元構造解析研究者の異世界冒険譚

犬社護

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幕間

書籍3巻SS アッシュの葛藤

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今回の物語は、書籍版のアッシュを視点に進行しています。書籍3巻の進行は、web版と大きく異なるので、出来れば3巻を読んでから、この閑話を見て下さい。

時系列(書籍3巻終盤)
シャーロットがケルビウム大森林に出向いている時の貧民街にいるアッシュの視点となります。


○○○ アッシュ視点 


今、僕は割り当てられた自分の部屋の中に1人いて、ベッドに仰向けに寝転がっている。どうして、こうなったのだろうか? 数日前まで、僕は只の学園生であったはずだ。それが今では、反乱軍の一員となっている。

シャーロットは、アトカさんと共にケルビウム大森林に向かった。その間、僕とリリヤはクロイス姫から、貧民街にいる住民達の事情を聞かされた。貧民街には、孤児、借金苦で全てを失った者、貴族に追われ身を隠している者など、何か訳ありの人達が数多く住んでいて、その全ての人達が魔鬼族だ。全員が何らかの事情を抱え込み、必死にその日々を耐え抜いて生きているため、彼らの結束力も固い。

ここでは新たな仲間が入る時、必ず貧民街を統率する大人達から事情を聞かされる。クロイス姫とアトカさん達も、彼らに事情を全て話し認められたことで、ここでの暮らしが許された。そのため、クーデターの件は、成人した者達全員が把握している。

当然、シャーロットとイミアさんが参入する際も、参入を許可するか否かの会議がシャーロットの知らないところで行われ、クロイス姫、アトカさん、イミアさんは、シャーロットの事情を全て打ち明けた。

話を聞いた直後、大人達はシャーロットに対して、同情的な意見も多かった。イミアさんが熱心に説明してくれたことで、ザウルス族と協力し、ネーベリックを討伐してくれたことも信頼してくれた。彼女がクーデターに参入してくれれば、大きな戦力となる。

貧民街の大人達は、それを理解しているけども、シャーロットを仲間として参入させるか迷っていた。理由は、彼女が人間だからだ。【人間は、何をするのかわからない】【裏切るかも?】、そういった不安がどうしても拭いきれなかった。




クロイス姫達も、彼らの抱える心の葛藤をわかっている。だからこそ、この迷いを打ち消すためにはどうすべきか、大きく悩んでいたところに、シャーロットがやらかした。

シャーロットは女性陣に屑肉料理を披露し、そのレシピをタダで提供したのだ。女性陣が……

「これらの料理が貧民街で広がれば、みんな幸せになれるわ。本当に、このレシピをタダで貰っていいの?」

と問いただしたところ、彼女は……

「はい、タダで構いません。今日から、ここで住まわせてもらうんです。私の知る料理技術が役立つのであれば、皆さんと一緒に共有したいです。私は……料理で綻ぶ皆さんの笑顔が見たいです」

と答えたらしい。シャーロットの提供したレシピに書かれている屑肉を含めた数種類の食材、それらの単価が安いため、貧民街の大人達の収入でも十分購入可能なであった。この件がキッカケとなって、シャーロットは初日で、皆から仲間として認められた。


その後、カレーライスやパエリアなどの料理を無償で提供したこともあって、貧民街の生活環境は劇的に変化した。しかも、シャーロットは数少ない上級回復魔法【リジェネレーション】の使い手でもあるから、子供や大人達の抱える怪我や病気を全て完治させた。数日前、騎士団によるクロイス姫の捜索が貧民街で行われたらしいけど、そこでもシャーロットの魔法【幻夢】が役立ち、窮地を脱したらしい。


シャーロットはたった数日で、貧民街の人達から絶大な信頼を得るようになった。そんな彼女の仲間でもある僕とリリヤは、ここに来て1日も経過していないのに、多くの人達から仲間として受け入れられた。僕達の抱える事情も話しているけど、シャーロットが認めたのならば、無条件で受け入れるとなった。しかも、住まいも提供してくれたのだ。

元々、クロイス姫が滞在している建物には、3つの空き部屋があった。そのうちの1つにシャーロットが入居したため、残り2つが僕とリリヤに割り当てられた。部屋の広さは、学園寮の一部屋とほぼ同じであったため、僕としては丁度良い広さだった。家具はベッドと布団のみだったけど、残りに関してはゴミ集積場から拾ってくればいいと教えてくれた。

正直、ここに来たばかりの僕達が、こんな好条件の待遇を受けて良いのだろうかと疑問に思い、クロイス姫に尋ねてみた。すると……


「アッシュとリリヤには、大切な役目があります」


クロイス姫から言われた僕達の役目、それは【シャーロットと常に行動し、彼女のやらかしを少しでも減らすこと】!


