推しに告白(嘘)されまして。

朝比奈未涼

文字の大きさ
54 / 108

54.彼氏ではない。

しおりを挟む



12月24日。
千晴との約束の日。

私は自分の部屋で、千晴の迎えを待ちながら、一泊二日の泊まり込みバイトで必要なものを鞄に詰めていた。
…と、いっても、千晴からは特に何も持ってこなくていいと言われている。
その為、私はいつも出かける時に使っているトートバッグに、とりあえず財布とスマホを入れて、あとは何が必要か考え込んでいた。

ハンカチは服の方に入れるので、バッグに入れる必要はない。
筆記用具とメモ帳くらいはいるだろうか?

うんうんと1人で悩みながら必要そうなものを入れては、出してを繰り返す。
結局、いつもと変わらぬ荷物を準備できたところで、私は最後に、愛用している茶色のマフラーを首に巻きつけた。

ちょうどその時。
ピンポーン、と家のチャイムが鳴り、「あらぁ」という、いつものお母さんの声が聞こえた。
千晴が迎えにでも来たのかな、と何となく思い、鞄を肩にかけると、お母さんは明るく言った。



「柚子~!彼氏さんが迎えに来たわよ~!」



えーー!!!!!
悠里くん!!!???

お母さんの言葉に驚いて、慌てて、扉を開ける。

悠里くんは今日、ウィンターカップだったはずだ。
確か今日が初戦で、ここにいるわけがない。
だが、もしかすると、私の顔を一目見ようと来てくれたのかもしれない。

そうだ、絶対にそうだ!

ドタバタと廊下から階段へと向かい、急いで降りると、見慣れたお母さんの背中とーーー。



「先輩、おはよ」



ふわりと笑う金髪美人、千晴が立っていた。
…どうやらまだお母さんは勘違いしているらしい。



「お母さん!千晴は彼氏じゃないって前も言ったよね!?」

「もう!照れちゃって!クリスマスをお泊まりで一緒に過ごすんでしょ?付き合ってないわけないじゃない!」



言い聞かせるように放った私の言葉に、お母さんがおかしそうに笑う。
それから千晴に「ごめんなさいねぇ、この子ったら照れちゃって」と楽しそうに謝っていた。
そんなお母さんに千晴は「いえ」と丁寧に返事をしている。

千晴、敬語とか人様に使えたんだ。
…じゃなくて。



「千晴!アンタも否定しなさい!」

「え?何で?」

「何で?じゃない!」



キョトンとしている千晴に怒鳴るが、本人はそれでも不思議そうで、頭が痛くなる。
お母さんも千晴もまるで私がおかしいのだと言いたげな目で私を見てきて、私は頭を抱えた。

何故、真実を言っている私がこんな目で見られなければいけないんだ!



「あのね、お母さん。私はこれから後輩の千晴の家に住み込みでバイトに行くだけで…」

「お義母さん。俺は柚子先輩の後輩で、彼氏です」



今まさに丁寧にお母さんの誤解を解こうとしているというのに、それを無表情な千晴が遮る。
あまりにも堂々としている為、嘘をついているくせに、そうは見えないのが、とても悔しい。

さらりと人のお母さんのことを、お義母さんと呼ぶな。



「千晴、アンタ…」

「時間ないから行くよ、先輩。それじゃあ失礼します」

「はぁーい。楽しいクリスマスを過ごしてねぇ」



文句の一つでも言ってやりたかったが、それは叶わず。
嘘を嘘だとは思わず、すっかり信じ込んでいるお母さんに笑顔で見送られて、私たちは家から出たのだった。



*****



以前、千晴とメルヘンランドに行った時に乗った、あのリムジンで移動すること、約30分。
ついに私たちは千晴の家…あの華守グループの大豪邸へと着いていた。

リムジンの中から汚れひとつない綺麗な窓に手を当てて、その大豪邸をまじまじと見つめる。

大豪邸の周りは、豪華な塀で囲まれており、人が住んでいる家には見えない。
しかも、その塀のかなり奥に大豪邸があるようで、ここからは全貌が見えなかった。

あの向こうはリゾート地なのか?
それともホテルなのか?
本当にたったひと家庭のお宅なのか。

千晴の妹ちゃん、千夏ちゃんが以前うちを見て、犬の家と同じ大きさ、と言っていた理由が、これを見て痛いほどわかってしまった。
ここが千夏ちゃんにとって普通なら、うちが異常に小さく見えただろう。

あまりのスケールに放心していると、リムジンはゆっくりと停車した。
リムジンの運転席側には、小さなボックスのような建物がある。
一部ガラス張りのそこには、守衛さんのような人がおり、何やら運転手さんとやり取りをしていた。

そしてそのやり取りが終わると、リムジンは再び進み出した。
それと同時にリムジンの目の前にある門が、ゆっくりと自動で開かれていく。



「…」



とんでもないところに来てしまったのかもしれない、と私は目に映るもの全てに息を呑んだ。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

