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第二章 動き出す歯車
17話 お兄様の怒り
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オースコット別邸に招き入れられた日はチェルシーの誕生日だったこともあり、私を含めた家族だけの誕生日パーティーがその日の夜に催されました。フォンテンス家ほどの豪華さはありませんが、お兄様・アルテイシア様・チェルシーそして使用人たちも皆笑顔で、緊張感といったものは一切感じられなかったこともあり、私も童心に返り、チェルシーたちと楽しくお喋りし、その日を終える事ができました。
パーティー中、アルテイシア様から精霊についての知識を少しだけ仕入れたのですが、私の知るものと若干の齟齬があったものの、根幹は同じでした。
精霊は構成自体が人間と異なり、半永久的な命を持ち、外気に漂う魔素を主食としているため、食べ物を摂取しなくても生きていけます。大地の食べ物を摂取した場合、それらは全て魔素へと変換され、必要量だけ体内に吸収されると、過剰摂取した分は大地に吸収され、その土地を豊かにしてくれる。木々はそういった大地から魔素などの栄養を吸収し、光合成などの力を利用して、蓄えられた魔素を酸素と一緒に外気へ放出させる。
基本、このサイクルこそが世界を維持する概念となっているため、人は精霊を敬い大切にする。時に欲望が暴走し、精霊を奴隷にする輩もいるそうですが、そういった連中は必ず高位精霊の怒りを買い排除される。私はその高位精霊かもしれないので、まずは自分の位と力量を把握することが急務だと言われました。
パーティー終了後、私はチェルシーとお風呂に入り自分の容姿を確認したことで、ルーテシアとは全くの別人ということもわかり、自分は全く別の生命へ転生したことを強く実感しました。神のお導きなのか不明ですが、こうして姪やお兄様と出会えたこともあって、私にとって幸先良いスタートをきれそうです。
……翌朝
私は朝食を食べた後、自分の状況を整理するため、庭園を散歩することにしました。木々や花々を見ると心が癒されますので、嫌な事が起きた場合もこうすることで、前へ進む事ができます。
「ルーテ、ここにいたんだね」
声が後方から聞こえたので振り向くと、そこにはロイド様がいました。
「ロイド様、何かありましたか?」
お兄様は、何処か懐かしい目で私を見つめています。
「いや、特に何も起きていないよ。ただ、君の仕草・立ち振る舞い・花々を見る目が、妹のルーテシアそっくりだと思ってね」
!!
さすが、お兄様ですわ。
姿が変化しても、私の本質を見通しています。
「私はルーテシア様のいた地下の牢屋区画で生まれましたから、彼女の残滓が私の中に入っているのかもしれません」
お兄様、ごめんなさい。
今はまだ正体を明かせません。
《私がどうして精霊になったのか?》、《どうして生まれた初日に姪やお兄様と出会えたのか?》、これらの事象が偶然とは思えないのです。まるで、誰かに仕組まれたかのような感覚です。力を完全に制御し、皆を守れるようになった暁にはきちんと正体を明かしますね。
「そうか…それだと嬉しいな。妹は、一度も面会に訪れていない私たち家族を恨んでいるのだろうか?」
唐突に、なんて質問をしてくるのですか!?
「いえ……恨んでなどいないと思います。むしろ、自分のせいで父と母を死なせてしまったことを悔いていると思いますわ」
そう言うと、お兄様から悲しみの感情が伝わってきました。
「そうか…そうだな。ルーテシアがこの場にいたら、本当にそう言っていたかもしれない。ルーテ、私はね、フォンテンス家を絶望に陥れた犯人を許すつもりは毛頭ない。必ず見つけ出して処刑台へ送る」
この人は涼しい顔をしながら、恐ろしいほどの憎悪を言葉に込めていますわ。その犯人のせいで、私・父・母が死んでしまったのだから無理もありません。
「だから、《ロイド》を名乗ったままなんですね」
自分も狙われていることを考慮すれば、意識を取り戻して以降、安全を確保するため、偽名を名乗り生活を送るべきだった。しかし、真犯人への身を焦すほどの憎悪が…それを許さなかった。
「《ロイド・フォンテンス》はあの事故で死亡したことになっているが、王都の貴族たちは私の顔を覚えているだろう。だから、ここへ来る際も細心の注意を払っている。元々オースコット家は国境を守るため、殆どのお茶会や社交会に出席していないし、呼ばれることもない。仮に呼ばれたとしても、王都へ出向いているのはアルテイシアだから、《ロイド・オースコット》は霧に包まれた謎の人物と噂されている」
なるほど、綱渡り状態ではあるものの、アルテイシア様やチェルシーの安全は保証されているわけですか。
「君の言いたいことはわかる。仮に私の正体が知られたとしても、チェルシーの身に危害が及ぼないよう細工してあるから安心するといい。人は、血に拘るからね」
《血に拘る》…まさか!?
