COLLAR(s) ~SIDE STORYs~

sorarion914

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Side.B・テツとエージのにゃんこ★すたぁ【R-18】

#2

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 行く当てもなく、テツは寒さに震えながら深夜の繁華街を歩いていた。
 視界の中に、一軒の小さなバーが飛び込んでくる。
 この手の店ならたくさんあるのに……何故かその時は、店先にともる看板の光が温かそうに感じて、テツは誘い込まれるように扉を開けた。
 店内は僅かな照明のみで薄暗かった。
「あぁ……すいません。もう閉めようかと――」
 カウンターの向こうから、よく響く男の声が聞こえてきた。
 この店のマスターだろうか?
 姿を見せたのは、30後半ぐらいの日焼けしたガタイのいい男だった。
 キリッとした顔立ちで鋭い目つきをしていたが、口元に優し気な微笑を浮かべている。
 閉店と言われて、テツは申し訳なさそうに頭を下げると、「ごめんなさい……」と呟いて出て行こうとした。
「あ、ちょっと待って!」
 男は呼び止めると、テツの肩を押して店内に招き入れた。
「いいよ。入って」
「でも」
「その代わり、出せるものは限られてるけど」
 そう言って笑う男に、テツは俯いて言った。
「でもあの……僕、お金持ってなくて――」
「――」
 男は何も言わず、テツの頭から爪先までをじっと眺めた。
 そして小さく笑うと、「ここ座って……」とカウンターの椅子を勧めた。
 テツは戸惑いながら、ちょこんと椅子に腰かけた。
 キレイに拭いたグラスを2つ、カウンターに置いて手際よく酒を作る。何も言わずに黙ったまま、俯くテツを見て男は聞いた。
「今、何月か知ってる?」
「え?」
 テツは顔を上げて首をかしげると、「2月?」と答えた。
「よかった。分かってて」
 男は楽しそうに笑うと、ウィスキーの水割りを一つ、テツの前に置いた。
「金はいいよ。これは俺のおごり」
「……」
 驚くテツの顔を見て、自分も作った水割りを飲む。
 そして、不思議そうな顔でテツを見ると言った。
「どうしたの?そのカッコ。病院でも抜け出してきた?」
 部屋着にスリッパ。しかもこの寒空の中、コートも着ないで無一文。
「―――」
 自分の姿にテツは情けなくなって、両手で顔を覆うと突然大声で泣き出した。
「わぁぁぁぁ―――ん!」
「あらら?ちょっと――」
 男が焦って、慌ててテツの側に寄ってくる。
「ゴメンゴメン、泣くとは思わなかったな」
 そう言って、優しくテツの肩を抱きよせる。その胸にしがみ付いて、テツは泣きじゃくった。

 初めて入った店なのに。
 初めて会ったひとなのに。

 テツは思った。




 この人の胸――あったかい……



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