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第3章・遭遇
#8
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午後11時過ぎ。
宇佐美はパソコンを打つ手を止めて、そろそろ寝ようと立ち上がった。
洗面所で歯を磨き、顔を洗う。すると寝室から物音がして、宇佐美は水を止めた。
「……?」
タオルで顔を拭きながら、部屋を覗く。机の上に置いてあったスマホが起動していた。
何かの映像が流れている。近づいて見ると、先程消去したはずの動画が流れていた。
(え?)
消したつもりだったが――
宇佐美は動画を止めて、再度削除した。念の為、削除した動画が完全にデータから消えたことも確認する。
(これで大丈夫だろう……)
だが先程もそうやって削除したはずだが――
何となく腑に落ちず、宇佐美はタオルを掴んだまま室内を見回した。見慣れたはずの自分の部屋だが、気のせいか空気が重い。
「……」
なんだろう……嫌な感じだ。
自分の心拍数が上がるのが分かった。何となくだが、ここにいてはマズい気がする。
(落ち着け……何も考えるな……)
余計なことは考えず、今はひとまずここを出よう。
宇佐美はスマホと部屋の鍵を掴むと、そのまま外へ出ようと玄関に向かった。こんな時間に行く当てなどないが、今はとにかくここにいたくない。
靴を履こうと身をかがめた時、バン!という大きな音がして、室内の明かりが一斉に消えた。
「⁉」
宇佐美はハッと息を飲んだ。停電?いや違う!
玄関のドアを開けようとノブを掴んだが開かない。
「え?」
鍵は開いているのに、どうして⁉
焦って何度もガチャガチャと動かすがドアが開かない。
これも幻覚?
(違う――これは幻覚じゃない!)
大丈夫落ち着けと、必死に自分に言い聞かすが、恐怖が墨のように黒く心を覆っていく。
宇佐美はベランダへ向かった。ここは2階だ。飛び降りても死にはしないだろう。
暗い部屋の中を走り、ベランダに出る窓を掴む。
が――鍵を開けても窓が開かない。
「⁉」
嘘だろう?なんで!
「――!」
自分を外へ出さない気だ。でも誰が?なぜ?
宇佐美はじっと窓ガラスに映る自分の姿を見た。
その背後に――黒い人影が見える。
「――⁉」
背後を振り返るが誰もいない。
でも確実に誰かいる――
視線を感じた。強い視線。あの日図書館で感じた、あの気配だ。
(ここにいる!この部屋の中に)
姿は見えないが、自分のすぐ近くにいるのが分かる。
「誰だ?いるんだろう?そこに」
声をかけるが返事はない。でも、まとわりつくような視線は先程より強く感じた。
ふいに背後から肩を強く押されて、宇佐美はよろけた。
「っ!!」
振り返るが誰もいない。ポケットからスマホを取り出し、ライトをつける。それで周囲を照らした。
「誰だ?姿を見せろ!」
再び背後から背中を押され、宇佐美は「あっ!」と叫んでその場に倒れこむ。
何かが自分の上に覆いかぶさってくるような気がして、宇佐美は必死に手で振り払った。
「よせ!来るな!!」
掴んでいたスマホが床に転がる。暗闇から、見えない何かが自分に向かってくるのが分かった。
それを宇佐美は払いのけようと両手を振り上げる。
「やめろ!来るな!」
床に這いつくばりながら、壁に背をつけて虚空を見上げた。
窓から差し込む外からの僅かな明かりで部屋の中が見える。
誰もいない。姿は見えない。
なのに――
誰かがゆっくりと自分に近づいてくる気配だけは、ハッキリと感じ取ることができる。
「来るな……」
宇佐美は呟いた。言葉にならない恐怖が襲い掛かる。逃げたいのに体が動かない。
「来るな……来るな……」
嫌々をする子供のように首を振りながら、宇佐美は背中を向けると、きつく目を閉じてその場にうずくまった―――
