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第二章 波乱の魔導具品評会

二十話 プライズ、初めての起動

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 放課後、私たち三人は新たな魔導具を開発すべく、利用できる予算について話し合うため、職員室にいる顧問のカーター・アドマルド先生のもとへ出向く。この方は四十八歳の白髪混じりの男性で、子爵位の身分を持っているけど、私を差別しない貴重な教師である。先生は私を見て、屈託のない笑顔を浮かべる。

「ティアナ王女、元気になられて良かった。例の件ですか?」
「はい。そっちの方は、もうどうすることもできませんので諦めます。あと三週間しかありませんので、今利用できる予算を教えてください。それと、こちらを」
 
 私は、早急に開発せねばならない魔導具の資料を先生に渡す。彼は全てを見通し、私たちが何を制作したいのかを理解すると、深く目を閉じる。

「攻防一体の両方を兼ね備えた訓練用魔導具、予算が足りないようであれば、廃材を利用して足りない部分を工面するか。う~む、これだけ緻密に設計されているのなら、今からでもギリギリ間に合うが…」

 先生が次に何を言いたいのか、私たちはすぐに理解する。
 だから、私がその先を口にする。

「わかっています。高等部の学生たちは何も知らないまま、【威信・プライド・雪辱】を賭けて、私たちに挑んできます。今から用意する魔導具がたとえ完成したとしても、勝敗は既に決しているようなものですが、私は諦めません。足りない部分に関しては口でカバーします」

 品評会には、多くの著名人が出席している。
 そこには、当然他国の者もいる。
 これまでは、高等部が勝利を独占していたけど、伝統を覆して、去年初めて中等部が勝利した。

 審査員たちは私だけを頑なに認めず、その結果、高等部だけが大きな損失を被ることとなった。今年はそんな大恥を晒したくないはずだから、プライドを捨ててでも、全てを賭けて挑んでくる。もし、高等部のメンバーたちが、私の設計図を基に魔導具を完璧に仕上げていれば、私たちに勝ち目はないけど、ここからの反撃次第で、審査員の連中に一泡くらい吹かせるかもしれない。

「王女…口でって…可能なのか?」
「可能です」

「……わかった。君に全権を託そう。幸い、製作に取り掛かる前に起きたことですから、予算に関しては問題ありません。君たちの思うように動きなさい。この資料に関しては…」

 アドマルド先生は席を立ち、小型魔導具《シュレッダー》の場所で止まり、資料をその中に入れていく。すると、ガガガガガガと音が鳴り、資料が紙屑となっていく。それを見た他の先生方は、かなり驚いているようでガタッと席を立ち上がる。

「これでいいんだね?」
「全て私たちの頭の中に入っていますから、問題ありません。今後、奴らが何を仕掛けてくるか分かりませんからね。処分して頂き、ありがとうございます」

 私たちは職員室を出て行き、自分の役目を全うするため、それぞれが別行動を取る。私は設計図を描くため部室へ、アデリーヌとオースティンは魔導具を予算内に収めるべく、再利用できる廃材を調達しに行った。

○○○ その日の夜

 私はルミネのいる寮の私室で、ある重大なイベントをこなそうとしている。

「ティアナ様、ご命令通り、王城から廃棄物の一部を私の収納魔法で集めてきましたが、部室でならともかく、これらをここでどう扱うのですか?」

 私は昼休み後の授業の休み時間を使い、自習室にて初めてプライズ《次元設計士》を起動させた。基本操作だけでも覚えようと実行したのだけど、どういうわけか起動した途端、マニュアルが頭の中に入ってきて、すぐに扱い方を理解できた。

 これは、日本でいうところの3D設計ソフトウェアね。
 私の目の前に、大きな画面と専用タッチペンが出現し、メッセージが表示される。

《世界に顕現させたくば、五つの項目について詳細に答えろ。その後、【プレビュー】を押せ。そこで表示される幾つかの完成形から一つだけ選択しろ。対応する材料をプライムホールに入れろ。選択次第で、ガラクタにもなり、神具にもなりうるだろう。今の貴様の少ない魔力で、どんな生き様を見せてくれるのか楽しみにしているぞ》

