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37.頼れる大人と争奪戦
しおりを挟む「ちょっと待った!」
幼い5兄弟たちとの期間限定!ハラハラ☆ドキドキ(泣)な生活が強制的に始まった訳だが早速問題発生だ。
何とあのヘンリーが家政婦(嘘)の私がいるというのに、この馬鹿でかいお屋敷を1人で掃除し始めると言い出したのだ。
この大きなお屋敷を1人で、しかもこんな幼い子どもが掃除するなんて日が暮れるどころか1週間は平気でかかるはずだ。
そんな無謀なことを1人で始めようとするヘンリーを私は必死で止めていた。
「掃除もしなくて大丈夫です!」
先程からずっとこれだ。
家事など何かをやろうとするヘンリーを全力で私が止める。それの繰り返し。
兄弟たちの為に朝食を作ろうとしたり、魔王城へ仕事へ行こうとしたり。
子どもであるヘンリーがやらなくても大丈夫なことを何度も何度もヘンリーはやろうとしていた。
主に家事だけではあるが、それは大人であり、一応ここの家政婦でもある私の仕事だ。
「…お前は先程から俺のやろうとすること全てを否定するな?」
「ごめん!でもヘンリーがやる必要ないことまでやろうとするから…」
こちらをギロリと睨むヘンリーは幼くても迫力がある。
大人のヘンリーは屋敷のことは全てたくさんいる使用人たちに任せていたはずだ。
何故幼いヘンリーはそれをしないのか。
「俺がやる必要ないだと?じゃあ誰がやるんだ?朝食を作るのは?この屋敷を管理するのは?その為に必要な資金は?全て俺以外の誰ができると言う?」
幼い子どもが言う言葉じゃない。
妙に落ち着いているがまだ幼いヘンリーにはあまりにも似合わない言葉だ。
どこの世界線の子どもがこんな言葉を言うのか。
何故ヘンリーはこんなことを言わなければならないのか。
「…ヘンリー、アナタはまだ子どもでしょう?今ヘンリーが言ったことは全部大人がやることだよ?ヘンリーがやることじゃない」
「そんな大人は俺にはいない」
「…」
顔色ひとつ変えずに当然のようにそう言ったヘンリーに私は思わず何も言えなくなった。
幼いヘンリーを…いや彼ら幼い5兄弟たちを取り巻く環境は一体どういうものだったのだろうか。
何もわからないが、ヘンリーの様子を見て、少なくても彼らには頼る大人がいなかったのでは、と思った。
「…今は私がいる」
「は?」
「私はこの家の家政婦件唯一の大人。さっきヘンリーが言ったこと全部とは言えないけどできる範囲で私がやるよ」
「…」
過去がどうあれ今は違うだろう。
今は私がいる。
まっすぐ真剣な目でヘンリーを見つめれば、ヘンリーは冷たい表情でただ私を見ていた。その瞳にはほんの少しだが、驚きの感情もある。
「その必要はない。これは我が家の問題だ。お前には関係のないことだ」
「私はこの家の家政婦でそしてヘンリーより大人なの。子どもは大人を頼るべきだよ」
「は?大人?人間風情が。たかだか数年しか生きていない分際で大人だと?俺から見ればお前などまだまだ子どもだ」
いーや!それはない!
私24歳!成人してもう4年!
対するヘンリーはどこからどう見ても12歳くらい!未成年!
幼いヘンリーが私を鼻で笑っているが全く説得力がない。
「これでも立派な成人女性ですから!大人を頼りなさい!」
「笑わせるな。お前はまだ子どもだ。赤の他人のくせに調子に乗るなよ?」
「子どもなのはヘンリーでしょう!?」
子どもに子どもって言われたくない!
もう!どうやったら少しは頼ろうとしてくれるのさ!