イミアさんから、彼女がEのランクアップダンジョンで何をやらかしたのかを聞くと、僕もリリヤもフォローしようがなかった。そして、僕達が加入してからは、彼女のやらかしにより降りかかる周囲への迷惑度が多少減少し、クロイス姫達の心の負担も少し和らいだらしい。

僕とリリヤからしてみれば、シャーロットはCのランクアップダンジョンで、周囲の冒険者達に大迷惑を掛けたと思っているのだけど、Eのダンジョンでの出来事のような大騒動には発展していない。だからこそ、この役目に抜擢され、好待遇を受けたのだ。DとCのランクアップダンジョンでの実績が、ここで反映されるとは思わなかった。

ある意味、僕達に与えられた任務は重要だ。シャーロットは放っておくと、何をするのかわからない怖さがある。だからこそ、それをフォローする仲間が必要なんだ。

僕もリリヤも、シャーロットに救われた。
彼女との出会いこそが、運命の分岐点だった。

Dのランクアップダンジョンで彼女と知り合わなければ……多分、僕はダンジョン内で死んでいただろう。シャーロットと知り合ったことで、悩みも解決し強くなれた。ただ、僕を呪った相手が、グレンとクロエだったのは意外だった。あの2人は僕にとって、幼馴染でもあり、掛け替えのない無二の親友だと思っていたのに……心の内では僕を嫉妬していたとは……。

2人の嫉妬深さを見抜けなかったせいで、僕はグレンの企みにより、窃盗犯として指名手配されてしまった。指名手配が解除されるまでは、僕自身が変装しないといけない。結局、ここでもシャーロットに頼ってしまう。

…………このままでは、ダメだ。

魔導具に関しては、僕もリリヤもわからない。それならば、料理技術や自分の基本ステータスを鍛えていき、彼女への負担を減らせばいい。それに呪いが解除されたとはいえ、今の僕の実力だと全力を出し切っても、Cランクだ。これじゃあ、クロイス姫達がクーデターを起こしても、完全に足手まといとなってしまう。

クロイス姫に、今の僕の気持ちを伝えると……

「アッシュ、焦ってはいけません。クーデターの実行は、まだまだ先の話です。今は、自分の置かれている状況をきちんと把握し、少しずつ前に進みなさい。焦りは禁物ですよ」

と諭されてしまった。焦りは禁物……か。そういえば、リリヤも鬼神変化を使いこなせるよう少しでも強くなろうとして、イミアさんに【風読み】や【心眼】スキルの習得方法を聞いていたよな。


……リリヤか。


奴隷商人モレルさんの屋敷で初めて出会った時、彼女の目から生気を感じとれなかった。何処か、生きることを諦めたような目をしていた。Cのランクアップダンジョンに到着するまで、僕達から話題を言わないと、会話に入ってくる女の子じゃなかった。それに話をしても、スパッと流れを切断してくる時もあった。

でも、シャーロットが【鬼神変化】と内に潜む【白狐童子】のことを教えてから、彼女は少しつずつ変化してきた。目には強い意志が宿り、積極性も増した。時には、自分から話してくることもあった。僕自身が彼女を意識しだしたのは、ミノタウルスの石像戦からだ。剣技【ライトニングブレイカー】を放ったのはいいけど、奴の身体強化に阻まれ、途中で止まると思った。そこに、リリヤの援護【雷矢集束】がきた。あの援護のおかげで、Cランクの石像を倒せたんだ。

あの時、僕はリリヤを仲間として、初めて心から信頼した。

そして、白狐童子との戦いの後、リリヤは自らの意志で、勇気を振り絞り、周囲を見渡し歩いていった。自分の生まれた家へと入っていった時、僕は不安を感じた。リリヤの失った記憶に関しては、彼女が寝ている時、こっそりシャーロットから全てを聞いていた。だからこそ、不味いと思ったんだ。リリヤが自分の記憶を取り戻したい気持ちも、よくわかる。でも、ロッカク村は既に滅んでいる。当然、最後には滅びの記憶が呼び起こされる。シャーロットも、それに気づいていた。だからこそ、幻夢で上書きしたんだ。


