T.M.C ~TwoManCell 【帰結】編

sorarion914

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第2章・邂逅

#7

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 宇佐美は駅のロータリーに佇んでいた。
 駅近くのカフェで原稿の下書きをしながら、自分宛に届いた読者からのメールを一つずつ丁寧にチェックしていたら、急にスマホにメッセージが入り驚いた。
 半分は社交辞令のつもりで交換したアドレスだったが……
 まさか本当に声をかけてくるとは思わなかった。

 だが――なぜ飯の誘い?

 てっきり事件について話がしたいのかと思ったが……市内で起きた殺人事件については、宇佐美も知っている。
 恐らく野崎たちが捜査に当たっているのだろう。詳細は分からないが、犯人らしき人物はまだ捕まっていない。
 まだ解決していないのに、のんきに俺を食事に誘ってる暇があるのか?
 それとも――
 白いSUVが軽くクラクションを鳴らして近づいてきた。
 一度会っただけだが、運転席から手を振っている男を見て、すぐに野崎だと分かった。
 宇佐美が助手席側に立つと、乗ってと合図をする。
 宇佐美はドアを開けて乗り込んだ。と同時に、車は滑るように走り出す。
「待ちました?」
「いいえ。そんなには」
 宇佐美は小さく首を振る。
 野崎はさりげなく助手席の宇佐美を目視した。
 前回と違い、今日は白いシャツにベージュのパンツ、草色の薄手のカーディガンを羽織っている。膝の上には黒いトートバッグ。
 こういう服装なりをしていると、それなりに落ち着いた雰囲気の男に見えるな、と野崎は変な感心をした。
「何か食いたいものあります?」
「別に……なんでもいいですよ」
 何でもね……と野崎は呟いた。
「今日は金曜だし、繁華街は混んでるだろうから、ちょっと郊外まで走ろう」
 そういうと、慣れた様子で市街地から離れていく。
 このあたりは、駅周辺から離れた所にも飲食店がたくさんある。
 その中で、なるべく周囲を気にせず話が出来そうな場所――そう思って野崎が選んだのは、駅から少々離れた所にある、落ち着いた雰囲気の和食処だった。
 大衆的な店だが、個室もある。
 野崎は受付で迷わず個室を選んだ。
「飲みたかったら飲んでもいいですよ。俺は車だから飲めないけど」
 個室に通されると、野崎はそう言ってジャケットを脱いだ。
「いいですよ。俺、そんなに飲めないんで」
「へぇ、そうなんだ」
 飲めないのか……と野崎に言われ、宇佐美は肩を竦めた。
 仕事帰りにそのまま来た野崎は、一見するとごく普通の会社員に見える。
 制服警官と違って、私服警官は見ただけでは分からないな……と、宇佐美は目の前の野崎を見て思った。
 初めて会った時のオフモードと違って、今日はオンモードなのだろう。ネクタイこそ外してるが、髪はキッチリと整えているし、ワイシャツとスーツも板についている感じがした。
「お互い飲めないんじゃ、しょうがないな」
 残念そうに言う野崎に、宇佐美は「ノンアルコールがありますよ」と言った。
 2人は差し向かいで料理を注文すると、先に届いたノンアルコールビールで喉を潤した。
「急に誘って、迷惑じゃありませんでした?」
 小鉢の和え物をつまみながら野崎が聞いた。
「別に……予定ないから」
「彼女とデートとかは?」
 そんなのいないし……と、宇佐美は苦笑いした。
「ホントに?」
「ホントだよ――あなたこそ」
 そう言って野崎の左手を見て言った。
「早く帰らなくてよかったんですか?結婚してるんでしょう?」
 薬指の指輪を見て、野崎は笑う。
「新婚ってわけじゃないから」
「お子さんは?」
「……いない」
 一瞬、奇妙な間があったが宇佐美は気づかぬ振りをした。
 子供の話題には触れてほしくない――そう感じたからだ。
 話題を変えようと、宇佐美は聞いた。
「野崎さんって、刑事なんですよね?」
「そうだよ」
「じゃあこれ――なんで白バイなんですか?」
 宇佐美はそう言うと、スマホのメッセージアプリを開いて野崎のアイコンを見せた。
「あぁ、それ」
 野崎は頷くと、少し照れながら言った。
「実は俺、当初は白バイ隊員になりたかったんだ」
 届いた料理を口に運びながら、アルコール抜きのビールを飲む。
「俺の親父は普通のサラリーマンだったけど、母方の祖父が元交通機動隊で、白バイに乗ってた」
「へぇ――お祖父さんも警察官だったんだ」
「あぁ。それで小さい頃からよく見てた」
 颯爽と白バイに跨る祖父を見て、憧れを抱いていた野崎だったが、中学生の時に運命的な出会いがあった。
「でも、ある日テレビドラマを見て」
「ドラマ?」
「そう。知らない?あぶない刑事」
「え?」
 宇佐美は思わず声を出して笑った。それにつられて野崎も笑う。
「あれ見て、やっぱり白バイ隊じゃなくて刑事になろう!って」
「ああいうの見て、本気で刑事目指す人っているんだ」
「そういうのって大抵憧れから入るんじゃないの?」
「そうかもしれないけど……ドラマは現実的じゃないでしょう?」
「そりゃそうさ。あんな街中でドンパチできるわけない」
「でも憧れたんだ?」
 宇佐美は眩しそうに野崎を見た。
「だってカッコよかったろ、あの2人……あんな風にコンビを組んで捜査をしてみたかったんだ」
「俺はあんまり見てないからよく分からないけど……そうか――夢を叶えたんですね」
「ただ……現実はそこまでカッコよくなかったけどな」
 少し疲れたように俯く野崎を、宇佐美はじっと見つめた。



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