二周目貴族の奮闘記 ~シナリオスタート前にハーレム展開になっているんだけどなぜだろう?~

日々熟々

文字の大きさ
4 / 117
第一章 ゲームの世界

4話 2週目

しおりを挟む
 このまま続編に進むとすれば、ユーキくんは自分の握る『魂喰らい』から得体のしれない不穏なものを感じ取り、魔王討伐の祝勝会後、一人ひっそりと姿を消すはずだ。

 ちなみに、ユーキくんの装備する魔剣『魂喰らい』と魔鎧『肉喰らい』はいわゆる呪いの装備扱いなので外すことが出来ない。

 普段着や水浴び等の際のために存在を目に見えず触れられないレベルまで希薄にすることは出来るけど、決して外すことは出来ない。

 考えようによっては瞬時に完全装備状態になることが出来るとも言えるけど、外せないせいでユーキくんの精神は徐々に削られていき……やがて力尽きることになる。

 この事を知っているのは本人以外にはおそらく僕一人。
 
 なにか僕に出来ることはないだろうか?

 そんなことを考えていたとき、突然視界が暗転した。



 そして、再び意識を取り戻したとき、僕の前には懐かしく、忘れることは出来ない老人が血まみれで横たわっていた。

 魔王軍の侵攻に飲み込まれる領地から、命からがら僕を連れて落ち延びてくれた忠実な老執事。

 僕の剣と魔法の師であり、実の親よりも親のように慕っていた老騎士。

 それが、今僕の腕の中で死にゆく血まみれの老人、フランツだった。

「坊ちゃま……もうここまでくれば安心でございます……」

「フランツ……大丈夫だ、今治すから」

 傷だらけのフランツにありったけの治癒魔法を励起するけど、すべてすり抜けるように霧散してしまう。

 もはや治癒魔法を受け入れるだけの生命力すら残っていない……。

「坊ちゃま……この先に当家の屋敷があるはずでございます。
 ひとまずはそこでお休みなさいませ」

 実際、もうフランツの目には僕がなにをしているのかすら映っていないようだ。

 虚ろな目のまま紡ぎ出される言葉は、ほとんどうわ言と言っていいほど力がない。

「そして、願わくば復讐などお考えにならずに穏やかにお過ごしくださいませ」

「そんなこと……出来るはずないじゃないか……」

 忘れていた……いや、心の奥底に押し込めていたはずの怒りや憎しみが吹き出してくるのが分かる。

 跡取りである兄の予備としてではあったが間違いなく大事に育ててくれた両親。

 そんな両親を困ったように見ながら両親の分もとでもいうかのように愛してくれた兄。

 甘やかされ気味な僕に手を焼きながらも暖かく見守ってくれていた使用人たち。

 善政を敷いていた一族に忠実に仕えてくれていた領民たち。

 そして、僕にとって本当の親だと思っていたフランツ。

 彼等を奪った魔王軍を許すことなど出来ない。

 今すぐにでも我が家に伝わる宝剣を手に魔王軍を……。

 そんな思いもフランツの口から出たかすれた声で霧散してしまう。

「私は坊ちゃまの笑顔が大好きでございました。
 どうか、どうか、復讐など忘れて穏やかに過ごしてくださいませ」

 うわ言にしか聞こえないかすれた声。

「そうですな、孤児院など営んではいかがでしょう?
 どうか、復讐になどとらわれずに穏やかに過ごしてくださいませ」

 もう目も見えず耳も聞こえていないだろうに哀願するように……いや、祈るように繰り返される言葉。

「どうか……穏やかに……」

 死の間際まで繰り返された祈りを無視することは出来なかった。



 さて、とりあえず落ち着こう。

 意識を取り戻していきなり人生最大のトラウマな場面だったので、頭が全く働いていなかった。

 とりあえず大きく深呼吸して意識を切り替える。

 未だにはっきりと脳裏に浮かび続けている『家族』の記憶もそうだけど、記憶というものは身体に引きずられるものみたいだ。

 腕の中で冷たくなっていくフランツに復讐心が呼び起こされそうになるけど、フランツの祈りと『今後』のこともあるので感情に身を任せる訳にはいかない。

 落ち着こう。

 とりあえず深呼吸だ。

 深呼吸をすると、血の……フランツの血の匂いを感じて色々考え出してしまうのでやっぱりやめよう。

 まずは状況整理だ。

 ひとまず、今の状況から考える限り、ここは『ゲームクリア』から10年以上前、僕が領地から落ち延びた直後のようだ。

 ここにいるのは僕とフランツ、そして、僕たちがなんとか連れて逃げることの出来た領民の子供たち。

 後の勇者ユーキくんとその妹のノゾミちゃんは名前の通り東方の血を引く子達で二人共黒髪黒目の整った顔立ちをしている。

 もう一人の子供、アリスちゃんはきれいな金髪と緑色の目をしたこちらも整った顔をした女の子だ。

 ……『知識』が湧いてくるまでは特になにも思わなかったけど、今となると思う。

 さすが『ゲーム』の世界、主要キャラは美少年美少女だらけだ。

 かく言う僕自身、自分で言うのもなんだけど気弱そうではあるけどそれなりに整った容姿をしている。

 話がズレたけど、僕たち一行は亡骸となってしまったフランツを入れてもこの5人だけ。

 その他の僕の家族を含めて数千人いた領民たちは、結局ほとんど助からなかったはずだ。

 少なくともその後の人生で僕は誰ひとりとして元領民に出会うことはなかった。

 どこかで生き延びていてくれることを祈ることしか出来ない。

 一度、僕を守るために負った無数の傷で血まみれのフランツを強く抱きしめてから立ち上がる。

「それじゃ、行こうか。
 もう少し歩けば食べ物もあるしベッドで休めるよ」

 口に出してからここ数日まともに食事をしていなくて空腹だったことを思い出した。

「さ、こっちだよ」

 子どもたちに笑いかけて屋敷に……後の孤児院に向けて歩き出そうとして、少しだけ迷ってからフランツの亡骸を抱え上げた。

 『前』は屋敷がどこにあるのか分からなくてどれだけ歩くのか見当がつかなかったから置いていくしかなかったけど、今回は歩いて1時間もかからないところに屋敷と村があるのは分かっている。

 子供たちの手を引いてあげられなくなってしまうけど、『前』は迎えに戻るまでに野犬のせいで酷い有様になっていたので許してほしい。

 手を引いてあげられないかわりに、極力明るい顔で楽しい話をしながら子供たちと村に向かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

第2の人生は、『男』が希少種の世界で

赤金武蔵
ファンタジー
 日本の高校生、久我一颯(くがいぶき)は、気が付くと見知らぬ土地で、女山賊たちから貞操を奪われる危機に直面していた。  あと一歩で襲われかけた、その時。白銀の鎧を纏った女騎士・ミューレンに救われる。  ミューレンの話から、この世界は地球ではなく、別の世界だということを知る。  しかも──『男』という存在が、超希少な世界だった。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

処理中です...