「チェルシーには、相談済みなのですか?」
お兄様が何を言っているのか、すぐにわかりましたわ。ただ、チェルシーにとっては、かなり傷つく行為のはず、彼女は知っているのでしょうか?
「大丈夫、彼女が九歳の時に私の事情を説明している。始めは大泣きされたが、きちんと了解も得ているよ」
それなら安心なんですけど、話す時期を少しでも間違えていたら、性格が絶対に歪んでいましたわ。
「《ロイド・オースコット》の正体は、陛下・王妃・ラルカーク様も知っている。さっき言った対策なんだが、本当なら学園へ行く直前にチェルシーに話そうと思っていた。十年前、それをグレース王妃に話したら怒られてしまってね。あの時は、陛下も驚いていたな。彼女の提案通り、幼い九歳の時に話しておいて正解だった。もし、当初の予定のまま話していたら、チェルシーは今のままではいられなかったかもしれない」
グレース、感謝しますわ。思春期の時期にそんな大きな話を聞かされたら、精神が間違いなく不安定になっていましたわ。性格も、今とかけ離れたものになっていたかもしれません。
「事情は把握しました。明日以降、私がチェルシーを肉体的にも精神的にも守ってみせますわ。そのためにも、早い段階で力の制御と魔法を身につけておきます」
私がそう宣言すると、先程まで感じていた憎悪が消失し、お兄様は優しげな微笑みを浮かべていました。
「ありがとう。君といると、ルーテシアと話しているような感じになる。ルーテ、チェルシーのことを宜しく頼む」
「はい!!」
休日が明けると、学園の授業が再開します。
まずは、学園でのチェルシーの置かれる状況を把握しましょう。
パーティー中、アルテイシア様から精霊についての知識を少しだけ仕入れたのですが、私の知るものと若干の齟齬があったものの、根幹は同じでした。
精霊は構成自体が人間と異なり、半永久的な命を持ち、外気に漂う魔素を主食としているため、食べ物を摂取しなくても生きていけます。大地の食べ物を摂取した場合、それらは全て魔素へと変換され、必要量だけ体内に吸収されると、過剰摂取した分は大地に吸収され、その土地を豊かにしてくれる。木々はそういった大地から魔素などの栄養を吸収し、光合成などの力を利用して、蓄えられた魔素を酸素と一緒に外気へ放出させる。
基本、このサイクルこそが世界を維持する概念となっているため、人は精霊を敬い大切にする。時に欲望が暴走し、精霊を奴隷にする輩もいるそうですが、そういった連中は必ず高位精霊の怒りを買い排除される。私はその高位精霊かもしれないので、まずは自分の位と力量を把握することが急務だと言われました。
パーティー終了後、私はチェルシーとお風呂に入り自分の容姿を確認したことで、ルーテシアとは全くの別人ということもわかり、自分は全く別の生命へ転生したことを強く実感しました。神のお導きなのか不明ですが、こうして姪やお兄様と出会えたこともあって、私にとって幸先良いスタートをきれそうです。
……翌朝
私は朝食を食べた後、自分の状況を整理するため、庭園を散歩することにしました。木々や花々を見ると心が癒されますので、嫌な事が起きた場合もこうすることで、前へ進む事ができます。
「ルーテ、ここにいたんだね」
声が後方から聞こえたので振り向くと、そこにはロイド様がいました。
「ロイド様、何かありましたか?」
お兄様は、何処か懐かしい目で私を見つめています。
「いや、特に何も起きていないよ。ただ、君の仕草・立ち振る舞い・花々を見る目が、妹のルーテシアそっくりだと思ってね」
!!
