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会社から2駅ほど離れた繁華街の、ちょっと小洒落た居酒屋で倉見たちはグラスを合わせた。
男女8人。倉見は八木と、他同僚2名が一緒。相手の女性達は20代の看護師――という触れ込みだったはずだが。
「ごめ~ん。20代はこの子だけなの」
と言って、他の3人の女は笑った。
25だと紹介されたその女性は、眩しそうな笑顔を倉見に向けた。
最近テレビでよく見る。若手の女優によく似た、なかなか可愛い女性だった。
「私、こういうのに参加するの初めてで……」
平居千秋と名乗ったその女性は、そう言って心細そうに俯いた。
きっと先輩達に強引に連れてこられたのだろう。20代の看護師という餌に、一応嘘はないぞという言い訳の為だな……と感じて少し気の毒になり、倉見は「そうなんですか」と頷いてみせた。
八木は、知り合いだという女の一人に「嘘つくなよなぁ」と文句を言っていたが、「全員20代とは言ってません!」と突っ込まれ、詐欺だ!と笑っている。
倉見も笑うと、千秋の方を見る。
グラスのビールにはあまり口をつけず、水を飲んでいる様子が気になった。
「他の飲み物、頼みましょうか?」
すると千秋は嬉しそうに笑った。
「ありがとうございます。私、お酒飲めないんです。ごめんなさい」
「謝ることないですよ。ソフトドリンク頼みましょう」
そう言ってメニューを見せる倉見を、千秋はじっと見つめた。
「倉見さんって、こういう所に来なくても、彼女いそうなんですけど?」
「……」
倉見は答えずに笑った。それを隣で聞いてた八木が「彼、婚約者に逃げられたばっかりなんだ。慰めてあげてよ」と余計なことを言う。
それを聞いていた他の女性たちが口々に言った。
「嘘でしょう?私なら絶対逃がさないけどな」
「死んでも捕まえておくわよね」
「そんな勿体ないことする女いるんだ?」
「――」
倉見は恥ずかしさと情けなさで、思わず八木を睨みつけた。八木は、まぁまぁ……という顔をして肩を叩く。倉見はため息をつくと、自分をじっと見つめる千秋に気づいて苦笑した。
「気にしないで下さいね」
「でもショックですよね」
「まぁ……ね」
倉見は俯いて笑った。
途中、トイレで中座すると、少し間をおいて八木が入ってきた。
倉見が手を洗う背後で用を足しながら、「千秋ちゃん、お前に気があるな」と呟いた。
「そうかな?」
「見てりゃ分かるよ」
倉見は肩をすくめると、「席が近いからそう感じるだけだよ」と言った。
「気づいてるくせに。察してあげなよ」
「……」
倉見はハンカチで手を拭きながら、黙って俯く。
「連絡先交換した?」
「いいや」
2人一緒にトイレを出ると、テーブルに戻る前に八木が言った。
「ちゃんと連絡先交換しろよ」
「――」
倉見は黙って視線を入り口の方へ向けた。
茶色い髪をした、背の高い男の後ろ姿が一瞬目に留まる。
「!?」
ハッとなり、思わず目を見張る。何故だか鼓動が高鳴った。
(まさか……)
だが、振り返った男の顔が、似ても似つかぬ別人と分かりガッカリする。
(ガッカリ?)
(なんでガッカリするんだ?)
