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sorarion914

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#26

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 倉見はぼんやりとパソコンのディスプレイを見つめていた。
 朝から立て続けに書類の書き損じを指摘されて、訂正しては提出を繰り返し、総務の女性から苦笑いされた。
 どうにも頭が冴えなくて、倉見は席を立つとそのまま喫煙室へ行った。
 珍しく誰もいなかった。
 タバコをくわえて火をつける。そこへ、まるでタイミングを合わせたように八木が入ってきた。
 それを見て倉見は笑う。
「お前、俺の事ストーキングしてる?」
「休憩のタイミングが同じだけだよ」
 と言って八木は笑うと、「タバコ解禁?」とからかうように言った。
「半年はもったよ」
「頑張ったじゃん」
 倉見は苦笑すると、「なぁ」と聞いた。
「八木はさぁ……男から好きだって言われたことある?」
「は?」
 八木は楽しそうに笑うと、首を振った。
「ないよ。なに?誰かに告られた?」
「そうじゃないけど……」
 倉見はしばらく考えると、言葉を選びながら再度聞いた。
「じゃあさ。男を見て、『こいつ好きだなぁ』って思ったことは?」
「……」
 八木は不思議そうな顔をする。タバコの灰を落としながら「それって恋愛感情なしで?」と聞いた。
「そう」
「それならあるよ。憧れみたいなもんかな」
「そうだよな……」
 倉見はそう呟いて頷いた。恋愛感情抜きなら自分にだってある。男が惚れる男って存在だ。
「じゃあさ……そういう男とキスしたいと思う?」
 この質問には、さすがの八木もかぶりを振ると、「あるわけないだろう」と笑った。
 そして本気で心配そうな顔をして倉見の方へ身を乗り出した。
「お前大丈夫か?相当欲求不満溜まってない?」
「バカ、そんなんじゃないって」
「早く女作れよ。千秋ちゃんとはどうなったんだよ?」
 そう聞かれて、倉見は思わず心の中で(あ!)と声を出した。
 (しまった!アドレスにメール送るの忘れてた!)
 あのメモ……どこやったっけ?と、咥えタバコのままスーツのポケットをまさぐる。
「まぁ最近は女の子みたいな可愛い男が多いけど、俺はやっぱり女の子がいいなぁ」
 八木はそう言いながら、「やっぱりこう……痩せてるけど、胸とおしりは大きい方がいいなぁ」と、自分の理想の女性像を熱く語りだした。
「ガリガリに痩せてるのはダメだな。適度にムチッとしてる方が――」
「ごめん、俺もう行くわ」
 倉見はそう言うと、慌ててタバコをもみ消して喫煙室を飛び出した。
「なぁ、男とヤッたら感想聞かせてよ」
 出て行く倉見の背中にそう投げかけて、八木は肩をすくめるとゆっくりと紫煙を吐き出した。

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