さすが、お兄様ですわ。
姿が変化しても、私の本質を見通しています。
「私はルーテシア様のいた地下の牢屋区画で生まれましたから、彼女の残滓が私の中に入っているのかもしれません」
お兄様、ごめんなさい。
今はまだ正体を明かせません。
《私がどうして精霊になったのか?》、《どうして生まれた初日に姪やお兄様と出会えたのか?》、これらの事象が偶然とは思えないのです。まるで、誰かに仕組まれたかのような感覚です。力を完全に制御し、皆を守れるようになった暁にはきちんと正体を明かしますね。
「そうか…それだと嬉しいな。妹は、一度も面会に訪れていない私たち家族を恨んでいるのだろうか?」
唐突に、なんて質問をしてくるのですか!?
「いえ……恨んでなどいないと思います。むしろ、自分のせいで父と母を死なせてしまったことを悔いていると思いますわ」
そう言うと、お兄様から悲しみの感情が伝わってきました。
「そうか…そうだな。ルーテシアがこの場にいたら、本当にそう言っていたかもしれない。ルーテ、私はね、フォンテンス家を絶望に陥れた犯人を許すつもりは毛頭ない。必ず見つけ出して処刑台へ送る」
この人は涼しい顔をしながら、恐ろしいほどの憎悪を言葉に込めていますわ。その犯人のせいで、私・父・母が死んでしまったのだから無理もありません。
「だから、《ロイド》を名乗ったままなんですね」
自分も狙われていることを考慮すれば、意識を取り戻して以降、安全を確保するため、偽名を名乗り生活を送るべきだった。しかし、真犯人への身を焦すほどの憎悪が…それを許さなかった。
「《ロイド・フォンテンス》はあの事故で死亡したことになっているが、王都の貴族たちは私の顔を覚えているだろう。だから、ここへ来る際も細心の注意を払っている。元々オースコット家は国境を守るため、殆どのお茶会や社交会に出席していないし、呼ばれることもない。仮に呼ばれたとしても、王都へ出向いているのはアルテイシアだから、《ロイド・オースコット》は霧に包まれた謎の人物と噂されている」
なるほど、綱渡り状態ではあるものの、アルテイシア様やチェルシーの安全は保証されているわけですか。
「君の言いたいことはわかる。仮に私の正体が知られたとしても、チェルシーの身に危害が及ぼないよう細工してあるから安心するといい。人は、血に拘るからね」
《血に拘る》…まさか!?
「チェルシーには、相談済みなのですか?」
お兄様が何を言っているのか、すぐにわかりましたわ。ただ、チェルシーにとっては、かなり傷つく行為のはず、彼女は知っているのでしょうか?
「大丈夫、彼女が九歳の時に私の事情を説明している。始めは大泣きされたが、きちんと了解も得ているよ」
それなら安心なんですけど、話す時期を少しでも間違えていたら、性格が絶対に歪んでいましたわ。
「《ロイド・オースコット》の正体は、陛下・王妃・ラルカーク様も知っている。さっき言った対策なんだが、本当なら学園へ行く直前にチェルシーに話そうと思っていた。十年前、それをグレース王妃に話したら怒られてしまってね。あの時は、陛下も驚いていたな。彼女の提案通り、幼い九歳の時に話しておいて正解だった。もし、当初の予定のまま話していたら、チェルシーは今のままではいられなかったかもしれない」
グレース、感謝しますわ。思春期の時期にそんな大きな話を聞かされたら、精神が間違いなく不安定になっていましたわ。性格も、今とかけ離れたものになっていたかもしれません。
「事情は把握しました。明日以降、私がチェルシーを肉体的にも精神的にも守ってみせますわ。そのためにも、早い段階で力の制御と魔法を身につけておきます」
私がそう宣言すると、先程まで感じていた憎悪が消失し、お兄様は優しげな微笑みを浮かべていました。
「ありがとう。君といると、ルーテシアと話しているような感じになる。ルーテ、チェルシーのことを宜しく頼む」
「はい!!」
休日が明けると、学園の授業が再開します。
まずは、学園でのチェルシーの置かれる状況を把握しましょう。
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