スズランの話

ookubo akira

文字の大きさ
1 / 3

スズランの話

しおりを挟む
近くの山でただ鳥の鳴き声が聞こえる、通りには人通りも無く、午後になっても訪れる客はなかった。
今年で47歳独身、アトピーで悩み、心も病んでいた。
20年続けてきた花屋も、もう潮時か、心が折れそうだった。
もしここで、「ポキリ」と、音がしたら僕の心のおとだろう。
そんな時、一人の女性が訪れた、
「こんにちは、末永さんの紹介で…。」
その女性は、笑ってた、髪は長くブラウン、目の色さえブラウンに見えた、でも、日本人だろう。
「パリジェンヌ!?」と、僕は驚いて声が上ずってしまった。
そう言えばと、ピンとくるものがあった。
数週間前、東京に住んでる親友の末永秀行、通称「米」と話している中で米が、
「俺が、そっちに居る頃からの知り合いで、パリに20年デザイナーとして活躍していた女性が、地元島原に帰ってる、お前の店の近くに住んでるんだ。」と、教えてくれた。
「是非、紹介してくれ、近くを通った時には、花屋に寄って貰えないだろうか。」と、頼んでいた、注文していた女性が今日、現れたのだ。
パリジェンヌは、店内を軽く見まわし、ガラス張りのフラワーキーパーの中の花を見て、
「キレイな花がいっぱいですね。」と、言う、確かに、キーパーの中は花でいっぱいだ、自分のこだわりで、売れ筋じゃない花、他店には無い花で埋め尽くされ、はっきり言えば、売れ残っていた。
「来てくださってありがとうございます。どうぞお座りになってください。」
と、カウンターの席を勧めた。
うちの店は、バーカウンターのようになっていて、目の前に座っていただいて、花束、アレンジを作って、販売していた
もちろん、急ぎのお客様の場合には、作り置きの分を販売するが、そうじゃ無い場合は、好みを聞いて作ってる。
パリジェンヌが聞き上手なところもあって、1時間ほど話したようなきがする、花の事は、少ししか話さず、心の内側の話まで、話してしまった。母親の介護のために、日本に戻って来ているという彼女は、「そろそろ、帰らないと、母が待っているから。」と、席を立った。
一つ一つの動作が優雅で、まさにパリの女性だ。
「また近いうちに来るから。」と、言い店を出て、表に変な具合に斜めに停めてあった、黒い車に乗り込んだ、見送るために見ていると、何やら危なっかしい、慣れない手つきでハンドルを回し、車はバックを始めた、僕は、道路に出て誘導した、おそらくパリでは運転していなかったのだろう、パリジェンヌは、窓を開けて、笑顔で手を振ってくれた。
可愛いと思いつつ、僕も手を振った。
気づくと、少し心に灯りが点いたようでもあった。
パリの話しも聞いたけど、僕とは別世界のはなしで、上流階級との付き合いが多いようだ、なんか、非現実的に感じられた、しかし、彼女にとっては日常で、鼻にかけてるとか、自慢話には聞こえない、不思議な女性であり、初めて会った人種、やっぱりパリジェンヌだった。
数日後、花の仕入れで、朝5時に起きるとパリジェンヌからメールが届いていた、真夜中の着信で。
「ねえ、起きてる、実は明日、パリから友人がやってくるの、彼女はパリで一人ぼっちになっちゃったの、観光も何もしない、ただ私に会うためだけにやってくるの、彼女の寂しい気持ちを、お花で盛り上げたいの、協力してくれる、ホテルにはウエルカムドリンクをたのんでるの(シャンパンといちご)。」
日本酒にスルメのパリバージョンかぁ、さすが、洒落てるなぁと、感心しつつ、続きを読むと。
「シャンパンの横には薔薇が似合うと思うけど、今の彼女にはちょっと重いのよねぇ、チューリップにしようかしら、それとも大輪のガーベラにしようかしら色を混ぜて、どうしよう、まとまらないわ、明日、何時に帰ってくるの12時半までだったら動けるの、それまでにお花準備出来る?それ以降だったら、今回は残念ね、月曜日は花の仕入れで、昼頃に帰るということは聞いてたけど、早めに帰って来て、お願い。」
まだ、朝早いが、僕はメールを返した、4月27日ことだ。
「おはようございます、是非、協力させてください、チューリップの時期は終わり出荷がありません、大輪のガーベラがいいでしょう、品種、色については任せてください、急げば11時頃には店に戻るでしょう。」
僕は急ぎ、市場から帰り、まだ11時、まだ見ぬパリからの友人をイメージして、ソープという大輪のガーベラを仕入れ、ガラスの花器に生けた、電話でもしようかというところに、ちょうどパリジェンヌがやって来た。
「間に合ってよかった、急いでくれたのね、ありがとう。」
円柱状のガラス花器に生けたガーベラを眺める。
「いいわね、もう少し長さを切ってくれる、それと、色を混ぜようかしら。」
僕は不満だった、少し切るのはいいけど
色を混ぜることに関しては、ちょっと…このなんとも言えない、ベージュのような、ピンクのような色合いが持ち味の大輪ガーベラソープに、色を混ぜることは出来ない。
会ったこともないが、パリジェンヌの友人のイメージは、化粧も控えめ、デニムにリネンのシャツが似合う女性なのだ、明る目の色を混ぜた方が、寂しい気持ちをやわらげるとは思わない。
デザイナーで、信念があり、自分の意見を曲げそうにないパリジェンヌに、反論を試みた。
「僕はこれでいいと思います、色を混ぜると、せっかくのソープの淡い色が消されてしまいます、これでお願いします。」
「そうかしら。」少し、考える素振りを見せたけど
「そうね、何も入れない方がいいね。」予想に反して、にっこり笑って頷いてくれた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...