T.M.C ~TwoManCell 【帰結】編

sorarion914

文字の大きさ
21 / 65
第3章・遭遇

#6

しおりを挟む
 翌日。
 小田原の御幸みゆきの浜と呼ばれる海岸で、男の水死体が発見された。
 近くにあった男の所持品からすぐに身元が分かり、野崎達のもとに連絡が入る。
 死んだのは平井義男ひらいよしお
 あのアパートの事件で、大家と共に現場に入った第一発見者の1人だった。
「隣室に住んでいた男だ。とくに容疑者とトラブルもなく、完全にノーマークだったけど」
「自殺らしい。遺書が見つかってる」
 刑事課の課長である岸谷はそう言うと、発見された鞄の中から見つかった手帳を野崎達に見せた。
 そこには、仕事がうまくいかないこと。体の調子も良くないこと。人間関係など諸々の愚痴がしたためてあった。
「第一発見者の自殺って……なんだか気になりますね」
 野崎がそう呟いた。
 遺書の内容は、いつしかその原因が事件を発見したせいだと、恨み言に変わっていた。恐ろしい夢にうなされるようになったこと。誰もいないはずの隣室から人の気配がすること。物音が聞こえてくること――
 野崎は、数日前に宇佐美と共に訪れた際、現場の部屋の窓に映る人影を思い出して思わず背筋が寒くなった。
 この事はまだ誰にも言っていない。白石にも。
「自殺に不審な点がないか調べる。まずはアパートの居室。それと大家から話を聞く。平井の職場の人からも」


 別の捜査員が大家から話を聞いている間、野崎と白石は平井の居室を調べた。
 まさか立て続けに同じアパートで不幸があるとは……大家が嘆く姿が見えるようだ、と白石は苦笑した。
「間取りは同じだけど、彼は小奇麗にしていたようだな」
 足の踏み場もないほど物で溢れていた佐々木の部屋と違い、平井の部屋は物が少なく、きれいに整理整頓されていた。
 調書によれば独身。50男の一人暮らしにしては味気ないほど小ざっぱりとしている。
 ただあまり料理はしないのか、レトルト製品やカップ麺などの空き容器がたくさんあった。缶ビールの空き缶に焼酎の空き瓶。酒は飲む方か。
「おい、見てみろよ」
 白石に呼ばれて野崎は部屋の奥に行った。
「これ……」
 隣室との壁に、マットレスが張り付けてある。
「なんだこれ?」
「何かを塞いでいるのかな?」
 まさかここに穴が開いていて、隣室に侵入できたら――佐々木を殴ったのも、カーテンの人影もすべて平井だった……
 (なんてオチになればいいけど)
 野崎は内心苦笑しながら、壁に貼り付けてあったマットレスをはがした。
 ――残念ながら。
 そこには穴など開いてはおらず、頑丈だが薄いアパートの壁があるだけだった。
 そこへ、大家に話を聞いてきた2名の捜査員がやってきた。
「平井がアパートを退去したいと申し出たのは3日前だそうです。退去理由は気味が悪いからだそうで」
 誰もいないはずの隣室に人の気配がしたり、物音がしたり。
 あの事件以降、夜も眠れない日が続いていたという。
「お祓いをするらしいですよ。さっき坊さんが来ました」
 捜査員の1人がそう言って肩をすくめた。
「このマットレスは防音のためか」
 野崎はそう言って壁を見つめた。
 宇佐美と一緒にここへ来た日――平井は退去する決意をしたのか。そして小田原まで行き、命を絶った。その時の様子が分からないので何とも言えないが、見えない何かに襲われたわけじゃないのだろうか?
 この男の死は、他のヤツの死と一緒に紐づけしていいものかどうか……

 野崎は室内の様子をザッと動画に取り、写真も何枚か撮影した。
 アパートの外に出た時、野崎はさりげなく2階の窓を見上げた。
 じっと見つめているが、カーテンの向こうにはなにも見えない。
「どうした?」
 白石に聞かれたが、野崎は黙っていた。


 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

明日のために、昨日にサヨナラ(goodbye,hello)

松丹子
恋愛
スパダリな父、優しい長兄、愛想のいい次兄、チャラい従兄に囲まれて、男に抱く理想が高くなってしまった女子高生、橘礼奈。 平凡な自分に見合うフツーな高校生活をエンジョイしようと…思っているはずなのに、幼い頃から抱いていた淡い想いを自覚せざるを得なくなり…… 恋愛、家族愛、友情、部活に進路…… 緩やかでほんのり甘い青春模様。 *関連作品は下記の通りです。単体でお読みいただけるようにしているつもりです(が、ひたすらキャラクターが多いのであまりオススメできません…) ★展開の都合上、礼奈の誕生日は親世代の作品と齟齬があります。一種のパラレルワールドとしてご了承いただければ幸いです。 *関連作品 『神崎くんは残念なイケメン』(香子視点) 『モテ男とデキ女の奥手な恋』(政人視点)  上記二作を読めばキャラクターは押さえられると思います。 (以降、時系列順『物狂ほしや色と情』、『期待ハズレな吉田さん、自由人な前田くん』、『さくやこの』、『爆走織姫はやさぐれ彦星と結ばれたい』、『色ハくれなゐ 情ハ愛』、『初恋旅行に出かけます』)

処理中です...