幻想使いの成り上がり

ないと

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9 雑用①

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 一時はどうなるかと思った、騎士団女子風呂侵入事件。
 その結末は紆余曲折ありながらも、雑用二週間に落ち着いた。

 ふう、と安堵と倦怠を含めた息をつく。
 全く、二週間も拘束されることになってしまった。

 これでは当分、家に戻ることはできないだろう。
 まあ、俺が家にいなくともあの家族は問題なく回るだろうが。

 ともかく、雑用処分といえばこの辺りじゃ軽犯罪に対しては珍しくない処分だ。
 俺が犯した罪に比べれば……まあ随分と軽くしてくれたものだと思う。

 ——しかし。
 俺は鍋がぐつぐつと煮えるのを眺める。
 後ろから二人の視線に見つめられたながら。

「……そろそろ目を向けるの、やめてもらえないか?」

 そんな言葉など聞こえていないかのように、老爺——ルネと、付き人のクロムはじっと俺に目を向ける。
 本当に、料理ができるというのが物珍しいらしい。

「——雑用って言っても、何をやればいいんだ?」

 罰を命じられた俺は、まず爺さんにそう尋ねた。
 
「部屋の掃除を始め、図書室の整理、あとは細々した指示に従ってもらう」

「なんだ、それだけでいいのか?」

 騎士団の雑用と言っても、名折れのようだ。
 真の雑用とは何かを知っている俺はそう思った。

「それだけ、か? これでも結構大変だと思うのじゃが……」
 
 だから、不思議そうに首を傾げている老爺を前に、俺は妙案を思いついた。

「じゃあ、加えて飯を作ってやるよ。ただし、条件つきだ」

 こうして、俺は鍋の前に立つこととなった。
 
 才能を見つけられなかった俺を前に、父さんは使用人がやるようなあらゆることを押し付けた。
 何年厨房に立っていると思っているんだ。もう他人の助けがなくても、一級の品を作り上げることが俺にはできる。

 根菜を刻み、肉を熱の籠ったスープの中で煮やす。
 火加減、熱の通りかた、山菜の萎れがここで最も重要なポイントだ。
 
 脇ではこねた小麦を炉の中へ。
 しばらくすればパンが完成する。
 
 フルーツは等分に切り込んだら皿へ、その隣には野菜を添える。

 やがて時間を見計らって、すべての工程は終了する。

「——完成だ」

「おおっ!!」

 食卓にいろとりどりの料理が並ぶ。
 それを目に、二人は目を輝かせた。

「それじゃあ、条件は飲んでもらうってことで——」

「うまい! これは、うまいぞ!」

「隊長、このパンも絶品です! 都心の店が出しているものと比べても遜色がない……!」

 この二人は話を聞いているのだろうか。
 すっかり品に夢中で、話が通じなそうだ。じとっとした目で見守ることしかできない。

 ともかく、出した条件は明確。
 俺に対する説明義務を免除してもらうことと、俺の存在を秘匿してもらうということだ。

 この状況、実に面倒臭い。
 俺は騎士団に何も悪意はないのに、なし崩し的に忍び込む形となってしまった。これをいくら説明したところで、納得はしてもらえないだろう。

 そこを無理やり納得してもらうための条件だ。
 実際、騎士団に今のところ実害が出ているわけではない……という訳でもないでもないが、と風呂での一件は目を瞑ることとする。

 それにプラスして、俺の存在は隠してもらう。
 もしどこかからか俺が騎士団に侵入したということが漏れたとして、それが兄に伝わったら——

 身の毛もよ立つような未来が待っているということは言うまでもない。

 そう言うわけで、なんとしてでもこの条件は飲んでもらうのかなかった。

「どうした、レンジ。お前も食え!」

「あ、ああ」

 やけに馴れ馴れしく声をかけてくる。
 相当機嫌がいいらしい。

「騎士団の飯は、いつもこんなんじゃないのか?」

「ああ、こんなだぞ。他の隊はな」

「……ここは?」

「基本的に飯は支給されない。だからいつも携帯食料じゃな」

 そんなに他の隊との扱いの差があるのか。

 通りで、うまそうに食うものだ。
 彼らからすれば、久しぶりにまともな食料にありつけたのだろう。
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