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それから、これから。心の糸を編んでいく
食いだおれとバイキング(略) おまけ
次の日の夜、朋志は夕食に、いつもより少し豪華な食事を準備した。といっても腕前はまだ初心者レベルなので、棗の好きな味を聞いたり、アドバイスを受けながら、簡単な煮込み料理を作っただけだ。棗と一緒にキッチンに立てたことが嬉しかったし、朋志なりの感謝の気持ちだった。
「棗さん、今日のご飯どうですか?」
「美味しいです、すごく」
棗が微笑むと、朋志の胸に小さな達成感が広がった。棗の言葉はまっすぐ朋志に届いた。「美味しい」と言われて、心が温かくなる。
「棗さんは座っていてください」
「朋志さん?」
「俺がしますから」
棗がいつものように食後の紅茶を用意しようと立ち上がったところを引き止め、朋志は慌ててキッチンへと入っていった。
朋志は珍しく自分から紅茶を淹れた。ソファに座っている棗にカップを差し出すと、彼は目を丸くして受け取った。
「今日は朋志さんが淹れてくれるんですね、いいのですか」
「はい、いつも棗さんが淹れてくれるから。これは俺からお返しです」
棗は受け取ったカップを見つめて、微かに笑う。
「ありがとうございます。では、いただきます」
「はい。でも、棗さんが淹れてくれたほうが美味しいですけど」
口に含んだ棗の顔が、ほんの少しだけほころんだ。
「僕には、この味が一番ですよ」
「……はい」
棗に飲んでほしかった朋志は、嬉しそうに飲んでくれる姿と、欲しい言葉をくれる棗に、満たされる思いがした。
「棗さん」
「はい」
「俺は、棗さんに認めてもらうことが一番嬉しいです」
朋志にとって、嬉しいことは、この紅茶を褒めてくれたことだけではなかった。
昨日は、棗と比べてしまって、少なからず落ち込んだ気持ちになってしまった。棗に『体重を増やせ』や、『紅茶を飲まないように』など言われてしまっていたら、きっと朋志は、『棗がそう言うなら……』と言われたとおりにしていたかも知れなかった。心の底にはいつも、棗に喜んで欲しい、言われた通りにしたいという欲求があるからだ。
でも、棗はそうはしなかった。取ってつけたような朋志の「食べます」という言葉を、無理をする必要はないと言ってくれた。今の朋志を認めてくれて、優しく見守ってくれる。棗の気遣いが、朋志のなかで一歩を踏み出すための力になる。自然と今の自分から変わりたいと思うようになった。と言っても、紅茶だけでお腹を満たすことはやめようというくらいだが、できるだけ長く棗と一緒にいたいという気持ちは強い。
「僕も、朋志さんが無理せずに笑っていてくれたら嬉しいですよ」
その言葉に、朋志の頬がほのかに熱を持つ。
「どうしたら棗さんに、気持ちを伝えられるか考えていて……」
「充分に伝わりましたよ」
そう言いながら、棗は少し表情を変えて、静かに朋志を見つめた。朋志の頬がじんじんとするほどだ。
「棗さんが喜ぶこと、教えてください。俺……、そうしたいです」
棗の視線を受けて、朋志は、途中からものすごく恥ずかしくて、大それたことを言っているように感じた。でも、無いことにはできない、本心だ。
「朋志さん……」
「……棗さん」
「僕のところへ来てください」
「はい……」
朋志は棗の前に向かい合う。体に添わせた指は、朋志よりも少しだけ大きな手に掬われて、そっと引き寄せられた。棗の手は優しく朋志を包んだ。優しくても、決して拒むことを許さない強さを帯びている。朋志は驚くと同時に、どうしようもないときめきを感じ、安心して、体の力を抜いた。
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嬉しい感想ありがとうございます♡
これからも更新していきます〜♪
初めまして。こちらの作品でDom/Subユニバースというジャンルを初めて知り、調べてしまいました。主従関係はいいものですね…。ありがとうございます!
わぁぁ…。読んでくださったのですね。
ご丁寧にありがとうございます。
嬉しいです☺。
どうしても気になったので失礼します。
診療内科ではなく、心療内科じゃないですか?
本当ですね。
直しておきます。
ありがとうございました。