「ヘンリー!」
「…っ!?」
ヘンリーと私。互いに睨み合い、互いの出方を伺っているとクラウスがその空気を壊すようにヘンリーに飛びついた。
ヘンリーは驚きながらも咄嗟にそんなクラウスを受け止める。
「ヘンリー!今日は僕たちと一緒に過ごそ?僕、ヘンリーと久しぶりに遊びたいなぁ」
「…クラウス」
首を傾げてヘンリーを見つめるクラウスにヘンリーは何ともいえない表情になった。
私を睨みつけていたあの冷たい表情ではない、弟のわがままに困らされている兄の顔だ。
「俺もヘンリーと遊びたい。一緒に本を読んで欲しい」
そんなヘンリーとクラウスの元へ今度はギャレットが本を抱えてやってきた。
「それが終わったら俺とトランプな!」
「エドガーのやつが終わったらみんなで一緒におやつ作って食べよう」
それからエドガー、バッカスとそれぞれがヘンリーの元へやって来てお願いをする。
クラウス、ギャレット、エドガー、バッカスのお願いは甘えているようにも見えるが、弟全員でヘンリーを働かせないようにしているようにも見えた。
おそらく後者なのだろうと思う。
「…仕方ないな。順番だぞ」
ヘンリーは困ったように笑いながらも弟たちをどこか愛おしげに見つめた。
私の言葉は絶対に受け入れなかったくせに弟たち恐るべし。
ヘンリーは本当に家族である弟たちが大切なのだろう。
その思いが見ているだけでもひしひしと伝わってきた。
*****
彼ら5兄弟たちの過去に何があったのか。
幼いヘンリーは何故あんなにも自分で何でもやろろとするのか。
少しだけ気になってそれをクラウスに聞くとクラウスは簡潔にだが、その答えを教えてくれた。
この歳の頃の5兄弟たちは両親を亡くしており、ハワード家の財産はあるものの、頼れる大人もおらず、自分たちの力だけで生きていたみたいだった。
そんな彼らの大黒柱が兄であるヘンリーであり、この頃のヘンリーは兄弟以外誰も信じられず、攻撃的で1人で何でもしようとしていたらしい。
だからこそ、クラウスたちはそんなヘンリーに今日くらいは休んでもらいたいと考え、お願い攻撃をしたみたいだった。
それから5兄弟たちによる楽しい1日が始まった。
私は他人だし、何より雇われている家政婦…という設定でもあるので、今日は5兄弟たちとは関わらず、淡々と家事でもしていようと思ったのが、ヘンリー以外の他の兄弟がそれを許さなかった。
なので私も5兄弟たちと一緒にクラウス提案による鬼ごっこから始まり、それから他の兄弟たちのリクエストである、読書、トランプ、おやつ作り…と、いろいろなことをやり、それはそれはもう楽しい時間を過ごした。
最初こそ私に警戒し、嫌悪感剥き出しだったヘンリーも、やがて私自身に害はないと気づいたのか、最後の方には普通に接してくれるようになっていた。
そしてそんな楽しい1日を過ごした夜。
何故か全員で談話室で寝ることになり、談話室いっぱいに布団を敷き終わるとそれは突然始まった。
「俺が咲良の隣だ!」
エドガーがこの場にいる全員に大きな声で主張しているのは、自分がこれから寝ようとしている場所だ。
そう、布団を敷き終えるや否や場所取り争奪戦が始まったのだ。
「いーや!僕が咲良の隣で寝るの!」
エドガーの言葉をすぐにクラウスが否定する。
「待って!同志である俺が咲良の隣で寝るのが妥当じゃない!?ギャンブル狂と女好きは下がっててよね!?お呼びじゃないんだわ!」
さらにそんな2人を小馬鹿にしたように今度はギャレットがそう言った。
「はぁ!?ギャンブル狂だと!?」
「女好きの何が悪いのさ!」
「「オタクは黙ってろ!!」」
エドガーとクラウスは一斉にギャレットを睨みつけて、口を揃えて叫ぶ。
息ぴったりだ。
とんでもなく現場は荒れております。
正直私は誰が隣でもいいし、寝る場所もどこでもいいのだが、この争いが始まってしまった為、動けずに固まっている。
これはあれか?
「私の為に争わないで~」
とか言うべきか?
