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第34話 異変発生 (生後52日目)

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前回のあらすじ
  仮説を明希さんと有希ちゃんに発表しました。2人とも、信じてくれました。和葉ちゃんと依澄ちゃんに協力のお願いをしたところ、快く引き受けてくれました。さあ、いよいよ、川底の調査です。

☆☆☆

  明希さんが警察や工事関係者に説明を行った。当初は、皆信用していなかったが、事細かに状況を説明すると、渋々ながら川底調査の許可を貰えた。

「和葉さん達は昼頃に到着予定だから、私達だけで一度行ってみましょう。」

ということで、土砂崩れ現場の下にある川にやって来ました。川幅15m程か、結構大きいな。土砂に巻き込まれた部分は60m程、水深は最近雨が少ないからか20cm程度と浅いな。土の色合いが違うから、結構わかりやすい。この一帯を金属探知機を使って調べるのか、今日中には何かしらの成果が欲しいところだな。

「有希、川に入る時は必ず命綱を付けておきなさい。重機で整地したとはいえ、ぬかるみで足を取られるかもしれないわ。今は、入っては駄目よ。」

(有希ちゃん、今、入ろうとしただろ。)

「う、わかってます。入るのは、和葉さん達が来てからですよね。」

(あー、俺が霊力で念動力を使えれば、川底の土をこうドバッと抉り取れるのに。そんな都合の良い術はないのかな?)

「精霊がいる時ならあったけど、今は無理ね。そんな術があったら、陰陽師である私達は、ここまで苦労しないわ。」

成る程。一応、念動力に近い術はあったんだね。これは、要開発だな。俺はパピヨンだから、物凄く非力だ。念動力をマスターすれば、有希ちゃん達の仕事をお手伝いできるかもしれない。

あれ、有希ちゃんがジト目で俺を見てるのはなぜ?

「ラッキー、あなた、念動力を開発するつもりでしょ。」

(当然!それができれば、非力な俺でも、少しは有希ちゃん達の仕事のお手伝いを出来るかもしれないでしょ。)

俺の意気込みをスルーして、有希ちゃんは盛大な溜息をついた。

「ラッキー、あなたは今の時点で、充分に貢献してくれているわ。遠方念話・索敵・遠方憑依、この3つだけで、十分凄いことをしているの。自覚しなさい。」

(うーん、いまいち実感がわかないけど、一応自覚しておくよ。)

とりあえず、有希ちゃんと明希さんはこの辺りを散歩するみたいなので、一旦遠方憑依を切った。和葉ちゃん達が到着したら、連絡をくれることになった。

せっかく時間があるんだから、念動力を練習しておこう。念動力、離れた場所にある物体を動かしたり破壊する力か。俺の霊力だけで、どうやるかなんだよな。漫画とかでは、魔力を火・水・風などに変換して放っていたよな。ということは、霊力を何かに変換してやれば、漫画みたいにできるんじゃないか。こういう時、重要なのはイメージだな。

というか、家の中で火・水・風、全部危ないだろ。なら、重力とか引力だな。簡単な磁石をイメージしてみるか。高校の時、興味本位で勉強していたから原理はわかるぞ。俺をN極として、あのおもちゃをS極としよう。まずは、霊力をちょっと出してS極に変換しておもちゃにマーキングする。あとは、俺自身が持つ霊力を少し右の前足に移動して、N極に変換と、これでいいか-------。

  ---------あれ、何も変化がない。やはり、いきなりは成功しないか。俺が近づこうとした瞬間、おもちゃが動き出した。そして、俺のところに徐々に近づいてきて、最後にくっついた。おー、一応成功だよな!

  あれから練習を重ねた結果、やはり変換する時のイメージが重要だな。少しでも崩れると発動しなくなる。あと、引き寄せる力は、マーキングする霊力の量に依存することがわかった。この霊力の変換を応用していけば、いずれ念動力を自在に操れるようになると思う。もっと練習を重ねていこう。

☆☆☆

お昼の12時、和葉ちゃんと依澄ちゃんが到着したみたいだ。俺は有希ちゃんに遠方憑依し、川底の調査を開始した。

(和葉ちゃん、依澄ちゃん、金属探知機、購入してくれてありがとう。高かったんじゃないの?)

