推しに告白(嘘)されまして。

朝比奈未涼

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81.破壊神、柚子。

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マイペースな兄妹に頭を悩まされながらも、バレンタインチョコ作りは始まった。
今日は生チョコタルトを作るらしい。



「これなら難しくないし、お義姉様も作れるはずよ。まずは材料を計りましょう」



千夏ちゃんは笑顔でそれだけ言うと、手際よく真ん中にあるテーブルに必要な材料を置き始めた。

バターに、砂糖に、多分小麦粉に、謎の粉に、小瓶に入った正体不明の液体。
電子はかりに、ボウル、ゴムベラ、泡立て器。

千夏ちゃんがどんどん出す必要なものを私は慌てて、受け取り、一緒に準備を進めていく。
いろいろなものが並べられたところで、千夏ちゃんはやっとその動きを止めた。



「必要なものはざっとこんなものかしら。次は計量ね。お義姉様、計量をお願いできるかしら?」

「う、うん」



千夏ちゃんに頼まれて、私は神妙な顔で頷く。
そんな私に千夏ちゃんは「ではこれを」と、タブレットを渡してきた。



「それにはレシピを入れているわ。材料を見て、計量をお願い」

「わ、わかった」



ここでメモ用紙ではなく、タブレットごと私に渡すとは、金持ちはスケールが違うな…と、感心しながらも、早速タブレットを開く。
すると液晶画面いっぱいに、生チョコタルトの写真と、レシピが映し出された。

私に与えられた仕事は材料を計量すること。
その為に液晶に触れ、軽くスライドさせて、材料欄を見る。

まずはバターを60g…。

電子はかりにボウルを置き、きちんと数字をゼロにしたところで、私は慎重にバターを乗せた。

計量は料理の中でも特に大事な作業だ。
ここを間違えてしまえば、全てが台無しになってしまう。

寸分の狂いもないように、作業を続け、できたものを千夏ちゃんが混ぜる。
それを繰り返すこと、数分。
千夏ちゃんからついに私では絶対にできない指示がきた。



「お義姉様、次は卵を割って、卵黄と卵白に分けてください」

「え」



淡々と出された千夏ちゃんからの指示に、一瞬固まってしまう。
だが、固まっていては何も始まらないので、私は非常に申し訳なさそうに口を開いた。



「ご、ごめん、千夏ちゃん。私、それはできない…というか、めちゃくちゃになる未来しか見えないというか…」

「え?いくら料理が苦手なお姉様でもそのくらいはできるでしょう?大丈夫よ、少しの失敗ならわたくし気にしませんことよ?」

「す、少しかなぁ…」

「失敗は成功の元!よ!」

「う、うん…」



千夏ちゃんの勢いに押されて、千夏ちゃんからつい卵を受け取ってしまう。
仕方ないので私はその卵を割ってみることにした。

千夏ちゃんの言う通りかもしれない。
失敗は成功の元。やらなければ始まらない。
案外卵くらいなら綺麗に割れるかもしれない。

緊張で震える手で卵を優しく掴み、私はボウルの端に早速、卵をコツンと当ててみた。
しかし、卵には何の変化もない。



「…」



それでも私は黙ったまま、こんこん、こんこん、と卵を当て続けた。
いつも料理で失敗するのは、力加減がうまくできていないからだ。
とにかくまずは弱めでいき、様子を見て強くしていけば、卵を破壊することもないだろう。

そう思い、慎重にこんこんし続けていると、いつの間にか、自分の作業を終えたらしい千夏ちゃんが、怪訝そうにこちらを見た。



「お義姉様、そのようなやり方ではいつまで経っても卵は割れなくてよ?もっと強くいたしませんと」

「…わかった。もっと強く、ね」



千夏ちゃんの言葉に頷き、卵を持つ手に力を込める。
それから一思いに、卵をボウルの端に叩きつけた。

ーーーその時だった。

ガァァンッ!と派手な音と共に、卵が砕け散ったのだ。

卵の殻は粉々になり、宙へと舞い、卵の中身は飛び出し、テーブル上へと投げ出された。



「…」



ぐちゃぐちゃになった卵だったものに、私は表情を失った。

や、やってしまった…。



「は?」



この惨状に千夏ちゃんが、目を大きく見開いて固まっている。
まさかこうなるとは思いもしなかったのだろう。
そして千夏ちゃんの兄、千晴はというと、優雅に座っていたはずの椅子で自分の腹を押さえ、「あはははっ、先輩、最高…っ」と爆笑していた。

無念すぎる。



「…ご、ごめんなさい」



深く謝罪し、千夏ちゃんに無言で卵を渡す。
すると、千夏ちゃんは何も言わずにそれを受け取った。



「…混ぜる作業はできる?」

「いや、それも力加減がわからず、いつも派手にぶちまけております…」

「そう…。わかったわ」



千夏ちゃんに力なく答えた私に、千夏ちゃんは軽く頷き、何かを考え始める。
千夏ちゃんの次の言葉を待つこと、数十秒。
千夏ちゃんは神妙な顔で私に言った。



「お義姉様はわたくしの作業を見てて。もうすぐ終わりますから」

「…は、はい」



こうして材料を混ぜる工程は、全て千夏ちゃんがすることになったのだった。



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