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46.文化祭二日目。
しおりを挟むside柚子
昨日は最高の1日だった。
推しからのファンサに次ぐファンサ。
吸血鬼カフェでの吸血鬼な悠里くん。
バスケ部の出し物でのユニフォーム姿の悠里くん。
オムレツを私から食べ、チェキ撮影まで。
まるで夢のような1日で、さらにはカップルコンテスト出場の名誉までいただけるとは。
全てが最高で、最強。素晴らしい。
悠里くんのことで頭がいっぱいだ。
けれど、その中に、千晴の姿もあった。
昨日の千晴は心臓に悪かった。
無茶を言ってそれを通す姿はいつも通りで、呆れてしまったが、まさか最後の最後におでこに、…キ、キスをしてくるとは。
あんなこと、誰にもされたことなどない。
初めてだった。
近づく千晴の顔は美しく、迫る金髪は輝いていて。
そっと触れられた唇の柔らかさと熱が、今も消えてくれない。
嫌というほど何度も何度も繰り返し、あの場面を鮮明に思い出してしまう。
「…んんっ」
また思い出してしまったあの場面に、私は軽く咳払いをして、ぶんぶんと首を横に振った。
千晴はただの後輩だ。
何を意識しているんだ。
あれはきっと千晴なりのお世話になっている先輩に対する変な愛情表現なのだ。
大金持ちのボンボンなら、今まで海外で過ごす時間もあったはず。そこでそういったスキンシップの方法を学んだのかもしれない。
その結果、あの場面でキスをかましてきたのだ。
ーーー全く、心臓に悪いやつだ。
仲の良い相手が私しかいないので、日本人の適切な距離感をいまいちわかっていないのだろう。
先輩としてきちんと正しい距離感を教えなければ、今後千晴の周りに死人が続出してしまう。
「柚子?どうしたの?」
1人で忙しなく顔色を変えていると、隣にいた悠里くんが心配そうに私を見た。
「あ、いや!何でもない!ちょっと考え事してて!」
なので、私は、そんな悠里くんに慌てて首を振った。
決して心配されるようなことはない、と。
文化祭2日目の午後。
私と悠里くんは、さまざまな出し物で賑わっている第一校舎の廊下を歩いていた。
ずらりと並ぶ各教室には、それぞれ工夫を凝らした装飾がされており、たくさんの生徒や外部のお客さんたちで賑わっている。
定番であるお化け屋敷のクラスの装飾は、暗く不気味に、少し歩いた先にある縁日のクラスは、和風で懐かしく、その向こうにある美術部の展示は、美術館をイメージした落ち着いた白で統一されていた。
歩く先々には、さまざまなクラス、部活、の個性が光る出し物があった。
楽しい雰囲気の中、悠里くんが「考え事?悩みとかあるなら相談に乗るよ?」と心配そうに微笑んでくれる。
どの出し物も今日までの生徒たちの努力の結晶で、素晴らしいものなのだが、それでもこの悠里くんの輝きには勝てなかった。
悠里くんと文化祭中に2人で過ごせるのは、今この時しかない。
この貴重な時間を大切に過ごさなければ。
「悩みとかじゃなくて、昨日のことを考えてたの。楽しかったなぁ、て」
「あ、なるほど。確かに昨日は楽しかったよね」
私の答えに納得したように、ふわりと笑う悠里くんの手は、今、何故かとても自然に私の手を握っている。
しかも指を絡ませる恋人繋ぎスタイルだ。
人で溢れる廊下内を恋人繋ぎで歩く2人。
誰がどう見ても熱々のカップルにしか見えないだろう。
私は悠里くんの行動に、抜かりないな、と感心していた。
千晴の昨日のとんでもない行動のおかげで、現在、学校中で、千晴と私の関係について、大変騒がれている。
千晴と私が実は付き合っているだとか、私の本命は千晴だとか…。全く見当違いな噂が後を絶たない。
その噂に対抗する為の対策が、この人前での自然な恋人繋ぎなのだろう。
あくまで、悠里くんが真剣に私と付き合ってくれているのは、部活に身を入れる為だ。