「咲良一緒に寝よう。こっち」
「…」
そんなエドガー、クラウス、ギャレットの争いを尻目にバッカスは私の手を無表情のまま引いた。
バッカスよ、マイペースだな。
「抜け駆けは禁止だ!オラァ!」
バッカスの行動に真っ先に気づいたのはエドガーだ。
エドガーは私の手を引くバッカスに気づくとバッカス目掛けて自身が持っていた枕を投げてきた。
バシィッ!とその枕を無言でバッカスが弾く。
そして枕は見事に私の顔面にクリーンヒットした。
何故。
「…やってくれたね?エドガー…」
「いや!え!?投げたのは俺だけど最終的に悪いのはバッカスじゃね!?」
ゆらりと自分の枕を掲げて私は焦っているエドガーに向かって枕を投げようと構える。
「…はぁ、全くお前たちは。誰がどこで寝てもいいだろう。特にエドガーは枕を人に投げつけるな」
「~っ!でもよ!ヘンリー!抜け駆けしたバッカスが悪いし、そもそも咲良の隣で寝るのは俺なのに!」
「俺に口答えするのか?よっぽど俺のギフトを食らいたいらしいな?」
「滅相もございません!」
呆れたように弟たち、特に枕を投げたエドガーに注意をするヘンリーに最初こそは威勢よく噛み付いていたエドガーだったがその威勢はすぐになくなった。
幼さもあり、その姿は怒られた子犬のようにしおらしく、可愛らしい。
「そう言えばヘンリーのギフトってどんなものなの?」
ここへ来てもう1年ほどになるが、私はヘンリーのギフトだけどんなものか知らなかった。
度々兄弟たちを脅すことに使われているところは見たことがあったので、あまりいいものではないことは想像できる。
「俺のギフトは俺に頭を触れられた相手の魔力を一時的に0にすることができるものだ。まぁ、見ればわかるだろう」
ヘンリーは私に薄く笑ってそう説明するとエドガーの頭を掴んだ。
「は?え!?嘘!?」
するとこの世の終わりのような表情を浮かべるエドガーの頭に金のリングが現れた。
頭を締め付けるようにはめられているそれは西遊記の孫悟空の頭の輪のようだ。
「嘘だと言ってくれー!!!!」
リアル孫悟空が目の前に。
「このリングが頭にある間は魔力が0になる。つまり今のエドガーには魔力がない」
「なるほど」
何と拍子抜けなギフトなのだろう。
そう思ったが、態度に出すのは失礼だと思って、私はただ興味深そうに頷いた。
もっと1日中自由を奪われるとか、強制的に従わされるとか、炎で死ぬ寸前まで焼かれるとか、物騒で恐ろしいものだと思っていた。
魔力がなくなっても別に不便ではないと思うのだが。
「その顔は魔力が0になることが悪魔にとってどういうことかわかっていないな?」
「…まぁ」
幼いヘンリーでも私が何を考えているのか取り繕っていてもわかるらしい。
意地の悪そうな笑みを浮かべているヘンリーに私は歯切れ悪く返事をした。
幼くてもヘンリーはヘンリーだ。
「魔力が0だと魔法や己のギフトが使えない。つまり相当不便になるということだ」
「…」
私たち人間で言うところのスマホを取り上げられている状態ということだろうか?
何となくヘンリーの説明でヘンリーのギフトが悪魔たちにとってどんなものか理解できた。
エドガー、私のせいでごめんね。
ご愁傷様です。
「エドガーのようになりたくないのなら…わかるな?」
私とのやり取りを終えたヘンリーはギャレット、クラウス、バッカスにそう言って笑う。
ヘンリーのその笑顔には圧しかない。
「俺の言うことは絶対だ」と何も言わずとも言われている気分になる。
「「「…」」」
ギャレット、クラウス、バッカスは無言で適当な位置に枕を置き、やっとその場で寝る準備をし始めた。
エドガーも同じように寝る準備を始めている。
とりあえずは場所争奪戦が終了したみたいだ。
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