T.M.C ~TwoManCell 【帰結】編

sorarion914

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第5章・揺心

#2

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 午後8時。
 2人は、河川周辺で起きた変死事件を中心に探してみたが、これという手ごたえは感じられなかった。
「管内では気になる事案はもうなさそうだな」
「これ以上川を遡れば管轄外だ。そっちを当たった方がいいかも」
 野崎は地図を見た。
「相模川を源流まで遡ると山梨の方までいくのか……」
「県外だな」
 そこまで遡る必要があるのだろうか?
 じっと考えていた野崎は、思わずブルッと身震いした。
「なんか……寒くないか?」
「エアコンの設定温度、変えた?」
 白石がコントロールパネルを覗く。設定温度は25度のまま変わっていない。
「25だけど」
「そんな体感じゃないな……」
「外の気温が落ちたとか?」
 そう言って、白石が外気の確認をしようと窓に近づいた時、突然――資料室の電気が消えた。
「⁉」
 2人は思わず身構えた。
「停電?」
 真っ先に浮かんだのは、署内で何か起きたのか――ということだったが……
 仮に停電だとしても、すぐに予備電力で復旧するはず。
「なんでつかないんだろう?」
 白石は署内の異変を感じ取ろうと、じっと耳を澄ましている。
「ただの停電じゃないのかも……」
 野崎はそう呟いた。
 微かにだが、耳鳴りがする――
「なぁ……脅かすわけじゃないけど」
 そう前置きしてから野崎は言った。
「この部屋にいるの……俺たちだけだよな?」
 白石は目を剥いた。
「おい……よせよ。何言ってんの?」
「さっきから、視線を感じるんだ」
 野崎はそう言って、薄暗い資料室を見回した。窓の近くは外の明かりで多少見えるが、光が届かない部屋の奥は真っ暗だ。
 その暗がりに誰かが潜み、じっとこちらの様子を伺っているように感じた。
 これは気のせいだろうか?
「そういうのはやめろよ……俺たち以外いるわけないだろう」
「分かってるけど、感じるんだよ」

 ――――と。

「出よう」
 嫌な予感がして部屋を出ようと、野崎は白石の腕を掴み、ドアノブに手をかけた。
 が、開かない。
「え?」
 ガチャガチャとノブをまわす。
「なにやってんだよ」
 白石が変わってノブを回す。
「なんで開かないんだよ⁉」
「鍵は?」
「かかってねぇよ!」
 野崎は振り向いた。
 何かが、ゆっくりと自分たちに近づいてくる気配がした。
「なにか……来る――」
「え⁉」
 白石も振り返った。部屋の奥の暗がりで、何かがゆらっと揺らめくのが見えた。
 それが、周囲の空気を揺らしながら、徐々に2人の側へ近づいてくる。
「嘘だろ……」
 白石は信じられないものを見るような目で言った。
「野崎にも見える?あれ……」
「あぁ…見える……」
 互いに目を見張ったまま、動くことが出来なかった。
 もしかしてこれが……幽霊なのか?
「なぁ……これって、夢じゃないよな?」
「違うと思うけど……」
 被害者たちが見ていたものと同じものなら、俺たち今からこいつに殺されるのか?
「わぁ、ごめんなさい!もう君の事詮索したりしないから!」
 白石はそう言うと、両手で頭を抱えて蹲った。
 野崎は白石を庇うように間に入ると、その黒い影と対峙した。
 生身の人間相手なら何とかなるが、実体がなさそうな相手に何ができるだろう。
「なぁ……あいつに逮捕術って効くと思う?」
「知るか!」
 野崎は苦笑すると、静かに身構えた。
 ゆらゆらと、陽炎のように揺れながら。
 それは暗闇の中から野崎の方へと向かってくる。

 ――!!
 野崎は一瞬目を閉じた。


 ブーン、ブーン、ブーン……
 机に置かれていたスマホのバイブレーションが、室内に鳴り響いた。
「!!」
 野崎はハッとなった。
 ブーン、ブーン、ブーン……っと、それは振動するたびに机を叩き動いている。
 野崎は駆け寄ると、スマホを掴んで画面を見た。
 宇佐美からの着信だった。
「もしもし?」
『野崎さん?大丈夫ですか?』
 開口一番にそう聞いてきた宇佐美に、野崎は思わず笑った。
「なんでそう思うの?」
 宇佐美は、しばらく黙っていたが、『さっき、がここに来て……』と言った。
『すぐに気配が消えた……なんとなくだけど、野崎さんの方へ行ったような気がして――』
「そうか……」
 野崎はため息をつくと、「大丈夫だよ」と言った。
「お前の電話に驚いてどっか行ったみたいだ」
 そう言いながら周囲を見回す。先程までの気配は消えていた。電気もいつのまにか、ついている。
『なにもされなかった?』
「何もされてない」
 そして、背後で怯える白石を見て笑う。
「まぁ…約1名、変なトラウマ出来そうだけど」
 それを聞いて、電話の向こうで宇佐美が笑った。
『もしかして……白石さんも一緒でした?』
「あぁ」
 2人は笑い合った。
「ともかく助かったよ……ありがとう」
『……』
 宇佐美は一瞬ためらったが、恐る恐る聞いた。
『野崎さん――そいつの姿、見ました?』
「……」
 宇佐美の言わんとしていることは分かった。
 姿を見たかどうか。
「ハッキリとは見てない。黒い……陽炎みたいだった。影かな?」
『そう……』
 宇佐美が何か言い淀んでいるように感じた。
 その気持ちが何となく伝わり、野崎は先手を打った。
「宇佐美のせいじゃないから気にするな」
『野崎さん……』
「お前も言ったろ。俺たちも関わってる。今のでそれが証明されたよ」
『……』
「乗り掛かった舟だ。今更下船できない」

『行ける所まで行くしかないよ』
 電話の向こうのその言葉に、宇佐美は小さく頷いた。
『また連絡する』
 そう言って通話が切れた。
 宇佐美はしばらく、通話の切れた画面をじっと見つめていた。
 (あいつ……)
 何故わざわざここへ姿を現したんだろう。
 直接野崎の元へは行かず、まるでこれから襲ってやるぞ、と予告でもするみたいに。
 (挑発してるのか?)
 俺を?でもなぜ?
 宇佐美は、部屋の隅に置かれた小さな仏壇に目をやった。
 そこには、遺影代わりにスナップ写真が飾られている。
 寂しそうに微笑む1人の女性。その目がじっと宇佐美のことを見ている。
「……」
 心配そうに自分を見るその目に、宇佐美は「大丈夫だよ」と言って笑った。

「心配しないで――」


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