彼がこんな所にいるわけない。彼は埼玉に住んでるんだ。
まぁ、電車で来れない距離ではないが……
テーブルに戻ってからも、倉見はどこか上の空で終始ぼんやりしていた。千秋から何か質問されたような気がしたが、その内容も、自分が何を答えたのかも、よく覚えていない。
常に誰かの面影を目の端で探している。
それが香穂子ではなく、綾瀬であることに気づいて、倉見は困惑した。
午後八時過ぎ。
店の外に出て、カラオケに行こうという話になったが、倉見はそれを辞退した。
「えぇ?なんでだよ」
「悪い。俺、今日はここで帰るわ」
倉見はそう言うと、女性たちに頭を下げた。
八木が何かを言いかけたが、「また週明けな」と言って背を向ける。
千秋も何か言いたげに目を向けていたが、それには気づかぬふりをした。
酷いとは思ったが、倉見は逃げるようにその場を離れた。
男女8人。倉見は八木と、他同僚2名が一緒。相手の女性達は20代の看護師――という触れ込みだったはずだが。
「ごめ~ん。20代はこの子だけなの」
と言って、他の3人の女は笑った。
25だと紹介されたその女性は、眩しそうな笑顔を倉見に向けた。
最近テレビでよく見る。若手の女優によく似た、なかなか可愛い女性だった。
「私、こういうのに参加するの初めてで……」
平居千秋と名乗ったその女性は、そう言って心細そうに俯いた。
きっと先輩達に強引に連れてこられたのだろう。20代の看護師という餌に、一応嘘はないぞという言い訳の為だな……と感じて少し気の毒になり、倉見は「そうなんですか」と頷いてみせた。
八木は、知り合いだという女の一人に「嘘つくなよなぁ」と文句を言っていたが、「全員20代とは言ってません!」と突っ込まれ、詐欺だ!と笑っている。
倉見も笑うと、千秋の方を見る。
グラスのビールにはあまり口をつけず、水を飲んでいる様子が気になった。
「他の飲み物、頼みましょうか?」
すると千秋は嬉しそうに笑った。
「ありがとうございます。私、お酒飲めないんです。ごめんなさい」
「謝ることないですよ。ソフトドリンク頼みましょう」
そう言ってメニューを見せる倉見を、千秋はじっと見つめた。
「倉見さんって、こういう所に来なくても、彼女いそうなんですけど?」
「……」
倉見は答えずに笑った。それを隣で聞いてた八木が「彼、婚約者に逃げられたばっかりなんだ。慰めてあげてよ」と余計なことを言う。
それを聞いていた他の女性たちが口々に言った。
「嘘でしょう?私なら絶対逃がさないけどな」
「死んでも捕まえておくわよね」
「そんな勿体ないことする女いるんだ?」
「――」
倉見は恥ずかしさと情けなさで、思わず八木を睨みつけた。八木は、まぁまぁ……という顔をして肩を叩く。倉見はため息をつくと、自分をじっと見つめる千秋に気づいて苦笑した。
「気にしないで下さいね」
「でもショックですよね」
「まぁ……ね」
倉見は俯いて笑った。
途中、トイレで中座すると、少し間をおいて八木が入ってきた。
倉見が手を洗う背後で用を足しながら、「千秋ちゃん、お前に気があるな」と呟いた。
「そうかな?」
「見てりゃ分かるよ」
倉見は肩をすくめると、「席が近いからそう感じるだけだよ」と言った。
「気づいてるくせに。察してあげなよ」
「……」
倉見はハンカチで手を拭きながら、黙って俯く。
「連絡先交換した?」
「いいや」
2人一緒にトイレを出ると、テーブルに戻る前に八木が言った。
「ちゃんと連絡先交換しろよ」
「――」
倉見は黙って視線を入り口の方へ向けた。
茶色い髪をした、背の高い男の後ろ姿が一瞬目に留まる。
「!?」
ハッとなり、思わず目を見張る。何故だか鼓動が高鳴った。
(まさか……)
だが、振り返った男の顔が、似ても似つかぬ別人と分かりガッカリする。
(ガッカリ?)
(なんでガッカリするんだ?)
彼がこんな所にいるわけない。彼は埼玉に住んでるんだ。
まぁ、電車で来れない距離ではないが……
テーブルに戻ってからも、倉見はどこか上の空で終始ぼんやりしていた。千秋から何か質問されたような気がしたが、その内容も、自分が何を答えたのかも、よく覚えていない。
常に誰かの面影を目の端で探している。
それが香穂子ではなく、綾瀬であることに気づいて、倉見は困惑した。
午後八時過ぎ。
店の外に出て、カラオケに行こうという話になったが、倉見はそれを辞退した。
「えぇ?なんでだよ」
「悪い。俺、今日はここで帰るわ」
倉見はそう言うと、女性たちに頭を下げた。
八木が何かを言いかけたが、「また週明けな」と言って背を向ける。
千秋も何か言いたげに目を向けていたが、それには気づかぬふりをした。
酷いとは思ったが、倉見は逃げるようにその場を離れた。
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