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Side.B・テツとエージのにゃんこ★すたぁ【R-18】
#3
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「どうぞ」
そう言われて、テツは部屋の中に入った。
男はエアコンのスイッチを入れると、「部屋温まるまで、これ着てな」と、上着を一着投げてよこした。
テツはそれを羽織ると、室内を見回した。
賃貸マンションの一室。
さほど広くはないが部屋の中はよく整理されていて、余計な物があまり置いていない。
ありふれた、男の一人暮らしに見えるが……
「そんなカッコで追い出すなんて、ひどい男だな」
そう言われてテツは小さく笑った。
「僕が怒らせるようなことするから悪いの……」
「――」
「あ、でも普段のカズ君はすごく優しいよ」
慌てて取り繕うように言うテツを、男は黙って見つめた。
テツは寒そうに身を縮めているが、どこか怯えているようにも見えた。
「そういや、まだ名前聞いてなかった」
「あ……僕、哲弥っていいます。笹木哲弥」
「ふぅん――てっちゃんか」
てっちゃん、と呼ばれてテツは照れたようにはにかんだ。
「俺は梶川瑛士。でもエージでいいよ」
「エージ君……」
その呼び方に、エージは一瞬驚いたが、すぐに笑って言った。
「そ。エージ君」
温かいコーヒーを入れたカップを一つ、テツの方へ差し出す。テツはそれを両手で受け取ると、「あったかーい」と言って笑った。
2人は並んでソファに腰を下ろした。
「てっちゃん、歳はいくつ?」
「え?」
テツは一瞬ためらった。
「それ……聞く?」
「なんで?言えないような歳?」
まさか未成年じゃないよね?とエージが笑って聞く。
「――にじゅう……」
テツは渋りつつも、仕方なく言った。
「9」
「29?」
「ヤダもぉ~歳言うのやめて!」
テツはカップをテーブルに置くと、両手で耳を塞いだ。
「何言ってんだよ。全然若いじゃん」
「でももうじき30だよ?スゴイ嫌」
「別にいいじゃん、可愛いよ。全然アラサーに見えないぜ」
「童顔なだけだもん」
「……」
俯くテツの横顔を、エージはじっと見た。
ほっそりとした首筋。
痩せてはいるが小柄ではない。平均的な男の身長はありそうだった。
少し癖があるのか、柔らかそうに波打つ髪が中世的な顔立ちをより一層引き立てている。
29という年の割には、幼い感じだ。
それよりも気になったのは、右頬に殴られたような腫れがあることだった。
顎には消えかけの青痣もある……これは少し前に殴られた時のものだろう。
よく見ると、手の甲や首筋にも小さな傷や痣の跡があった。
今は見えないが、体にも恐らく暴力を受けた跡があるはずだ――
穏やかだったエージの目が、その瞬間フッと曇った。
そう言われて、テツは部屋の中に入った。
男はエアコンのスイッチを入れると、「部屋温まるまで、これ着てな」と、上着を一着投げてよこした。
テツはそれを羽織ると、室内を見回した。
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さほど広くはないが部屋の中はよく整理されていて、余計な物があまり置いていない。
ありふれた、男の一人暮らしに見えるが……
「そんなカッコで追い出すなんて、ひどい男だな」
そう言われてテツは小さく笑った。
「僕が怒らせるようなことするから悪いの……」
「――」
「あ、でも普段のカズ君はすごく優しいよ」
慌てて取り繕うように言うテツを、男は黙って見つめた。
テツは寒そうに身を縮めているが、どこか怯えているようにも見えた。
「そういや、まだ名前聞いてなかった」
「あ……僕、哲弥っていいます。笹木哲弥」
「ふぅん――てっちゃんか」
てっちゃん、と呼ばれてテツは照れたようにはにかんだ。
「俺は梶川瑛士。でもエージでいいよ」
「エージ君……」
その呼び方に、エージは一瞬驚いたが、すぐに笑って言った。
「そ。エージ君」
温かいコーヒーを入れたカップを一つ、テツの方へ差し出す。テツはそれを両手で受け取ると、「あったかーい」と言って笑った。
2人は並んでソファに腰を下ろした。
「てっちゃん、歳はいくつ?」
「え?」
テツは一瞬ためらった。
「それ……聞く?」
「なんで?言えないような歳?」
まさか未成年じゃないよね?とエージが笑って聞く。
「――にじゅう……」
テツは渋りつつも、仕方なく言った。
「9」
「29?」
「ヤダもぉ~歳言うのやめて!」
テツはカップをテーブルに置くと、両手で耳を塞いだ。
「何言ってんだよ。全然若いじゃん」
「でももうじき30だよ?スゴイ嫌」
「別にいいじゃん、可愛いよ。全然アラサーに見えないぜ」
「童顔なだけだもん」
「……」
俯くテツの横顔を、エージはじっと見た。
ほっそりとした首筋。
痩せてはいるが小柄ではない。平均的な男の身長はありそうだった。
少し癖があるのか、柔らかそうに波打つ髪が中世的な顔立ちをより一層引き立てている。
29という年の割には、幼い感じだ。
それよりも気になったのは、右頬に殴られたような腫れがあることだった。
顎には消えかけの青痣もある……これは少し前に殴られた時のものだろう。
よく見ると、手の甲や首筋にも小さな傷や痣の跡があった。
今は見えないが、体にも恐らく暴力を受けた跡があるはずだ――
穏やかだったエージの目が、その瞬間フッと曇った。
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