――同時刻。
ナースステーションから漏れる明かり以外は、非常灯の光しか感じられない病棟の暗い廊下に、1人の警察官が椅子に腰かけて雑誌を読んでいた。
ICUの近くにある個室の病室には、ひと月ほど前から意識が戻らない容疑者の男が眠っている。2時間ごとに看護師が様子を見に来るが、先程来た時には相変わらず変化なしと告げただけで、そのまま業務に戻ってしまった。
(やれやれ…)
巡査2年目の内田は、いつまでこの夜間勤務が続くのか……と、もう何度も読み返している雑誌を、もう一度最初からめくり直してため息をついた。
次の交代の時に新しい雑誌を持ってこよう……そんなことを考えていると、ふと病室内で物音がした。
「?」
内田は立ち上がって雑誌を椅子に置くと、ドア越しに室内の様子を伺った。
微かだが、人の動く気配がした。
扉を開けて室内を確認する。既に消灯時間を過ぎているので中は薄暗い。男が寝ているベッドの周りにはカーテンが引かれているが、腕に取り付けてある点滴モニターの光で、内部のシルエットが影絵のようにカーテンに映し出される。
内田はそこに人影を見た。
ベッドサイドに、誰かが立っている――
「⁉」
一瞬ギョッとしたが、男の意識が戻ったのかと思い、確認のためカーテンを開こうとベッドに近づいた時、ただならぬ気配を感じて思わず足を止めた。
なにか……様子がおかしい。
カーテンに映る人影は、普通の人より細長く見えた。それが、風に揺れる柳のようにユラユラと揺れている。
内田は腰の警棒を握り、「おい……」と小さく声をかけた。
「誰だ?」
そこにいるのは意識不明の男だけだ。そいつでなければ、一体誰がいるというのだ?
「佐々木か?」
男の名を呼んで、カーテンに手をかける。
サ――ッ
と。
内田は勢いよくカーテンを開けた。
が。そこには誰もいない。
ベッドで眠っている男以外は、誰も。
宇佐美はパソコンを打つ手を止めて、そろそろ寝ようと立ち上がった。
洗面所で歯を磨き、顔を洗う。すると寝室から物音がして、宇佐美は水を止めた。
「……?」
タオルで顔を拭きながら、部屋を覗く。机の上に置いてあったスマホが起動していた。
何かの映像が流れている。近づいて見ると、先程消去したはずの動画が流れていた。
(え?)
消したつもりだったが――
宇佐美は動画を止めて、再度削除した。念の為、削除した動画が完全にデータから消えたことも確認する。
(これで大丈夫だろう……)
だが先程もそうやって削除したはずだが――
何となく腑に落ちず、宇佐美はタオルを掴んだまま室内を見回した。見慣れたはずの自分の部屋だが、気のせいか空気が重い。
「……」
なんだろう……嫌な感じだ。
自分の心拍数が上がるのが分かった。何となくだが、ここにいてはマズい気がする。
(落ち着け……何も考えるな……)
余計なことは考えず、今はひとまずここを出よう。
宇佐美はスマホと部屋の鍵を掴むと、そのまま外へ出ようと玄関に向かった。こんな時間に行く当てなどないが、今はとにかくここにいたくない。
靴を履こうと身をかがめた時、バン!という大きな音がして、室内の明かりが一斉に消えた。
「⁉」
宇佐美はハッと息を飲んだ。停電?いや違う!
玄関のドアを開けようとノブを掴んだが開かない。
「え?」
鍵は開いているのに、どうして⁉
焦って何度もガチャガチャと動かすがドアが開かない。
これも幻覚?
(違う――これは幻覚じゃない!)
大丈夫落ち着けと、必死に自分に言い聞かすが、恐怖が墨のように黒く心を覆っていく。
宇佐美はベランダへ向かった。ここは2階だ。飛び降りても死にはしないだろう。
暗い部屋の中を走り、ベランダに出る窓を掴む。
が――鍵を開けても窓が開かない。
「⁉」
嘘だろう?なんで!
