推しに告白(嘘)されまして。

朝比奈未涼

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56.メイドの仕事?

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暖かく、肌触りの良い布団。
ふわふわのマットレスは極上で、まるで雲の上にでもいるかのようだ。
幸せなまどろみの中、私は気持ちよく眠っていた。

すると、その声は突然聞こえてきた。



「失礼します!」

「…っ!?」



凛とした声に驚いて、意識が覚醒する。

ほ、本気で寝ていた!

まさかのしっかり取ってしまった睡眠に、私は慌てて体を起こそうとした。
…が、それは私を後ろから抱きしめる誰かによって、できなかった。

最高級ベッドの上で、誰かに抱かれて眠るこの奇妙な状況。
一体、何故こうなったのか。
私は眠る前の出来事を思い返した。



*****



千晴との映画鑑賞後、私たちは席を移動し、部屋に直接運ばれてきた昼食を共に取った。
とんでもないクオリティの超豪華昼食に、最初こそおそるおそる食べていたが、すぐにその虜になり、あっという間に完食したのは言うまでもない。

その後、千晴が私に一言。



「眠い」



それだけ言うと、千晴は天蓋付きのベッドへと、ぼすんっと倒れ込んだ。
程よく暖かい部屋に、時刻はお昼過ぎ。
ここには昼食後、どうしても眠たくなる条件がしっかり揃っているので、千晴の行動にも頷ける。
私も今が休日で自分の家なら昼寝をしたい状況だ。
だが、ここにはバイトで来ている為、私はそんな千晴を横目に、広すぎる部屋をじっと見つめた。

これから私は何をすればいいのだろうか。
掃除か、それとも、パーティー準備か。
この部屋の整理整頓…はする必要はなさそうだ。

とりあえず、執事長の影井さんのところに行って指示を仰ぐべきかな…。

この家のメイドとして何をすべきか考え、早速行動に移そうとする。
するとベッドで眠り始めたはずの千晴が、寝転んだままこちらを見た。



「何してるの?先輩も一緒に寝るんだよ?」



おかしなものでも見るような目でこちらを見て、「こっちおいで」と千晴が甘く囁く。
その姿に私は首を傾げた。



「何で?寝ないよ?働かないとだし」

「俺のメイドは俺と一緒に過ごすことが仕事だけど?」

「…はぁ」



淡々と千晴から伝えられたことに、思わず間の抜けた返事をしてしまう。
何が言いたいのか何となく察せるが、そんなおかしな仕事が本当にあるのだろうか。
お金持ちの世界だからこその常識なのだろうか。

うんうんと考え込んでいると、いつの間にかベッドから降りてきていた千晴が、すぐそこまで迫っていた。
そして千晴は私の手を掴むと、そのまま私をベッドへと引き込んだ。



「…え?」



気がつけば私は千晴に後ろから抱きしめられる形で、ベッドに転がっていた。

…どうしてこうなった。

思わぬ展開に、千晴の腕の中で、困惑と共に、疑問を抱く。

後ろから私を抱きしめる千晴の体は私よりもずっと大きく、しっかりしており、温もりを感じる。
ふわりと香る千晴の香りは、相変わらず甘くて優しい、いい匂いだ。

いつの間にか私の頭は、千晴でいっぱいになっていた。
それから何故か、ただの後輩相手に、心臓が加速した。

千晴相手にドキドキするなんておかしい。
なのにこの状況では、意識せずにはいられない。

私の早い鼓動に、千晴の心臓の音が重なる。
私のとは違い、ゆったりとしたその音は、次第に私を落ち着かせた。

ふわふわのマットレスに沈む感覚が気持ちいい。
掛けられた布団は柔らかく、肌触りも、最高だ。
千晴の体温も、心臓の音も、香りでさえも、全て、心地いいと思える。

最初こそこの状況に困惑し、心臓を忙しなく動かしていた私だったが、気がつけば眠気が私を襲っていた。
瞼が重くなり、開けていられない。



「…すぅ…すぅ」



そんな私に規則正しい千晴の寝息が聞こえてきた。
それがますます私の眠気を誘った。

…ダメ。今はバイト中だ。
寝る時ではないのだ。

そう自分に言い聞かせるが、瞼はどんどん下がっていく。

ああ、ダメだ。

暖かい千晴の腕の中。
私はゆっくりと意識を手放した。



*****



眠ってしまう前のことを思い出し、苦笑いを浮かべる。
つまり私を後ろから抱きしめて離さない誰かとは、間違いなく、千晴なのだ。



「もう約束の時間なのに何、寝ているの!?」



私を夢の世界から覚醒させた人物、千夏ちゃんは、「あり得ないわ!」と言いながら、何やら怒っている様子でこちらへと近づいてきた。

約束?一体何のことだろう?

千夏ちゃんの怒りの原因がわからず、私は首を捻る。
それからとりあえずこのままではいけないと思い、何とかベッドから出ようとした。
…したのだが。



「…んー!ち、千晴!離せぇ!」



私を抱きしめる千晴が、全くその手を緩めようとしない為、ベッドから出るどころか、起き上がることさえも叶わなかった。

私だけの力では、ここからの脱出は無理だと早々に悟り、千夏ちゃんに、「助けてください!」と切実に訴える。
すると千夏ちゃんはその美しい顔をほんの少し歪めて、ため息を吐いた。



「起きてください!お兄様!もうパーティーの支度の時間ですわ!」



凛とした綺麗な声が、この広すぎる部屋に響き渡る。
その声に千晴は「んん…」と小さく反応した。



「ん、千夏…。もうそんな時間?」

「ええ、そうです。女性の支度には時間が必要ですから」

「…ふぁ、そっか」



千夏ちゃんと千晴が淡々と何やらよくわからない会話をしている。

パーティー?女性の支度?
一体、2人は何の話をしているのか?

2人の会話に引き続き首を傾げていると、千晴は私を解放した。



「じゃあ、先輩よろしく、千夏」

「もちろんですわ」



ベッドから降りた私を千晴は何故か千夏ちゃんに預ける。



「…?」



何の情報もないまま、私は今の会話を元に考えた。

千夏ちゃんはパーティーの支度をする、と言っていた。
千晴は以前私に、パーティーがあり、人手不足だから、私にバイトを頼みたい、と言っていた。
つまり、これらのことを加味して、考えられることは一つだ。

ついにメイドの仕事をするのだ。
パーティー準備等の。

状況を理解した私は1人で深く頷いた。

やっと、本来の目的、メイドの仕事ができるようだ。



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