和葉 「いいのよ。どちらかというと、前から欲しかったのよね。」

(まさか、金属探知機使って、自分達もお宝を見つけたいとかいう理由じゃないよね。)

依澄 「なんでわかるの!ラッキー。」

(いや、わかるよ。そんな理由だと、絶対許可もらえないよ。)

和葉 
「あはは、その通りなのよ。でも、今回は人探しが理由だからね。きちんと、許可はもらえたわ。有希ちゃんも、こういう時こそ、私達を利用しなさい。」

「はい、ラッキーにも同じ事を言われました。」

明希
「調査を開始する前に、有希と和葉は命綱を付けなさい。私と依澄で、ロープを持っておくから。」

有希・和葉「「はい」」

いよいよか。まずは、実際に俺も川底を見てみよう。
用意が出来たみたいだな。
有希ちゃんが下流側、和葉ちゃんが上流側となり、調査が開始された。

(いよいよだね。諦めず、頑張って見つけよう。)

有希 「ええ」

-----見落しを防ぐために、焦らず少しずつ進めていった。時折、足を滑らし全身ずぶ濡れになったりもしたが、1時間経過しても、有希ちゃんも和葉ちゃんの方も、まったく反応が現れなかった。これは精神的にきついな!

(有希ちゃん、和葉ちゃん、一旦休憩しよう。2人とも、集中力が落ちてきてる。)

有希 「私はまだ大丈夫!」
和葉 「く、確かに休憩しましょう。私も有希も焦ってきてるわ。」
有希 「わ、わかりました。」

シートを敷き、依澄ちゃんと明希さんがサンドイッチとジュースを用意してくれた。

休憩を15分程入れた後は、入れ替わりで明希さんと依澄ちゃんが探索を行い、それを繰り返した。しかし、全ての範囲を探索したが、成果はでなかった。時間は17時。そろそろ切り上げた方がいいかもしれない。

明希 
「今日はここまでにしましょう。予想以上に体力を使うわ。」

有希 「まだ大丈夫です。やらせて下さい。」

明希
「有希、和葉や依澄もここに来たばかりで疲れているわ。今日は終わりにしましょう。まだ、探知器の扱いに慣れてない可能性もあるから、もう一度同じ事をやってみましょう。」

まだ、見つけられていないから、悔しいんだろう。

有希 「はい、わかりました。」

渋々ながら納得してくれた。
和葉ちゃんや依澄ちゃんも、複雑な気持ちだろう。

それにしても、この作業、思った以上に精神的負荷がきついな。今の俺の念動力?では、役に立たないし、せめて索敵を使ってみるか。スマホの電波ではなく、水を辿ってやってみよう。少しは変化があるかもしれない。

(一度、索敵をやってみます。ただし、スマホの電波ではなく、水の流れを使います。何か変化があるかもしれません。みんなは、休憩していてね。)

明希 「ラッキー、無理してはだめよ。きつくなったら、すぐに切りなさい。」
有希 「そうよ。無理は禁物よ。」

  俺は索敵を開始した。水の流れを使ってやるのは始めてだから、妙な感覚だ。静かだ、それに凄い清涼感を感じる。ここが上流だからだろう。もっと、研ぎ澄ませ、僅かな揺らぎを見逃すな。必ずあるはずだ、探せ探せ。

----------なんだ、なにかおかしい。川周辺に霊は見かけない。きちんとお祓いされてるのだろう。でも、霊とは違う何か細かいものが水の中に大量にあるぞ。もしかして、こいつらが邪魔をして探知器に反応がなかったのか。もっと深く調べてみよう。これは、死んだ人間や動物達の思念と悪意か。俺達の邪魔をするつもりか!ここには有希ちゃん達がいるんだ。そんなことさせるわけないだろ。面白い、懲らしめてやる。さっきの修行のお陰で、術の創り方は掴めたからな。今迄、ずっと霊力循環をやり続けて、霊力を増やす修行をやってきた。ここで、鬱憤を晴らしてもらうぞ。イメージは炎、ただし霊の思念だけを浄化するするに限定、形態は下から上に上昇する、そう上昇気流の龍、色は青だな。名付けて浄炎てところか。

さあ、いけ、【浄炎】
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