T.M.C ~TwoManCell 【帰結】編

sorarion914

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第3章・遭遇

#8

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 午後11時過ぎ。
 宇佐美はパソコンを打つ手を止めて、そろそろ寝ようと立ち上がった。
 洗面所で歯を磨き、顔を洗う。すると寝室から物音がして、宇佐美は水を止めた。
「……?」
 タオルで顔を拭きながら、部屋を覗く。机の上に置いてあったスマホが起動していた。
 何かの映像が流れている。近づいて見ると、先程消去したはずの動画が流れていた。
 (え?)
 消したつもりだったが――
 宇佐美は動画を止めて、再度削除した。念の為、削除した動画が完全にデータから消えたことも確認する。
 (これで大丈夫だろう……)
 だが先程もそうやって削除したはずだが――
 何となく腑に落ちず、宇佐美はタオルを掴んだまま室内を見回した。見慣れたはずの自分の部屋だが、気のせいか空気が重い。
「……」
 なんだろう……嫌な感じだ。
 自分の心拍数が上がるのが分かった。何となくだが、ここにいてはマズい気がする。
 (落ち着け……何も考えるな……)
 余計なことは考えず、今はひとまずここを出よう。
 宇佐美はスマホと部屋の鍵を掴むと、そのまま外へ出ようと玄関に向かった。こんな時間に行く当てなどないが、今はとにかくここにいたくない。
 靴を履こうと身をかがめた時、バン!という大きな音がして、室内の明かりが一斉に消えた。
「⁉」
 宇佐美はハッと息を飲んだ。停電?いや違う!
 玄関のドアを開けようとノブを掴んだが開かない。
「え?」
 鍵は開いているのに、どうして⁉
 焦って何度もガチャガチャと動かすがドアが開かない。
 これも幻覚?
 (違う――これは幻覚じゃない!)
 大丈夫落ち着けと、必死に自分に言い聞かすが、恐怖が墨のように黒く心を覆っていく。
 宇佐美はベランダへ向かった。ここは2階だ。飛び降りても死にはしないだろう。
 暗い部屋の中を走り、ベランダに出る窓を掴む。
 が――鍵を開けても窓が開かない。
「⁉」
 嘘だろう?なんで!
「――!」
 自分を外へ出さない気だ。でも誰が?なぜ?
 宇佐美はじっと窓ガラスに映る自分の姿を見た。
 その背後に――黒い人影が見える。

「――⁉」
 背後を振り返るが誰もいない。

 でも確実にいる――

 視線を感じた。強い視線。あの日図書館で感じた、あの気配だ。
 (ここにいる!この部屋の中に)
 姿は見えないが、自分のすぐ近くにいるのが分かる。
「誰だ?いるんだろう?そこに」
 声をかけるが返事はない。でも、まとわりつくような視線は先程より強く感じた。
 ふいに背後から肩を強く押されて、宇佐美はよろけた。
「っ!!」
 振り返るが誰もいない。ポケットからスマホを取り出し、ライトをつける。それで周囲を照らした。
「誰だ?姿を見せろ!」
 再び背後から背中を押され、宇佐美は「あっ!」と叫んでその場に倒れこむ。
 何かが自分の上に覆いかぶさってくるような気がして、宇佐美は必死に手で振り払った。
「よせ!来るな!!」
 掴んでいたスマホが床に転がる。暗闇から、見えない何かが自分に向かってくるのが分かった。
 それを宇佐美は払いのけようと両手を振り上げる。
「やめろ!来るな!」
 床に這いつくばりながら、壁に背をつけて虚空を見上げた。
 窓から差し込む外からの僅かな明かりで部屋の中が見える。
 誰もいない。姿は見えない。
 なのに――
 がゆっくりと自分に近づいてくる気配だけは、ハッキリと感じ取ることができる。
「来るな……」
 宇佐美は呟いた。言葉にならない恐怖が襲い掛かる。逃げたいのに体が動かない。
「来るな……来るな……」
 嫌々をする子供のように首を振りながら、宇佐美は背中を向けると、きつく目を閉じてその場にうずくまった―――

 ――同時刻。
 ナースステーションから漏れる明かり以外は、非常灯の光しか感じられない病棟の暗い廊下に、1人の警察官が椅子に腰かけて雑誌を読んでいた。
 ICUの近くにある個室の病室には、ひと月ほど前から意識が戻らない容疑者の男が眠っている。2時間ごとに看護師が様子を見に来るが、先程来た時には相変わらず変化なしと告げただけで、そのまま業務に戻ってしまった。
 (やれやれ…)
 巡査2年目の内田は、いつまでこの夜間勤務が続くのか……と、もう何度も読み返している雑誌を、もう一度最初からめくり直してため息をついた。
 次の交代の時に新しい雑誌を持ってこよう……そんなことを考えていると、ふと病室内で物音がした。
「?」
 内田は立ち上がって雑誌を椅子に置くと、ドア越しに室内の様子を伺った。
 微かだが、人の動く気配がした。
 扉を開けて室内を確認する。既に消灯時間を過ぎているので中は薄暗い。男が寝ているベッドの周りにはカーテンが引かれているが、腕に取り付けてある点滴モニターの光で、内部のシルエットが影絵のようにカーテンに映し出される。
 内田はそこに人影を見た。
 ベッドサイドに、誰かが立っている――
「⁉」
 一瞬ギョッとしたが、男の意識が戻ったのかと思い、確認のためカーテンを開こうとベッドに近づいた時、ただならぬ気配を感じて思わず足を止めた。

 なにか……様子がおかしい。

 カーテンに映る人影は、普通の人より細長く見えた。それが、風に揺れる柳のようにユラユラと揺れている。
 内田は腰の警棒を握り、「おい……」と小さく声をかけた。
「誰だ?」
 そこにいるのは意識不明の男だけだ。そいつでなければ、一体誰がいるというのだ?
「佐々木か?」
 男の名を呼んで、カーテンに手をかける。

 サ――ッ

 と。
 内田は勢いよくカーテンを開けた。
 が。そこには誰もいない。

 ベッドで眠っている男以外は、誰も。
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