[短編]天使の贈り物

月森冬夜

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天使の贈り物

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 ひさしぶりに天使たちが集まって会議をしていました。
 議題は毎回おなじ「どうしたら人間のおこないを良くできるか」です。

「罰が足りんのだよ。もっと厳しく裁かなければ!」

「いやいや、いつも、悪いことをしたら罰を与える、というばかりでは能がない。たまには善い人に褒美を与えてはどうか?」

「それもいいな。善行をしようという人間が今より増えるかもしれない」



 そういうわけで、世界中の善人候補のなかからひとりの中年男性が選ばれると、そのことを告げに天使のひとりが男の前に降り立ちました。

「かくかくしかじかで君が世界一の善人に選ばれたよ。おめでとう」

 男はとても信心深かったので、初めて天使を見てもそれほど驚きませんでした。
 そして、なにか願い事はないかと聞かれると、「世界がいつまでも平和であってほしい」といかにも善人らしい望みを言いました。

「いや、これは、君個人に特別に与えられるわけだから、なるべく個人的な望みにしてほしい」

 男はしばらく考えたあと、恥ずかしそうに小声で言いました。

「じつは意中の女性がいるのですが、仲を取り持ってはもらえませんか」

「もうしわけないが、人の心だけはどうにもならん。ほかにないかね?」

 男はがっかりして首を横に振りました。

「ほかにはなにも思いつきません。今のままで十分です」

「そうか、ほんとうに欲が無いな……」

 天使はすぐに代案を考えました。
 
「ではこうしよう。君が心の底から願うことが、なるべく現実になるようにしようじゃないか。世界平和も含めてな」

「はあ……」 

「ただし、さっきも言ったように、人の心は動かせない。それから、時間を戻すこともできないし、死んだ者を生き返らせることもできない。では、よろしく」

「はあ……」

 さえない返事をくり返す男を残して、天使は飛び去りました。



 それからの彼はなにもかもうまく行きました。
 心から願えばそれが叶うのですから、うまく行かないはずはありません。
 国家間や民族のいざこざも、男が「早くおさまれ」と思えば、大きな争いにならず平和的におさまりました。
 もともと、誠実で人柄の良い人物ですから、意中の女とも順調に交際を重ね、結婚する事ができました。
 しかし、幸せは長くはつづきませんでした。
 妻となった女はほかに男を作り、結果、離婚することになったのです。
 妻のことが忘れられず悲嘆に暮れる男のそばに天使が降りてきました。

「退屈な男は嫌だったか、残念だったな」

「うまく行っていると思ってたのに……」

「まあ、女心は複雑だからな」

「彼女がいない世界なんて、考えられない。こんな世界なんて……」

「おいおい、滅多なことを言うんじゃないよ」

「こんな世界なんて滅んでしまえばいい!」



「あーあ」

 廃墟となった地上に天使たちが降りてきました。

「また作りなおしかよ」

「世界一の善人だったんだぜ。どう転んでも悪くなる要素は無かったはずなんだが……」

「難しいなあ、人間は」

「今度は神様からマニュアルを貰ってきたよ、ほら」

「ふむ、いきなり文明を与えるのではなく、ひとりの人間から作っていくのか」

「名前は……『アダム』か」

「次はうまく行くかねぇ」

「さあてねぇ」

 天使たちはぶつぶつ言いながら、世界を再生すべく方々へ散って行きました。





 「天使の贈り物」

  ‐END‐
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