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第三章 水面下で蠢く者たち
31話 旧友との再会
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模擬戦が終了し、ティエリナの怒りも収束したようなので、見学者たちは二人のもとへ駆けつけていきます。この分なら続きが行われることもなさそうなので、私はチェルシー、クリスティー、アンリエッタの三人に事情を説明し、急ぎこの場を離れようと行動を起こそうとしたところで、見学者たちが急に滝を割ったかのように二手に分かれ、一人の男性教師がこちらへ向かってきているのですが、どうも様子がおかしいですね。
彼は、ティエリナの背後から二人に声をかけてきました。
「ティ・エ・リ・ナ~~~~」
この方は格闘技専門教師アハト、二十五歳前後の先生で身体もがっしりしており、訓練場の管理も任されているお方です。誰が見ても、怒っているのが丸わかりですわね。
「ひ!? そのお声は……」
ティエリナが恐る恐る後ろを振り向くと、激怒している先生と目が合いました。
「本来、学年の異なる者同士の試合は、教師の許可が必要とされている~。今回の模擬戦はあの方からの願いもあって、特別に許可されたものだ~。お前~~注意されたことを忘れたな~~~」
顔は怒っているのに、口調だけが優しいせいもあって気味悪いですわ。アハト先生のコメカミ付近がピクピクと動いており、込み上げてくる怒りを必死に抑えているのが分かります。
あ、彼が右手でティエリナの顔を鷲掴みました。
「あ…その…それは~~チェルシーと私との相性が抜群だったので…つい…あの…痛いのですが…」
これは、俗に言う体術《アイアンクロー》では?
「俺の目から見ても、君たちの相性は抜群のようだ…が、それとこれとは話が違うよな~~よう~し、今から指導室に行ってみっちりお叱りを受けてもらおうか~~~」
え!?
顔面を鷲掴みしたまま、ティエリナをズルズルと無理矢理に引きずっていってますわ!!
「先生、痛い、痛い…私…これでも侯爵令嬢なんですが?」
アハト先生は《平民》、彼女は《侯爵令嬢》。
学園の敷地外でこれを実行すれば、即座に不敬罪が適用されるものの、敷地内に限り、こういった身分差がなくなり、生徒全員が平等に扱われます。たとえ王族であったとしても、ここでは教師に逆らってはいけません。
この方は相手が誰であろうとも、校則や約束事を破った場合の罰に対し、一切の容赦がありません。ただ、平民貴族問わず生徒思いの先生で大変人望もあるため、こういった行為を実行しても、誰からも批難されていないようです。
「ほ~う、だったらそのすぐに熱くなる性格を矯正しないといかんな~~~」
「え、本当にこのまま連行されるの!! チェルシーーーー助けて~~~」
チェルシーに右手だけを必死に向けて助けを求めるティエリナ。
連行されていく彼女を醒めた目で見つめるチェルシー。
「ティエリナ先輩、いってらっしゃ~~~~い」
あはは、笑顔で容赦なく上級生を見捨てましたわ。
『みんな、助けて~~~』という声をあげながら、校舎の方へ歩いていく二人を、皆が苦笑いしたまま見つめています。
とりあえず、もう何も起こらないようですし、私は発信源となる場所へ向かいましょう。
○○○
発信源となる校舎三階の教室へ一直線に飛んでいき壁を通り抜けた瞬間、そこには私の知る一人の女性が佇んでいました。
私の学友、アイリス・クバイルム侯爵夫人。
この方が何故自分の娘の模擬戦を妨害したのかしら?
アイリスは双眼鏡で訓練場を覗き、状況を確認しているようです。
「よかった。模擬戦を無事に終えて、チェルシーにも怪我はないようね。ティエリナには、後でお仕置きしておかないといけないわね。今日模擬戦をすることに許可こそ出したけど、『絶対に熱くなるな!!』と私や夫のレストからも言われていたでしょうに。あの子の性格は、誰に似たのかしら……ってレストに決まってるか」
あら?
何だか様子が変ですわ。
この言い方ですと、チェルシーが怪我を負わないよう、わざと邪魔を入れたように聞こえるのだけど?
そういえば、アハト先生も《あの方》や《注意されたことを忘れたのか?》という言葉を使っていましたが、アイリスが裏で手を回していたのね。
「それにしても……この世界はやっぱりおかしいわ。ロイド・オースコットは、まだ健在のようだし、チェルシーだって絶望に囚われていない。それどころか性格も明るく元気で活動的な女の子になっているわ。ニーナ毒殺未遂事件、全てはあの日からおかしくなったのよ。この展開に関しては私的に嬉しいのだけど、これじゃあ未来を読みづらいわね」
何ですって!?
アイリス、あなたは何かを知っているの!?
「まずは、《身分差交流演習制度》を利用して、チェルシーの魔力と性格をきちんと把握しておきましょう。彼女に問題なければ、この先の未来だって明るいはず!!」
まさか、アイリスが学園側に圧力をかけて、チェルシーのお世話元になったの?
彼女には、未来を見通せる力があるというの?
魔術《先読み》というものがあるけど、あれは指定した相手の数秒先の未来を視るというもの。彼女の言い方から察すると、ずっと先の未来を見通せるような感じよね?
「ただ、ルーテシアと同じ道を辿る危険性もあるから、チェルシーから現在の友人関係や環境も聞いておかないと……」
やっぱり、アイリスは何かを知っているわ!!
でも、私を殺した犯人ではなさそうね。
不意に、彼女は教室の入口の方を向きましたわ。
「ここらでお暇しないと、先生方から怪しまれるわね。四日後の制度開始日が楽しみだわ。あの様子だと、ティエリナはチェルシーのことを気に入っているようだし、あとは【あの子】と仲良くなれるかどうかが問題よね。できれば互いを気に入り、婚約者になって欲しいところだけど、それは本人同士次第か。さて、私も指導室に行って、娘を叱っておかないと」
そう言い残し、アイリスは教室を出て行きました。
彼女の言った言葉が、心に響きますわ。
《この世界はやっぱりおかしい》
《ロイド・オースコットがまだ健在》
《チェルシーは絶望に囚われていない》
《ルーテシアと同じ道を辿る危険性がある》
アイリスは【何か】を知っていて、何らかの行動を起こそうとしている。でも、それはチェルシーにとって決して悪いことではなさそうね。身分差交流制度を利用して彼女のことを観察し見極めようとするのなら、私もそれを利用してアイリスたちを観察しましょう。今すぐに行動を起こすことも可能ですが、ここは様子を見ましょう。
私の知らない何かが、王都内で蠢いているわ。
慎重に行動しないと。
彼は、ティエリナの背後から二人に声をかけてきました。
「ティ・エ・リ・ナ~~~~」
この方は格闘技専門教師アハト、二十五歳前後の先生で身体もがっしりしており、訓練場の管理も任されているお方です。誰が見ても、怒っているのが丸わかりですわね。
「ひ!? そのお声は……」
ティエリナが恐る恐る後ろを振り向くと、激怒している先生と目が合いました。
「本来、学年の異なる者同士の試合は、教師の許可が必要とされている~。今回の模擬戦はあの方からの願いもあって、特別に許可されたものだ~。お前~~注意されたことを忘れたな~~~」
顔は怒っているのに、口調だけが優しいせいもあって気味悪いですわ。アハト先生のコメカミ付近がピクピクと動いており、込み上げてくる怒りを必死に抑えているのが分かります。
あ、彼が右手でティエリナの顔を鷲掴みました。
「あ…その…それは~~チェルシーと私との相性が抜群だったので…つい…あの…痛いのですが…」
これは、俗に言う体術《アイアンクロー》では?
「俺の目から見ても、君たちの相性は抜群のようだ…が、それとこれとは話が違うよな~~よう~し、今から指導室に行ってみっちりお叱りを受けてもらおうか~~~」
え!?
顔面を鷲掴みしたまま、ティエリナをズルズルと無理矢理に引きずっていってますわ!!
「先生、痛い、痛い…私…これでも侯爵令嬢なんですが?」
アハト先生は《平民》、彼女は《侯爵令嬢》。
学園の敷地外でこれを実行すれば、即座に不敬罪が適用されるものの、敷地内に限り、こういった身分差がなくなり、生徒全員が平等に扱われます。たとえ王族であったとしても、ここでは教師に逆らってはいけません。
この方は相手が誰であろうとも、校則や約束事を破った場合の罰に対し、一切の容赦がありません。ただ、平民貴族問わず生徒思いの先生で大変人望もあるため、こういった行為を実行しても、誰からも批難されていないようです。
「ほ~う、だったらそのすぐに熱くなる性格を矯正しないといかんな~~~」
「え、本当にこのまま連行されるの!! チェルシーーーー助けて~~~」
チェルシーに右手だけを必死に向けて助けを求めるティエリナ。
連行されていく彼女を醒めた目で見つめるチェルシー。
「ティエリナ先輩、いってらっしゃ~~~~い」
あはは、笑顔で容赦なく上級生を見捨てましたわ。
『みんな、助けて~~~』という声をあげながら、校舎の方へ歩いていく二人を、皆が苦笑いしたまま見つめています。
とりあえず、もう何も起こらないようですし、私は発信源となる場所へ向かいましょう。
○○○
発信源となる校舎三階の教室へ一直線に飛んでいき壁を通り抜けた瞬間、そこには私の知る一人の女性が佇んでいました。
私の学友、アイリス・クバイルム侯爵夫人。
この方が何故自分の娘の模擬戦を妨害したのかしら?
アイリスは双眼鏡で訓練場を覗き、状況を確認しているようです。
「よかった。模擬戦を無事に終えて、チェルシーにも怪我はないようね。ティエリナには、後でお仕置きしておかないといけないわね。今日模擬戦をすることに許可こそ出したけど、『絶対に熱くなるな!!』と私や夫のレストからも言われていたでしょうに。あの子の性格は、誰に似たのかしら……ってレストに決まってるか」
あら?
何だか様子が変ですわ。
この言い方ですと、チェルシーが怪我を負わないよう、わざと邪魔を入れたように聞こえるのだけど?
そういえば、アハト先生も《あの方》や《注意されたことを忘れたのか?》という言葉を使っていましたが、アイリスが裏で手を回していたのね。
「それにしても……この世界はやっぱりおかしいわ。ロイド・オースコットは、まだ健在のようだし、チェルシーだって絶望に囚われていない。それどころか性格も明るく元気で活動的な女の子になっているわ。ニーナ毒殺未遂事件、全てはあの日からおかしくなったのよ。この展開に関しては私的に嬉しいのだけど、これじゃあ未来を読みづらいわね」
何ですって!?
アイリス、あなたは何かを知っているの!?
「まずは、《身分差交流演習制度》を利用して、チェルシーの魔力と性格をきちんと把握しておきましょう。彼女に問題なければ、この先の未来だって明るいはず!!」
まさか、アイリスが学園側に圧力をかけて、チェルシーのお世話元になったの?
彼女には、未来を見通せる力があるというの?
魔術《先読み》というものがあるけど、あれは指定した相手の数秒先の未来を視るというもの。彼女の言い方から察すると、ずっと先の未来を見通せるような感じよね?
「ただ、ルーテシアと同じ道を辿る危険性もあるから、チェルシーから現在の友人関係や環境も聞いておかないと……」
やっぱり、アイリスは何かを知っているわ!!
でも、私を殺した犯人ではなさそうね。
不意に、彼女は教室の入口の方を向きましたわ。
「ここらでお暇しないと、先生方から怪しまれるわね。四日後の制度開始日が楽しみだわ。あの様子だと、ティエリナはチェルシーのことを気に入っているようだし、あとは【あの子】と仲良くなれるかどうかが問題よね。できれば互いを気に入り、婚約者になって欲しいところだけど、それは本人同士次第か。さて、私も指導室に行って、娘を叱っておかないと」
そう言い残し、アイリスは教室を出て行きました。
彼女の言った言葉が、心に響きますわ。
《この世界はやっぱりおかしい》
《ロイド・オースコットがまだ健在》
《チェルシーは絶望に囚われていない》
《ルーテシアと同じ道を辿る危険性がある》
アイリスは【何か】を知っていて、何らかの行動を起こそうとしている。でも、それはチェルシーにとって決して悪いことではなさそうね。身分差交流制度を利用して彼女のことを観察し見極めようとするのなら、私もそれを利用してアイリスたちを観察しましょう。今すぐに行動を起こすことも可能ですが、ここは様子を見ましょう。
私の知らない何かが、王都内で蠢いているわ。
慎重に行動しないと。
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