5 / 9
5.反省文監督。
しおりを挟むそしてあっという間に放課後がやってきた。
見事推しと一緒に帰る約束を取り付けた私は、沢村くんと帰れる2時間後を思いながらも、風紀委員室で、委員会活動に励んでいた。
…と、言っても、私の委員会活動は、やっても1時間くらいだ。
あと1時間は、沢村くんの部活が終わるまで、どこかで時間を潰さなくてはならない。
いつもより長く仕事をして、少しの時間だけ、こっそり沢村くんの部活を見て、一緒に帰ろうかな…。
この後の計画を立てながらも、書類を軽く確認していると、机を挟んで向こう側にいる金髪が目に入った。
金髪とはもちろん千晴のことだ。
千晴はあまりにもダイナミックに校則違反をするので、この度、私の決定ではなく、風紀委員の顧問の先生によって、千晴の反省文提出が決まったのだ。
そしてその千晴の監督を何故か風紀委員から選ぶことになり、私に白羽の矢が立った。その為、私は今、千晴とマンツーマンでこの風紀委員室にいた。
全く何故こうなったのか。
一生徒の風紀委員が、監督する理由も、突然千晴に反省文を書かせる流れになった理由も、全く意味がわからない。
まあ、風紀委員として仕事を頼まれたのならば、受けるしかないのだが。
それにこれに懲りて、千晴が校則を守るようになれば、万々歳だ。
改めて手に持っている書類に目を通しながらも、監督する為に、千晴を盗み見る。
窓から入る明るい夏の日差しを受けて、キラキラと輝く金髪はやはり、綺麗な顔をした千晴にはよく似合っていて。
プリントに視線を落とす、まつ毛はとても長く、その綺麗な顔に影を落としていた。
スッとした鼻、形の良い口、整った眉。
千晴の全ては、まるで作り物のように、完璧だ。
やっぱり、綺麗な顔だよね。
目の前にいる男に、私はしみじみ思った。
黙ってきちんとしていれば、絶対いろいろと得するはずなのに、どうしてそうしないのだろうか。
うちの高校の進学科に入れたということは、頭だっていいはずだ。
それなのに校則は破りまくるし、悪い噂が付きまとうくらいには素行が悪くて周りから怖がられているし。
何か理由でもあるのだろうか。
自分が不利になることを続ける理由が。
すっかり書類に目を通すことを忘れて、じっと千晴を見ていると、バチっと千晴と目が合った。
少し気怠げな千晴の瞳が、私の瞳の奥底を覗くように、じっと見つめる。
「ねぇ」
それからゆっくりとその形の良い口を動かした。
「バスケ部のあの沢村ってやつと本当に付き合ってんの?」
無表情にだが、どこか気になっている様子で、私を見る千晴に、まだここにも残党が…と重たい気持ちになる。
どうやら千晴も私と沢村くんの関係を疑っているようだ。
「そうだよ。付き合ってるよ」
私は力強く、疑う余地なんてないように、しっかりとそう答えた。
すると千晴は無表情のまま私に質問を続けた。
「先輩って誰かと付き合ったことあった?今まで」
「ない。沢村くんが初めて」
「…ふーん」
私の答えに千晴が面白くなさそうな顔をする。
何だ?何故そんな顔をするんだ?
疑いはまだ晴れていない、とか?
千晴の次の言葉に身構えていると、千晴は面白くなさそうな顔のまま口を開いた。
「俺、先輩が好き。だから先輩の初めては全部俺がいい」
誰もが美しいと思うであろう顔の持ち主が、何だかおかしなことを言っている。
絵に描いたような完璧な美人である千晴は、その代償として、どこか頭がおかしいらしい。
「…誰かの初めてを独占したいなんて普通に考えても無理でしょ?きっと親でも無理だよ?」
「でもそれが俺の望みなんだもん」
呆れたように千晴を見れば、千晴はどこか拗ねたようにこちらから視線を逸らした。
私よりも遥かに大きなこの男に、何故か可愛いと思ってしまう。
「ふふ、私、反省文の監督なんて初めてだよ」
だからなのか、私はつい柔らかく千晴に笑ってしまった。
「こんなに注意して全く改めない奴も初めてだし、こんなにも四六時中悩まされる相手はアンタが初めてだから」
そこまで言い、やはりとんでもないやつだ、コイツ、と改めて思う。
なので、そのまま、千晴に「本当、いい迷惑だわ」と文句を言うと、千晴はまた嬉しそうに私を見た。
「柚子先輩の初めて、俺知らない間にたくさんもらってたんだね」
「…いや、手に負えないっていうクレームなんですけど」
ペチンと呆れたように千晴の頭を軽く叩くと、千晴は嬉しそうに瞳を細めた。
その瞳が何故かとても甘い気がして、私はどこか落ち着かない気持ちになった。
0
あなたにおすすめの小説
溺愛ダーリンと逆シークレットベビー
吉野葉月
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。
立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。
優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?
好きな人の好きな人
ぽぽ
恋愛
"私には何年も思い続ける初恋相手がいる。"
初恋相手に対しての執着と愛の重さは日々増していくばかりで、彼の1番近くにいれるの自分が当たり前だった。
恋人関係がなくても、隣にいれるだけで幸せ……。
そう思っていたのに、初恋相手に恋人兼婚約者がいたなんて聞いてません。
ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~
cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。
同棲はかれこれもう7年目。
お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。
合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。
焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。
何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。
美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。
私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな?
そしてわたしの30歳の誕生日。
「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」
「なに言ってるの?」
優しかったはずの隼人が豹変。
「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」
彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。
「絶対に逃がさないよ?」
旦那様の愛が重い
おきょう
恋愛
マリーナの旦那様は愛情表現がはげしい。
毎朝毎晩「愛してる」と耳元でささやき、隣にいれば腰を抱き寄せてくる。
他人は大切にされていて羨ましいと言うけれど、マリーナには怖いばかり。
甘いばかりの言葉も、優しい視線も、どうにも嘘くさいと思ってしまう。
本心の分からない人の心を、一体どうやって信じればいいのだろう。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした
鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、
幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。
アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。
すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。
☆他投稿サイトにも掲載しています。
☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。
幼馴染の許嫁
山見月 あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。
彼は、私の許嫁だ。
___あの日までは
その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった
連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった
連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった
女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース
誰が見ても、愛らしいと思う子だった。
それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡
どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服
どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう
「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」
可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる
「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」
例のってことは、前から私のことを話していたのか。
それだけでも、ショックだった。
その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした
「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」
頭を殴られた感覚だった。
いや、それ以上だったかもしれない。
「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」
受け入れたくない。
けど、これが連の本心なんだ。
受け入れるしかない
一つだけ、わかったことがある
私は、連に
「許嫁、やめますっ」
選ばれなかったんだ…
八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。
わんこ系婚約者の大誤算
甘寧
恋愛
女にだらしないワンコ系婚約者と、そんな婚約者を傍で優しく見守る主人公のディアナ。
そんなある日…
「婚約破棄して他の男と婚約!?」
そんな噂が飛び交い、優男の婚約者が豹変。冷たい眼差しで愛する人を見つめ、嫉妬し執着する。
その姿にディアナはゾクゾクしながら頬を染める。
小型犬から猛犬へ矯正完了!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる