ俺からはこれを進呈しよう」
「何この箱?」
「そっちじゃなくて、この可愛い十字架のほうだ」
「え? これをくれるの!?」
「喜んでくれて何より」
 嬉しそうに受け取ったイリーナは、すぐにネックレスをかけてくれた。わぁ~っと声にならないような反応をしてくれる。贈った側としては満足だ。
「直君ってこんなセンス無いはずなのに……」
 おっと、せっかくなので選んだ理由を教えてあげないとな。
「イリーナが知ってるか分からないが、昔の映画で十字架に祈りを捧げてから狙撃していたスナイパーが居たんだと。イメージにぴったりだろ」
 直君ありがとうオーラを纏っていた彼女だが、一瞬にしてはぁ? という雰囲気に変わってしまった。
 話すべきでは無かったのか……いや、せっかくなら背景とか知りたいだろ。
「あのね」
「なんすか、イリーナ先輩」
「その話はいらないから」
「選んだ理由とか知りたいかなと思ったんだが」
「気が利いた事を言えないから直君はダメなんだよ」
「以後、気を付けます」
 それでも、もう一度ネックレスを見つめたイリーナは、少しだけ嬉しそうに微笑んだ。
 さて、次は凜だ。頼まれていたグリスを渡さなければ。
 彼女の方へ近づいて、黒い小さな箱を渡した。
「これで合っているか?」
 中身を確認するため、箱を開けた凜は数秒間黙ってしまう。
 間違えたのだろうか。
「……はい。アンドロールの純正品、私の型番にも適合するものです」
 腰辺りについたマガジンポーチに押し込むようにしまう彼女。
「そりゃ良かった」
「イリーナに凜も、他に用事があるなら――――」
 彼女らにこの後の予定を聞こうとした時、上空からの凄まじい音にかき消されてしまった。多量の風を巻き込んだその音は、ジェットエンジンの轟音そのもの。
 3人して上空を見上げれば、低空飛行をする双発輸送機だが――見たこともない形をした機体で、塗装も全て黒塗りにされていた。
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