設計図用の大きな画面の左端には四つのタグがあった。

1) 《創造したいもの》
2) 《効果》
3) 《外装(外見)》
4) 《内装》
5) 《デザイン(色合い)》

 それぞれが一つのレイヤーとして機能しており、これらを全て統合し立体化させることで、完成予想図が出現し、必要な材料が表示される。それらをプライムホールへ投げ込み、必要な魔力を送り込めば、お望み通りの物が完成するのだけど、一見チート性能と思うけど、私の中に入ってきたマニュアルを全て見通すことで、その思いがどれだけ甘いのかを悟った。

 設計すること自体は私も慣れているけど、問題はその後の製造、どんな材質を駆使して製作していくか、設計図が完璧であっても、その材料選びを間違えるだけで、アイテムは発動しない。また、発動できたとしても、設計図通りの性能を発揮しない可能性もある。その重要要素に関しては説明こそあるものの、まるで私自身を試すかのような方法だった。

 これを理解した後、私は寮にいるルミネに連絡をいれ、今回起きた盗難事件を説明し、王城で廃棄予定の廃材類を集めるよう命令した。彼女は私と同じく、空間属性持ちで収納魔法を習得しており、おまけに魔力量も常人の数倍を保有しているからこそ、この命令を行使できる。

「使い道は、後で説明するわ。まずは、この壊れた剣を見てちょうだい」

 私はスウェンから借りた壊れた鉄剣を袋から取り出す。

「見事に、真っ二つに折れていますね。相当大切に扱われたものと推測できますが、ここまで傷んでしまえば修繕不可能でしょう」

 長剣や短剣などの武器の扱いに長けたルミネなら、一目見ただけで、武器がどれだけ大切に扱われてきたのかもわかるのね。

「これは、私のクラスメイト・スウェンから借りたものよ。これをプライズの試験運用に使わせてもらうわ。私のプライズは、こういった死んだ剣を復活させることも可能なのよ」

 私がプライズを起動させると、大きな画面が出現する。この画面の大きさも自由自在に変化できるし、任意で他者に見せることも可能だから、結構便利なのよね。

「これが……《プライズメニュー》と言われるものですか。初めて、拝見します」

 スウェンから貰った鉄製の剣、これを普通に修繕しただけでは、試験運用にならない。どうせなら、外見はただの鉄剣にして、中身を別物にしたい。それを実現させるための実験を今から実行する。私は、その構想をルミネに話すと、彼女も面白そうと思い、子供のような無邪気な笑みを浮かべる。

「面白いですね……使い物にならない鉄剣が、どんな物に生まれ変わるのか、私も是非見て見たいです」

「ちなみに、あなたに集めてもらった廃棄物だけど、プライズホールの中に入れて分解した後、鉄剣の材料として再利用するから」

「プライズホール? 分解?」

 そういえば、プライズの細かな説明について、一切言ってなかったわ。言葉で言うより、直に見せた方が早いわね。

「これよ」

 私は、部屋中央の床にプライズホールを出現させる。大きさは直径一メートルの闇の大穴で、収納魔法と同じ異空間へと繋がっているため、ここへ落ちたら自力で戻ることは誰であろうとできない。

「これがプライズホール? 中が暗くて、底が見えませんね。私の収納魔法と似ています」 

「この穴は、三百六十度どの位置からで出現可能、おまけに無生物だけでなく、生物も入れる事が可能だから、絶対に入ったらダメよ」
さて、そろそろ行動開始といきましょうか。
私の目論み通りに、事が進むかどうかが問題よ。

《折れた鉄剣》
《様々な廃棄物》

 これで、材料は揃った。
 あとは、私の技量次第。
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