付き合ってもいないのに、幼なじみの佐藤がプロポーズしてきた

ぽぽよ
恋愛
「俺らさ、結婚しない?」 三十二歳、独身同士。 幼なじみの佐藤が、たこ焼きパーティの最中に突然言い出した。 付き合ってもないのに。 夢見てた甘いプロポーズじゃないけれど、佐藤となら居心地いいし、給料もあるし、嫁姑問題もないし、性格も知ってる。 断る理由が、ない。 こうして、交際0日で結婚することが決まった。 「とりあえず同棲すっか」 軽いノリで決まってゆく未来。 ゆるっとだらっと流れていく物語。 ※本編は全7話。 ※本編完結後、ゆるいSS投稿予定。 ※サイドストーリー(切なめ)投稿予定。

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那
恋愛
 いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。 ◇◇◇◇  私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。  元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!  気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?  元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!  だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。 ◇◇◇◇ ※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。 ※アルファポリス先行公開。 ※表紙はAIにより作成したものです。

氷狼魔術師長様と私の、甘い契約結婚~実は溺愛されていたなんて聞いていません!~

雨宮羽那
恋愛
 魔術国家アステリエで事務官として働くセレフィアは、義理の家族に給料を奪われ、婚期を逃した厄介者として扱われていた。  そんなある日、上司である魔術師長・シリウスが事務室へやってきて、「私と結婚してください」と言い放った!  詳しく話を聞けば、どうやらシリウスにも事情があるようで、契約結婚の話を持ちかけられる。  家から抜け出るきっかけだと、シリウスとの結婚を決意するセレフィア。  同居生活が始まるが、シリウスはなぜかしれっとセレフィアを甘やかしてくる!? 「これは契約結婚のはずですよね!?」  ……一方セレフィアがいなくなった義理の家族は、徐々に狂い始めて……? ◇◇◇◇  恋愛小説大賞に応募予定作品です。  お気に入り登録、♡、感想などいただければ、作者が大変喜びます( . .)"  モチベになるので良ければ応援していただけると嬉しいです! ※この作品は「小説家になろう」様にも掲載しております。 ※表紙はAIイラストです。文字入れは「装丁カフェ」様を使用しております。

心が読める私に一目惚れした彼の溺愛はややヤンデレ気味です。

三月べに
恋愛
古川七羽(こがわななは)は、自分のあか抜けない子どもっぽいところがコンプレックスだった。 新たに人の心を読める能力が開花してしまったが、それなりに上手く生きていたつもり。 ひょんなことから出会った竜ヶ崎数斗(りゅうがざきかずと)は、紳士的で優しいのだが、心の中で一目惚れしたと言っていて、七羽にグイグイとくる! 実は御曹司でもあるハイスペックイケメンの彼に押し負ける形で、彼の親友である田中新一(たなかしんいち)と戸田真樹(とだまき)と楽しく過ごしていく。 新一と真樹は、七羽を天使と称して、妹分として可愛がってくれて、数斗も大切にしてくれる。 しかし、起きる修羅場に、数斗の心の声はなかなか物騒。 ややヤンデレな心の声!? それでも――――。 七羽だけに向けられるのは、いつも優しい声だった。 『俺、失恋で、死んじゃうな……』 自分とは釣り合わないとわかりきっていても、キッパリと拒めない。二の足を踏む、じれじれな恋愛模様。 傷だらけの天使だなんて呼ばれちゃう心が読める能力を密かに持つ七羽は、ややヤンデレ気味に溺愛してくる数斗の優しい愛に癒される? 【心が読める私に一目惚れした彼の溺愛はややヤンデレ気味です。】『なろうにも掲載』

【完結】死の4番隊隊長の花嫁候補に選ばれました~鈍感女は溺愛になかなか気付かない~

白井ライス
恋愛
時は血で血を洗う戦乱の世の中。 国の戦闘部隊“黒炎の龍”に入隊が叶わなかった主人公アイリーン・シュバイツァー。 幼馴染みで喧嘩仲間でもあったショーン・マクレイリーがかの有名な特効部隊でもある4番隊隊長に就任したことを知る。 いよいよ、隣国との戦争が間近に迫ったある日、アイリーンはショーンから決闘を申し込まれる。 これは脳筋女と恋に不器用な魔術師が結ばれるお話。

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

譲れない秘密の溺愛

恋文春奈
恋愛
憧れの的、国宝級にイケメンな一条社長と秘密で付き合っている 社内一人気の氷室先輩が急接近!? 憧れの二人に愛される美波だけど… 「美波…今日充電させて」 「俺だけに愛されて」 一条 朝陽 完全無欠なイケメン×鈴木 美波 無自覚隠れ美女

処理中です...