悠里くんにとってバスケとは、とても大きな存在で、全力を注ぐもの。それを邪魔するものは、できるだけあってはならない。
私という彼女がいるおかげで、悠里くんは以前のように誰かから無理やり好意を押し付けられず、大事な時間を練習に当てられていた。
しかし、その私が少しでも、彼女…という名の壁を全うできなければ、私が彼女である意味がなくなってしまう。また好意を無理やり押し付けられる日々が、悠里くんの大切な時間を奪ってしまう。
だからこそ、今回、カップルコンテストにも出場することにしたのだろう。
その相手が私になるとは、私は前世で一体どんな徳を積んだのか。
たくさんの命を救ってきた英雄だったのか。
悠里くんと手を繋いで、廊下を歩き続けていると、とあるものを見つけた。
デカデカと遠目からでも見える〝カップルコンテスト〟と書かれた文字。
ずらりと並べられた約20枚ほどの男女のツーショット写真。
その下に貼られた大量の小さなシール。
その横に立つ、放送委員の男子生徒。
あれは間違いなく、カップルコンテストの掲示板だ。
気がつけば、私たちはそこへと足を運んでいた。
「…」
そして私は昨日撮った私たちの写真の下のシールの数に驚いて、大きく目を見開いた。
写真の下に貼られているシールこそが、1人一回できる投票のシールなのだが、その数が私たちのところだけ、圧倒的に多いのだ。
私たちはどこからどう見ても、ぶっちぎりで一位を爆走中だった。
まさかこんなにも投票されているとは。
悠里くんの人気恐るべし。
予想外の結果に思わず驚いてしまったが、次に私にきたのは喜びだった。
ベストカップルに選ばれれば、タキシード姿の推しが見られる。つまり、この時点で、推しのタキシード姿がほぼ確定した、ということだ。
結婚する推しの姿が見られるなんて。
絶対、かっこいいに決まっている。
昨日から、吸血鬼悠里くんに、ユニフォーム悠里くんに、最後にはタキシード悠里くんとは。
文化祭最高すぎでは?365日開催した方がいいのでは?
そんなことを思い、つい頬が緩んでいると、隣にいた悠里くんがポツリと呟いた。
「…柚子のウェディング姿、楽しみだな」
「…」
あまりにも甘く優しい声音に首を捻る。
ウェディング姿?柚子の?
「…っ!」
そうか!私もベストカップルに選ばれたらウェディングドレス着るんだ!
やっと状況を理解した私は、そうだった!と思い出したと同時に焦った。
私なんかがウェディングドレスを着るとは。
しかも悠里くんの横に立つとは、嬉しい気持ちもあるが、畏れ多いという感情の方が余裕で勝ってしまう。
「柚子?」
突然、顔色の悪くなった私に、悠里くんは「どうしたの?」と心配そうに顔を覗き込んできた。
かっこよくて優しい瞳に見つめられて、胸がじーんっと熱くなる。
見た目も中身も完璧な人はきっとこの人しかいない。
「い、いや、何でもない。ただちょっととんでもない大役に緊張してるだけで…」
改めて自分たちの投票スペースの小さなシールたちを睨みながらそんなことを言うと、悠里くんはその瞳を柔らかく細めた。
「…大役か。そう言われると確かに緊張するかも。俺も柚子の相手役っていう大役だから」
「…っ!!!!!」
ズキューン!!!!と心臓の真ん中にときめきの矢が突き刺さる。
照れくさそうに、だが、どこか嬉しそうに笑う悠里くんはラブ狙撃ならぬ、ラブテロリストだ。
まさかこんな可愛らしい発言をされるとは夢にも思わなかった。
…可愛い。
推しがとにかく可愛い!
悠里くんの全てにやられながらも、私は必死で、冷静を装った。
ここはたくさんの生徒が往来する場所。
鬼の風紀委員長が、緩み切った表情を見せるわけにはいかないのだ。
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