推しに告白(嘘)されまして。

朝比奈未涼

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102.言えなかった言葉。side悠里

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「私、悠里くんのことが本当にずっと好きだったの。憧れと恋の違いもわからなくて、本気でそうだと思ってた」



今にも泣き出しそうな声で、柚子が言葉を紡ぐ。



「だけど、今は違うってわかってて、別れるべきだってわかってて…。でも悠里くんが、それでもいい、て言ってくれたから、その優しさに甘えて、悠里くんの側にいることを私が選んだの。ダメだとわかっていたのに」



伏せられた柚子のまつ毛の隙間から、キラキラと光るものが見える。
柚子はその愛らしい瞳に、涙をいっぱい溜め、辛そうに続けた。



「でもやっぱり、傷ついている悠里くんは見たくないな。傷ついてもいいって言われても無理だよ」



伏せられていた視線が上げられ、柚子の頬に涙が流れる。
弱々しかった声とは裏腹に、俺をまっすぐと見つめるその瞳には、柚子らしい強さを感じた。



「別れたくなかったのは私も同じ。だけど、このままじゃ、悠里くんは心から笑えないね」



つい先ほどまで消えてしまいそうだった柚子の声に、力が入っていく。
俺を強く射抜く瞳に、俺はドクンッと鼓動を鳴らした。

俺の好きな意志の強い瞳。
優しいだけじゃない、確かな強さがある人。
それが鉄崎柚子なのだ。

柚子が俺に何を言い出そうとしているのか、俺はこの時点で、もう何となくわかっていた。
おそらく柚子は俺に別れを切り出そうとしている。

またあの言葉を聞くのか、と思うと心が沈む。
できることなら、もう一生聞きたくないとさえ思える。

けれど、このまま一緒であることを選び続ければ、俺だけじゃなくて、柚子も傷つくことになる。
俺だけが傷ついて、それでも幸せを感じられるのはいいが、柚子が傷つくことは嫌だ。
柚子には傷なんかとは無縁に、ずっと笑っていて欲しい。
きっとこの望みを叶えられるのは、俺じゃない。

一度視線を伏せ、ゆっくりと深呼吸する。
自然の中の優しい空気は、俺を不思議と落ち着かせた。

これ以上、柚子に辛い役回りをさせるわけにはいかない。



「あのね、悠里くん…」

「待って、柚子」



今、まさに別れを切り出そうとした柚子の言葉を、俺は優しく止める。



「俺から言わせて」



それから伺うように、柚子の瞳を覗いた。
柚子は俺の言葉に一瞬傷ついたような表情を浮かべて、静かに頷いた。
柚子もちゃんと、俺が何を言いたいのか、わかっているのだ。



「言いにくいことを何度も言わせてごめん」



声がかすかに震える。



「別れよう、柚子」



それでも俺はそう柚子に告げた。

やっと俺から吐き出された言葉。
苦しくて、苦しくて、言わなければよかった、と思えてしまうほど、辛い。
だが、こんな思い、もう柚子にさけるわけにはいかない。

俺の言葉に柚子はまた涙を流していた。
その姿に自然と俺の目からも涙が溢れた。

 

「俺、別れても柚子のこと、好きだから。これからも柚子に本当の意味で好きになってもらえるように努力するし、いつか憧れじゃなくて、本当の意味で俺のことを好きになってもらうから」



最後に柚子の隣にいるのは俺だと願いたい。
そう柚子に、最後に俺は言えなかった。



「わ、わたし、本当に、悠里くんのことが好きだったの…。気持ちの形が違うだけだったの…。ありがとう、私にたくさんの夢を見させてくれて…」



柚子が泣きながら俺に笑う。
辛そうに、だが、清々しいその笑顔に、俺は複雑な気持ちになった。
もう柚子は俺に囚われていない、俺の彼女ではない、自由の身だ。
そのことが苦しくて、でも、明るい柚子の笑顔は、俺を幸せな気持ちにもさせる。
結局どちらを選んでも、俺は傷ついて、それでも幸せを感じずにはいられないようだ。
それならば、絶対に柚子が心から笑っている未来の方がいい。



「最後にわがまま言っていい?」

「うん…?」



柚子の瞳をおそるおそる覗く俺に、柚子が不思議そうに頷く。
一体どんなわがままを?という柚子の視線を受けながらも、俺は遠慮がちに笑った。



「…キスしてもいい?最後に」

「え…?」



俺の願いに柚子が目を丸くする。
それから数秒後、願いの内容を理解したのか、柚子はその愛らしい頬を真っ赤にし、口をパクパクさせた。

ぱちぱちと何度も何度もまばたきをして、視線を彷徨わせている様は、側から見てもパニックになっているのだとわかる。
その様子に少し申し訳ないな、と思いながらも、こんなにも俺を意識してくれているのか、と嬉しくもなった。
こちらも感情がぐちゃぐちゃだ。

しばらく忙しなく表情を変えた後、柚子は恥ずかしそうに「…うん。私でよければ」と頷いてくれた。

柚子だからいいに決まってる。

柚子が俺のすぐ側で、覚悟を決めたように、まぶたを閉じる。
緊張しているのか、眉間にシワが寄っており、そこがまた柚子らしくて愛らしい。
赤いままの頬を、そっと両手で包み込み、ゆっくりと俺は柚子の唇に自身の唇を寄せた。

柔らかくて、暖かい。
本当は許されるのなら、何度も何度もこうしたい。

しかしもちろんそんなことは、今は許されない。

離れ難いと思いながらも、俺はゆっくりと柚子から離れた。
まぶたを開け、こちらに恥ずかしそうにはにかむ柚子に、俺は思った。

やっぱり、好きだな、と。

唇に未だに残るこの甘い熱を、俺はこの先、一生忘れられないだろう。 



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