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第1部
1.
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まどろみの中で電話が鳴った。
南原茜は高校の制服のまま、自宅二階の自室のベッドに突っ伏していた。
「ん……」
携帯電話をいじりながら眠っていたらしい。
まだ、外は明るく、階下から夕食のお呼びもかからないので、そう長い時間眠っていたわけではないようだ。
部屋の中に響く旋律から、家族や親しい友人からの着信でないことはわかった。手の中にある携帯を起こし、薄目を開けて画面を見る。
――着信中 冴木祥子――
(さえきしょうこ……?)
おなじクラスの生徒ではあるが、電話で世間話をするほど親しくはない。
「……もしもしィ」
茜ははっきりしない頭で電話に出た。
「あ、南原さん? 冴木だけど……あのね」
冴木祥子は神妙な声で、ひと呼吸おいてつづけた。
「あのね……九多良木紫苑さんが亡くなったの」
「……え?」
とっさに「だれだっけ?」と聞き返すところだった。
九多良木紫苑はおなじ高校、おなじ学年の生徒である。しかし、入学してから一度も話したこともなければ、一緒のクラスになったこともない。
一気に目が覚めた茜はベッドの上に身体を起こした。スピーカー状態にした携帯を胡座をかいた脚の前にほうり、茶色みがかったショートカットの前髪をかき上げた。
「なんでまた……?」
なぜ死んだのか、なぜそれを祥子がわざわざ自分に連絡してくるのか、両方疑問だった。
「九多良木さん、何日か前から休んでたんだけど、死体が発見されたのよ。それが殺人の疑いがあって、犯人はまだ捕まってないの。だから、こうしてみんなに注意するように呼びかけてるの。男子には穂積君がしてるから」
「ああ……」
穂積の名を聞いて思い出した。穂積純哉は副委員長、冴木祥子は委員長だった。
「親にも先生たちから連絡があると思うけど、十分気をつけてね、外出はなるべく避けて、どうしてものときもひとり歩きはしないように。じゃあ、まだ電話しなきゃならないから」
「うん、わざわざありがと」
寝起きということもあるが、茜はどこか他人事のように聞いていた。九多良木紫苑のことはあまり印象がなく、急に「殺された」と言われてもテレビドラマの出来事のようで現実味がなかった。
実際、殺人犯がこのあたりをうろうろしているのであれば非常事態にちがいないが、九多良木紫苑とは中学も別だったし、殺人現場がどこかは知らないが、自宅はおそらくここからかなり離れていると思われた。冴木祥子の声だけが切迫していて、のほほんとしている茜の耳に危険をつたえていた。
出席番号順にかけていれば、あと三分の一といったところか。
茜は「大変ね」と言って電話を切ろうとして、何気なく窓の外をながめた。
そして、あわてて冴木の名を呼んだ。
「冴木さん!」
「なに?」
まだ、通話は切られていなかったようだ。
「死んだのは……殺されたのは、くたらぎしおん……さん、だったよね?」
窓の外を見下ろす茜の声は急に弱々しくなった。
「うん、そうだけど」
「くたらぎしおん……」
茜はか細く小さな声で言った。
「いま……家に来てる……」
女子高校生幽霊奇譚
『STAND BY ME…』
南原茜は高校の制服のまま、自宅二階の自室のベッドに突っ伏していた。
「ん……」
携帯電話をいじりながら眠っていたらしい。
まだ、外は明るく、階下から夕食のお呼びもかからないので、そう長い時間眠っていたわけではないようだ。
部屋の中に響く旋律から、家族や親しい友人からの着信でないことはわかった。手の中にある携帯を起こし、薄目を開けて画面を見る。
――着信中 冴木祥子――
(さえきしょうこ……?)
おなじクラスの生徒ではあるが、電話で世間話をするほど親しくはない。
「……もしもしィ」
茜ははっきりしない頭で電話に出た。
「あ、南原さん? 冴木だけど……あのね」
冴木祥子は神妙な声で、ひと呼吸おいてつづけた。
「あのね……九多良木紫苑さんが亡くなったの」
「……え?」
とっさに「だれだっけ?」と聞き返すところだった。
九多良木紫苑はおなじ高校、おなじ学年の生徒である。しかし、入学してから一度も話したこともなければ、一緒のクラスになったこともない。
一気に目が覚めた茜はベッドの上に身体を起こした。スピーカー状態にした携帯を胡座をかいた脚の前にほうり、茶色みがかったショートカットの前髪をかき上げた。
「なんでまた……?」
なぜ死んだのか、なぜそれを祥子がわざわざ自分に連絡してくるのか、両方疑問だった。
「九多良木さん、何日か前から休んでたんだけど、死体が発見されたのよ。それが殺人の疑いがあって、犯人はまだ捕まってないの。だから、こうしてみんなに注意するように呼びかけてるの。男子には穂積君がしてるから」
「ああ……」
穂積の名を聞いて思い出した。穂積純哉は副委員長、冴木祥子は委員長だった。
「親にも先生たちから連絡があると思うけど、十分気をつけてね、外出はなるべく避けて、どうしてものときもひとり歩きはしないように。じゃあ、まだ電話しなきゃならないから」
「うん、わざわざありがと」
寝起きということもあるが、茜はどこか他人事のように聞いていた。九多良木紫苑のことはあまり印象がなく、急に「殺された」と言われてもテレビドラマの出来事のようで現実味がなかった。
実際、殺人犯がこのあたりをうろうろしているのであれば非常事態にちがいないが、九多良木紫苑とは中学も別だったし、殺人現場がどこかは知らないが、自宅はおそらくここからかなり離れていると思われた。冴木祥子の声だけが切迫していて、のほほんとしている茜の耳に危険をつたえていた。
出席番号順にかけていれば、あと三分の一といったところか。
茜は「大変ね」と言って電話を切ろうとして、何気なく窓の外をながめた。
そして、あわてて冴木の名を呼んだ。
「冴木さん!」
「なに?」
まだ、通話は切られていなかったようだ。
「死んだのは……殺されたのは、くたらぎしおん……さん、だったよね?」
窓の外を見下ろす茜の声は急に弱々しくなった。
「うん、そうだけど」
「くたらぎしおん……」
茜はか細く小さな声で言った。
「いま……家に来てる……」
女子高校生幽霊奇譚
『STAND BY ME…』
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