推しに告白(嘘)されまして。

朝比奈未涼

文字の大きさ
62 / 108

62.眩しい光。side千晴

しおりを挟む



女に手を引かれて逃げた先は、すぐ目の前に交番のある公園だった。
日がすっかり落ちた公園内には、当然誰もいない。
交番の光と、街灯の灯り、それから月明かり。
光源はたったそれだけだったが、ここはネオン街よりもずっと明るく見えた。



「ここまで来れば大丈夫でしょ…」



大きく肩で息をする女を俺は一瞥する。
女は交番に視線を向け、「こんなところで大乱闘にはならないはず」と汗を拭いながら頷いていた。

それから俺たちはその辺のベンチに腰を下ろした。



「で、さっきの人たちの話は本当なの?」



俺の隣にいる女がこちらに厳しい目を向ける。

確かにあの男たちが言っていたことは本当なのだろう。
覚えがありすぎて、一体どれのことを言っていたのかわからないが。

それをそのまま女に伝えると、女は握り拳を作り、それを大きく振りかぶった。
ゴンッと鈍い音が頭に響く。
気がつけば、俺は女に頭を思いっきり殴られていた。

頭に走った衝撃に、痛みよりも驚きが勝つ。
誰かに叱られて、殴られたのは初めてだ。



「このバカ!何やってんのよ!?」



眉間にシワを寄せ、本気で怒っている女に、何故か胸がじんわり温かくなる。

初めて俺に本気で叱ってくれた。

その事実に、感じたことのない違和感を覚えた。
そして初めての感覚に、俺は首を傾げ、その違和感の中心である胸を押さえた。

けれど、すぐにいつもの虚しい感覚が俺を支配した。

コイツは俺が何者か知らない。
以前、警察にお世話になった時、俺を叱ろうとした大人もいたが、警察に事情を説明させると、小さくなって何も言えなくなった。

人とはそういうものなのだ。
圧倒的上の存在には逆らえない。

きっと、コイツも同じだ。



「お前、俺にこんなことしていいの?俺、華守の跡取り息子なんだけど。お前なんて社会的に簡単に殺せるよ?大丈夫そ?」



見下すように笑い、冷たく女を見据える。
すると、女はその瞳に力を込めた。



「何、親のことで威張ってんのよ。威張るなら自分の力で威張りなさい。そんな脅しカッコ悪いだけだから」



あり得ない、と言いたげにため息を吐く女に、思わず、笑ってしまう。
まさか、こんなリアクションをされるとは。



「信じてない?俺が華守の跡取り息子だって」

「信じるもクソもないわ。どのみち親の力じゃん」

「ふは、まぁ、そうだね」



当然のように答えた女に俺は最後には吹き出した。
こんなにも心から笑えたのはいつ以来だろう。

この人、面白い。

気がつけば、俺は彼女に興味を抱いていた。

もっと知りたい。



「とにかく!もう悪いことはやめなさい。いつかアンタの身を滅ぼすよ」



勢いよく立って、彼女がもう一度俺の頭を殴る。
けれど、その拳は先ほどとは違い、優しいものだった。



「じゃあね」



最後に笑顔でそれだけ言うと、彼女はこちらに背を向けて歩き出した。



「…あ」



彼女に向けて手を伸ばすが、それは何もない空を切る。

まだ一緒にいたかった。
もっと知りたかった。

そう思ったけれど、もう遅く、彼女の背中は暗闇へと消えていた。
伸ばした手に、ただただ冷たい夜風が当たった。



*****



それから彼女に一目でも会いたくて、あの制服を頼りに彼女を探した。
そしてわかったことは、彼女が鷹野高校の1年生で、鉄崎柚子、という名前だということだった。



「鉄崎柚子…」



自分の部屋でソファに座りながら、ポツリと彼女の名前を呟く。
大きな窓の向こうに登る月は、今日も明るく、あの日のことを思い出す。

街灯と月明かりの下で、怒り、笑う、彼女。
彼女との時間は、俺に色を与えてくれた。
鮮やかで眩しい時間。もう一度だけ、感じたい。

瞳を閉じて、また彼女に会いに行く。
現実でも、必ず、会う。

こうして俺は、進学先を、華守学園の高等部ではなく、鷹野高校へと変えたのだった。



*****



高校で再会した先輩は、俺のことを一切覚えていなかった。
きっと、俺のような存在をその平等さと優しさでたくさん救ってきたのだろう。

忘れられていてもいい。
また刻めばいいのだから。
他の救ってきた奴らとは、俺は違うのだ、と。

ずっと、会いたかった、眩しい存在が、今、俺の腕の中にいる。
高校に入って、関わるようになって、気がつけば、俺は先輩のことを好きになっていた。
いや、きっと最初から惹かれていた。

金髪を戻さないのも、校則違反をし続けるのも、先輩に俺を見て欲しいから。
こうしていれば、人混みの中からいつでも先輩は俺を見つけてくれるし、叱ってくれる。
先輩が俺をまっすぐと見据える度に、俺の鼓動は高鳴った。