リリヤは過去の記憶の一部を見ることで、押し寄せてくる不安と恐怖に打ち勝ち、強くなろうと少しずつ前へと踏み出した。そんな彼女を見ていくうちに、僕は自分の心の中に、リリヤを仲間として大切に接していきたいという思いだけでなく、何かが芽生えた。けど、その何かがわからなかったから、リリヤには伝えなかった。その後も、殿様や侍ゾンビ、ボスのバルボラとの戦闘を経由して、リリヤの中に眠る本来の性格が呼び起こされていき、ダンジョンを脱出する頃には、彼女は【少し変わった前向き快活少女】へと変化した。そんな彼女を見ていくうち、僕の中から芽生えた思いも、時間を追うごとに強くなっていった。

だからかな?

シャーロットから【魅惑の指輪】について質問された時、僕はリリヤに嘘を吐きたくないと思い、正直に答えたんだ。そして、指輪をリリヤの指に嵌める時、ふと思ったことを口にしてしまった。

僕が感じているこの思い、これが【恋】なのだろうか?

幼馴染のクロエに感じているものとは、明らかに違う。クロエも大切な友達だったけど、そこまで深く知りたいとは思わなかった。けど、リリヤのことを考えると、胸がドキドキするし、『彼女に、何をあげたら喜んでくれるのか?』『彼女の嫌悪するものは何か?』、多くのことが頭によぎる。


「あ………」

リリヤのことを思っているうちに、ある不安が頭によぎり、僕はベッドから起き上がった。

「そうだよ……どうして気づかなかった。彼女には、『鬼神変化』がある」

そう呟いた瞬間、僕の身体に戦慄が走った。

今の時点で、彼女は僕より弱い。でも、彼女の潜在能力は、ステータス数値に置き換えると、700もある。そう、いずれ追いつかれ、追い抜かれるんだ!

その考えに至った時、《それは嫌だ!》と思ってしまった。別に、彼女が強くなっていくことに嫌悪感を感じたわけじゃない。このままだと、僕が彼女に護られる存在になってしまう。それが嫌なんだ。

……強くなりたい。

アストレカ大陸にいる人達のステータス限界は250、ハーモニック大陸にいる人達のステータス限界は魔素濃度が高いこともあって500だ。つまり、今の僕がどれだけ努力しても、成長が500で止まってしまう。

シャーロットは【環境適応】スキルのおかげで、能力限界値250だけでなく、999を超えた。リリヤは【鬼神変化】スキルのおかげで、能力限界値500を超えた。おそらく、何らかのスキルか称号を取得すれば、能力限界値を超えることができるはずだ。

問題は、そのスキルや称号だ。

【環境適応】や【鬼神変化】はユニークスキルである以上、僕では習得できないだろう。けど、何か方法があるはずだ。Sランクの人達は、全員がステータス数値500以上だと聞いたことがある。この2つ以外で、僕でも習得可能なものを探すんだ!

どうしてだろう?

【強くなりたい】という思いは、昔からあった。でも、今の僕が感じているこの願望は何だ? 同じ言葉で同じ思いのはずだ。でも、何かが違う。

今の僕からは……
《リリヤのために強くなりたい》
《彼女と対等な立ち位置で、一緒に戦いたい》

そう、少し前まで、僕は自分のことしか考えていなかった。でも、今はリリヤのために強くなりたいと切実に考えている。

え……あれ? ちょっと待てよ!
僕は強くなるために、自分のことしか考えていなかった?
だとしたら……

勿論、グレンとクロエを蔑ろにしていたわけじゃない。でも、彼らの気持ちを少しでも考えたことはあるか? 僕は強くなるために、自分のペースで訓練を続けていた。このペースでも、2人ならついてこれると勝手に思い込んでいた。

その自分勝手な考えこそが、2人の心を歪ませ、犯罪に発展させたんじゃないのか?もしそうなら……僕にも責任がある。


……今後の方針が決まった。


シャーロットが戻ってくるまで、基礎訓練を続けよう。
それと並行して、能力限界を突破するための方法を探していこう。

そして、グレンとクロエに再び向き合うためにも、僕自身が彼らに何をしたのか、もう一度考えよう。
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