「――!」
自分を外へ出さない気だ。でも誰が?なぜ?
宇佐美はじっと窓ガラスに映る自分の姿を見た。
その背後に――黒い人影が見える。
「――⁉」
背後を振り返るが誰もいない。
でも確実に誰かいる――
視線を感じた。強い視線。あの日図書館で感じた、あの気配だ。
(ここにいる!この部屋の中に)
姿は見えないが、自分のすぐ近くにいるのが分かる。
「誰だ?いるんだろう?そこに」
声をかけるが返事はない。でも、まとわりつくような視線は先程より強く感じた。
ふいに背後から肩を強く押されて、宇佐美はよろけた。
「っ!!」
振り返るが誰もいない。ポケットからスマホを取り出し、ライトをつける。それで周囲を照らした。
「誰だ?姿を見せろ!」
再び背後から背中を押され、宇佐美は「あっ!」と叫んでその場に倒れこむ。
何かが自分の上に覆いかぶさってくるような気がして、宇佐美は必死に手で振り払った。
「よせ!来るな!!」
掴んでいたスマホが床に転がる。暗闇から、見えない何かが自分に向かってくるのが分かった。
それを宇佐美は払いのけようと両手を振り上げる。
「やめろ!来るな!」
床に這いつくばりながら、壁に背をつけて虚空を見上げた。
窓から差し込む外からの僅かな明かりで部屋の中が見える。
誰もいない。姿は見えない。
なのに――
誰かがゆっくりと自分に近づいてくる気配だけは、ハッキリと感じ取ることができる。
「来るな……」
宇佐美は呟いた。言葉にならない恐怖が襲い掛かる。逃げたいのに体が動かない。
「来るな……来るな……」
嫌々をする子供のように首を振りながら、宇佐美は背中を向けると、きつく目を閉じてその場にうずくまった―――
――同時刻。
ナースステーションから漏れる明かり以外は、非常灯の光しか感じられない病棟の暗い廊下に、1人の警察官が椅子に腰かけて雑誌を読んでいた。
ICUの近くにある個室の病室には、ひと月ほど前から意識が戻らない容疑者の男が眠っている。2時間ごとに看護師が様子を見に来るが、先程来た時には相変わらず変化なしと告げただけで、そのまま業務に戻ってしまった。
(やれやれ…)
巡査2年目の内田は、いつまでこの夜間勤務が続くのか……と、もう何度も読み返している雑誌を、もう一度最初からめくり直してため息をついた。
次の交代の時に新しい雑誌を持ってこよう……そんなことを考えていると、ふと病室内で物音がした。
「?」
内田は立ち上がって雑誌を椅子に置くと、ドア越しに室内の様子を伺った。
微かだが、人の動く気配がした。
扉を開けて室内を確認する。既に消灯時間を過ぎているので中は薄暗い。男が寝ているベッドの周りにはカーテンが引かれているが、腕に取り付けてある点滴モニターの光で、内部のシルエットが影絵のようにカーテンに映し出される。
内田はそこに人影を見た。
ベッドサイドに、誰かが立っている――
「⁉」
一瞬ギョッとしたが、男の意識が戻ったのかと思い、確認のためカーテンを開こうとベッドに近づいた時、ただならぬ気配を感じて思わず足を止めた。
なにか……様子がおかしい。
カーテンに映る人影は、普通の人より細長く見えた。それが、風に揺れる柳のようにユラユラと揺れている。
内田は腰の警棒を握り、「おい……」と小さく声をかけた。
「誰だ?」
そこにいるのは意識不明の男だけだ。そいつでなければ、一体誰がいるというのだ?
「佐々木か?」
男の名を呼んで、カーテンに手をかける。
サ――ッ
と。
内田は勢いよくカーテンを開けた。
が。そこには誰もいない。
ベッドで眠っている男以外は、誰も。
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