素行が悪いのも、人を寄せ付けないようにしているのも、全部全部、先輩に構ってもらうため。

この人は、誰にでも平等に優しくて、正義の人。
きっと、こんな俺を放っておかない。

好き、好き、大好き。

俺の腕の中に収まる先輩に、愛しさが溢れて、止まらない。
その思いの丈をぶつけるように、先輩の頭に自分の頭をくっつけ、ぐりぐりとした。



「…」



それでも、先輩は文句一つ言わずに、俺を抱きしめ続ける。

俺にはこの人しかいない。
だから絶対俺のものにする。

今はアイツが先輩の恋人だけど、最後には絶対、俺が旦那として、隣にいるから。
恋人になる、という初めてだけは、アイツにあげる。

けれど、あとは全部俺のものだ。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

付き合ってもいないのに、幼なじみの佐藤がプロポーズしてきた

ぽぽよ
恋愛
「俺らさ、結婚しない?」 三十二歳、独身同士。 幼なじみの佐藤が、たこ焼きパーティの最中に突然言い出した。 付き合ってもないのに。 夢見てた甘いプロポーズじゃないけれど、佐藤となら居心地いいし、給料もあるし、嫁姑問題もないし、性格も知ってる。 断る理由が、ない。 こうして、交際0日で結婚することが決まった。 「とりあえず同棲すっか」 軽いノリで決まってゆく未来。 ゆるっとだらっと流れていく物語。 ※本編は全7話。 ※本編完結後、ゆるいSS投稿予定。 ※サイドストーリー(切なめ)投稿予定。

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那
恋愛
 いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。 ◇◇◇◇  私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。  元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!  気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?  元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!  だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。 ◇◇◇◇ ※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。 ※アルファポリス先行公開。 ※表紙はAIにより作成したものです。

氷狼魔術師長様と私の、甘い契約結婚~実は溺愛されていたなんて聞いていません!~

雨宮羽那
恋愛
 魔術国家アステリエで事務官として働くセレフィアは、義理の家族に給料を奪われ、婚期を逃した厄介者として扱われていた。  そんなある日、上司である魔術師長・シリウスが事務室へやってきて、「私と結婚してください」と言い放った!  詳しく話を聞けば、どうやらシリウスにも事情があるようで、契約結婚の話を持ちかけられる。  家から抜け出るきっかけだと、シリウスとの結婚を決意するセレフィア。  同居生活が始まるが、シリウスはなぜかしれっとセレフィアを甘やかしてくる!? 「これは契約結婚のはずですよね!?」  ……一方セレフィアがいなくなった義理の家族は、徐々に狂い始めて……? ◇◇◇◇  恋愛小説大賞に応募予定作品です。  お気に入り登録、♡、感想などいただければ、作者が大変喜びます( . .)"  モチベになるので良ければ応援していただけると嬉しいです! ※この作品は「小説家になろう」様にも掲載しております。 ※表紙はAIイラストです。文字入れは「装丁カフェ」様を使用しております。

心が読める私に一目惚れした彼の溺愛はややヤンデレ気味です。

三月べに
恋愛
古川七羽(こがわななは)は、自分のあか抜けない子どもっぽいところがコンプレックスだった。 新たに人の心を読める能力が開花してしまったが、それなりに上手く生きていたつもり。 ひょんなことから出会った竜ヶ崎数斗(りゅうがざきかずと)は、紳士的で優しいのだが、心の中で一目惚れしたと言っていて、七羽にグイグイとくる! 実は御曹司でもあるハイスペックイケメンの彼に押し負ける形で、彼の親友である田中新一(たなかしんいち)と戸田真樹(とだまき)と楽しく過ごしていく。 新一と真樹は、七羽を天使と称して、妹分として可愛がってくれて、数斗も大切にしてくれる。 しかし、起きる修羅場に、数斗の心の声はなかなか物騒。 ややヤンデレな心の声!? それでも――――。 七羽だけに向けられるのは、いつも優しい声だった。 『俺、失恋で、死んじゃうな……』 自分とは釣り合わないとわかりきっていても、キッパリと拒めない。二の足を踏む、じれじれな恋愛模様。 傷だらけの天使だなんて呼ばれちゃう心が読める能力を密かに持つ七羽は、ややヤンデレ気味に溺愛してくる数斗の優しい愛に癒される? 【心が読める私に一目惚れした彼の溺愛はややヤンデレ気味です。】『なろうにも掲載』

【完結】死の4番隊隊長の花嫁候補に選ばれました~鈍感女は溺愛になかなか気付かない~

白井ライス
恋愛
時は血で血を洗う戦乱の世の中。 国の戦闘部隊“黒炎の龍”に入隊が叶わなかった主人公アイリーン・シュバイツァー。 幼馴染みで喧嘩仲間でもあったショーン・マクレイリーがかの有名な特効部隊でもある4番隊隊長に就任したことを知る。 いよいよ、隣国との戦争が間近に迫ったある日、アイリーンはショーンから決闘を申し込まれる。 これは脳筋女と恋に不器用な魔術師が結ばれるお話。

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

譲れない秘密の溺愛

恋文春奈
恋愛
憧れの的、国宝級にイケメンな一条社長と秘密で付き合っている 社内一人気の氷室先輩が急接近!? 憧れの二人に愛される美波だけど… 「美波…今日充電させて」 「俺だけに愛されて」 一条 朝陽 完全無欠なイケメン×鈴木 美波 無自覚隠れ美女

処理中です...