幼子家精霊ノアの献身〜転生者と過ごした記憶を頼りに、家スキルで快適生活を送りたい〜

犬社護

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16話 ノイズを放つ精霊術師 *レアナ視点

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「よっしゃ、弓の調整、これにて完了!」

1日かけて武器屋巡りをしたおかげで、良い弓が手に入ったし、弓の材料と相性の合う矢をようやく見つけて、それぞれの魔力の通りも確認して、4日かけての微調整もようやく終えた。街内でのランクDの依頼ばかりやってたせいか、身体も少し鈍くなっているから、明日以降はミサやノアと一緒に魔物討伐をやってみよう。

「レアナ、こっちのスペースを借りていい?」

邪魔にならない場所で、水筒に入っている冷えた水を飲み、タオルで汗を拭いていると、ランクCのリルルさんが私に話しかけてきた。彼女って14歳なのに、若手で超有名なパーティー《銀狼》のパーティーメンバーなんだよね。しかも、精霊に愛される精霊術師、理論上、全属性の魔法を扱えるのだから羨ましいよ。

「はい、大丈夫です」

リルルさんが、魔法陣の描かれたシートを床に敷く。

「今日も瞑想ですか?」
「うん。精霊魔法を使えなくなった原因を、なんとしてでも突き止める!」

昨日出会ったばかりのリルルさん、周囲がヒソヒソと話し合っているおかげで、私も瞑想の理由を知っちゃったんだよね。私のパーティーには、家精霊のノアがいる。宿に戻ってからミサとも相談して、今日それとなくノアに見てもらおうと思っている。精霊術師だから、ノアの正体を見抜く可能性も考えて、遠目から観察してもらえればいい。彼女が瞑想状態に入ると、周囲の声が魔法陣の影響で遮断される。それを知っている近場の冒険者たちが、ヒソヒソと小声で喋りだしたので、私は聞き耳を立てておく。

「リルルさん、まだ復帰できないんだな」
「将来有望の精霊術師なのに、突然どうしたんだ?」
「噂じゃあ、精霊に見限られたって話を聞くけどな」
「あの可愛さで、それはないだろ?」
「その可愛いから嫉妬されて、誰かが彼女を呪っているという話も聞くな」

もう、可愛さは関係ないっての! 

男ってのは、どうして真っ先に女性の顔を見るのよ。あいつら、ミサのことも《傷さえなければな~》とか言ってたわよね。ぶん殴りたくなってきた。

あれ? 
あそこにいるのは、ミサとノアだ。

ノアがリルルさんの方を見て、顔を顰めているけど、何かあったの? 今度は、ミサが驚いて彼女の方を見ているけど。

「リルル、瞑想中すまない。今、いいか?」

あ、いつの間にかパーティーメンバー《銀狼》のリーダー、ジェリドさんが、私のすぐ近くにいる。彼から少し距離を置いて、パーティーメンバーのシロウさんと知らない女性がいるけど、なんか深刻な顔をしているせいか、周囲の空気がどんどん重くなっていく。気づけば、周囲にいた冒険者が誰もいなくなっていて、私だけが取り残されていた。

まっず! 離れるタイミングを逸したよ!

「ジェリド、シロウ、どうしたのですか?」

リルルさん、瞑想状態であっても、仲間の気配をきちんと察知するんだね。彼女は瞑想を中断して、立ち上がる。

「俺たち銀狼に、護衛依頼が入った。今日からの出発で、目的地はベラフーレだ」
「ベラフーレ! そんな、まだ治ってないのに…」

ベラフーレって、ここから馬車で1週間くらいかかる場所だけど、リルルさんは精霊魔法を使えないから危なくない?

「リルル、君はここに残り、治療に専念するんだ」
「どうして!? 私も、行きます!」
「ダメだ、護衛依頼だぞ! 判断を誤れば、依頼主の命を危うくしてしまう。今の君を、連れていくわけにはいかない」
「でも…回復手段が…」
「君の代わりに、臨時ヒーラーとして、ここで知り合ったエリーを連れていくことにした」

やばい、修羅場の中に、部外者の私がいるんですけど? みんな、私の存在を無視して、話を進めてる。めっちゃ逃げたいけど、足がガクブルで動けません。チラッとミサの方を見ると、なんか口パクで《さっさと逃げなさい!》って言ってるけど……これ、無理でしょ?

「そんな…私、追放なのですか?」
「それは違う。君は、俺たちにとって掛け替えのない唯一無二の仲間だ。だからこそ、危険な目に遭わせたくないんだよ…俺たちを信じてくれ…必ず戻ってくる…頼む」

ジェリドさんが本気で言っているのはわかるけど、リルルさんの立場も考えてあげてよ。護衛依頼は、依頼達成書を目的地の冒険者ギルドに提出すれば、任務達成とみなされる。そこからは自由行動、つまり……ここへ帰ってくるとは限らない。

「リルル、俺たちは裏切らない。君を、必ず迎えにくる! だから、行かせてくれ!」

ジェリドさんだけでなく、シロウさんも前に出てきて、リルルさんに頭を下げる。彼女を離脱させたいのなら、護衛依頼のことなんか言わずに、無断でいなくなればいい。それをしないということは、本当に一時的な意味での離脱ってことだけど…。

「わ…わかったのです。私は…2人を信じます!」
「すまない、リルル」
「わりい、必ず迎えに来るからな」

「帰ってくるまでに、必ず原因を突き止めて、精霊魔法を使えるようにしておきます! 私のことは気にせず、護衛依頼に行ってください」

私が真剣に聞いていると、急に右腕を引っ張られ、どんどんリルルさんから遠ざかっていく。訓練場の入口付近に到達したところで、引っ張りが止まったので、相手を確認するとミサだった。

「レアナ、何をやっているの!」
「あはは…離れるタイミングを逸して、そのまま修羅場になっちゃった」
「もう、1人だけ場違い感が、半端なかったんだから!」
「あはは、ごめん」

話はまだ続いているようで、臨時で雇ったヒーラーのエリーさんが、リルルさんと何か話し合っている。

「こら、聞き耳を立てないの。中に入るよ」
「ええ、そんな殺生な! ここまで聞いたら、全部…」
「入れ!」
「はい」

ミサが爆発する寸前だったので、私は素直に従う。この子って、こういう礼儀関係のところで、妙にうるさいんだよね。建物内に入ると、他の冒険者たちも、銀狼がどうなるのか、しきりに気にしていたようで、あちこちで話し合っている。

「レアナお姉さん、あそこにいて、何かおかしなことはなかった?」
「え、おかしなこと?」

突然、ノアが変なことを言う。
何か真剣味を感じるから、茶化さない方が良さそう。

「別に何もなかったけど?」
「そう」
「え、何? どういうこと?」

周囲には、大勢の冒険者がいるせいか、ノアもミサも何も言わない。その様子だと、2人はリルルさんたちから何かを感じ取ったようだけど、聞くに聞けない状況だ。
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