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第二章 始めてのクエスト
3話 指輪
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レオンから聞いている?『前』はたしかなかった言葉だ。
昨日のことがレオンから耳に入っているということか?
どういう話だ?流れは良い方悪い方どっちに変わる?
頭を下げたままの僕の顔に冷や汗が落ちるのが分かる。
無いとは思う。
思うけど、もしすでに奥さんに決定的に嫌われているとしたら……この村で暮らすことは実質不可能なほどに難しくなる。
「ま、とりあえず分かったわよ。
んじゃ、あなたにはちょっと二人っきりで話があるから、子供たちは先に帰っていいわよ」
……これも『前』はなかった流れだ。
『前』は挨拶の後しばらく奥さんの自慢や愚痴を聞かされていた。
とは言え、ここで僕だけが残されるのは予定通りだ。
子供たちにも事前にこうなった場合は素直に帰るように言い含めてある。
「ということだから、お言葉に甘えてみんなは先に帰っててね」
「は、はい……」
「あ、あの……せ、先生……お気をつけて……」
奥さんの舐め回すような酔った目でなにか悟ってしまったのか、ユーキくんとシャルさんが不安そうな顔をしている。
「うん、心配はいらないから、家でゆっくり遊んでてね」
僕が不安な顔を見せる訳にはいかない。
湧き上がってくる不安と嫌悪を押し殺して、笑顔でみんなを見送った。
「ラインハルトだっけ?あんた」
みんなが家から出ていき、ドアがしまったところで奥さんが声をかけてくる。
…………奥さんの声の前に奥の方でもドアが閉まるような音がした気がするけど、なんだろう?
「はい、そうです。
どうぞ、ハルトとお呼びください、奥様」
まあ、気にしても仕方ないのて奥さんとの話に集中しよう。
「んじゃ、ハルト、そんなところに突っ立ってないでこっちに来なさい」
奥さんはそう言うと長椅子に座ったまま無遠慮に手招きをする。
王都どころか貴族の本領なら無礼討ちにされてもおかしくない態度だけど、やっぱり別に奥さんに悪意やその他の含むものがあるわけじゃない。
単に彼女の世界において自分よりも上のものが存在しないだけなのだ。
どうやったらこんな人間が出来上がるのか不思議だけど、ミハイルさんの話からすると先代……奥さんの父親が生きていた頃はもうちょっとまともだったんだろうか?
「……いえ……奥様相手にそんな失礼なことは出来ません」
「…………良いから、あたしが来いって言ったら来なさいよ」
一応、最後の抵抗として常識を振りかざしてみるけどやっぱりダメだった。
それどころか逆らわれたと思った奥さんの機嫌が一気に悪くなる。
仕方ないから大人しく長椅子の奥さんから少し離れたところに座る。
「……ふん、そうやって素直にしてればいいのよ」
そうするとさっきまでの不機嫌さが嘘のように、機嫌良さそうに笑い出す。
一瞬で沸騰する分、逆に一瞬で機嫌も良くなる。
むしろ、ただ言うことを聞いてさえいれば常に機嫌がいい上に、機嫌を悪くしてしまってもすぐに挽回できるのでので扱いやすいとすら言える。
「ねえ、あんたが貴族って本当なの?」
離れて座った僕ににじり寄ってくる奥さんの口調は年齢不相応に幼い。
確か30くらいだったはずだけど、可愛らしい系統の整った顔をしていることと、なによりその無邪気な表情と口調のせいで20代どころか10代と言われても不思議に思わない。
「はい。信じていただけないかもしれませんが、ヴァイシュゲール伯爵家の次男です」
にじり寄られて思わず逃げそうになるけど、子供たちの顔を思い浮かべて耐える。
ここで嫌がる素振りをしたらまた一瞬で機嫌が悪くなることは分かっているので、なんとか笑顔を取り繕う。
「へえっ!?確か伯爵って偉いんだよね?」
「あー……まあ、そうですね」
実際は伯爵家と言ってもピンキリだけど、ヴァイシュゲール領は豊領として名高かったし、宮廷位階も高かったので上澄みの方だったと言える。
まあ、もう国自体が滅んでいるし、ほとんどなんの意味もない話なんだけどね。
奥さんにとっては、僕が貴人であることが重要なのだ。
「偉い貴族って言ったらあれでしょ?代々の家宝とかあるんでしょ?見せて」
「そうですね……色々とありますが、例えばこれです」
そう言って、つけてきていた指輪を外すと手の上に乗せて見せる。
「これは四代前の当主が、当時の国王陛下より下賜されたもので我が家の家宝の一つです」
「へー……」
奥さんは僕の手の上の指輪をキラキラした目で見ると、手を差し出してくる。
「それよこしなさいよ」
「い、いえ……家宝の品なのでそういうわけには……」
僕が断ると一気に奥さんの機嫌が悪くなるのが分かった。
「……あたしがよこせって言ってるんだけど……?」
「………………仕方ありません。
奥様のお望みとあらば」
少し悩むような時間を開けたあと、渋々という感じで奥さんの手のひらの上に指輪を置く。
実際のところ、さっきの逸話は本当だけど別にそれほど価値も思い入れもある指輪じゃないので惜しくはない。
こうなることは分かっていたので、適当にいらないけど見栄えは良いものを持ってきたのだ。
『前』は兄上からもらった指輪を取られて本当に悲しかった……。
奥さんは指輪を受け取ると、さっそく中指にはめて嬉しそうな笑顔で何度も何度も手を返しながら見ている。
奥さんの細い指にはちょっとブカブカなその指輪が光にきらめく様子を飽きること無く見続けるその無邪気な様子に、トラウマの原因だと言うのにちょっとだけほっこりとしてしまった。
「ねえ、レオンから聞いたけどあんた、あの孤児たちのでっかい方とヤッてるってホント?」
「……は?」
だから、無邪気な様子のままそんなことを聞かれて思考が止まった。
「昨日レオンが取り巻き達となんかそんな話ししてたわよ?
ねえ、ホント?」
「い、いえ、それは誤解で……」
これがどんな意味を持っているのか分からないけど、とりあえず『前』はなかった流れでどう転ぶのか予想できない。
突然の話に全然頭が回ってないけど、とりあえず前の流れに戻したほうがいいだろうと、誤解を解こうとしてみる。
必死で状況を説明する僕を、なにを考えているのかわからないつまらなさそうな顔で奥さんは見てる。
「そもそも、僕はそういうことをまだしたことがありませんし……」
いったい自分がなにを話しているのか分からなくなってきた頃、今までなんの反応もなかった奥さんが初めて反応した。
「えっ!?あんたその年でしたこと無いのっ!?」
「え?あ、はい、もちろんしたことないです」
いやまあ、僕くらいの年でそういう事したことある人も、結婚してる人も知ってるけど、一般的な話ではないと思うけど?
驚かれて返って僕が驚いた。
「レオンはあんたの頃にはそこらの子孕ませてたわよ?」
あんたら一家と一緒にすんな。
思わず出かけた言葉を無理やり押し留め飲み込む。
しかし、とんでもねーな、レオン。
…………いや、まあ、考えようによっては権力者にとっては早婚早産は悪いことではないのか?
「あの……ちなみに、その母子は……」
確か『前』はそんな人いなかったと思ったけど……疫病で亡くなったんだろうか?
「え?ああ、妊娠がわかってすぐの頃に村に来た吟遊詩人と一緒にいなくなっちゃったわよ。
……ちょっと孫の顔楽しみにしてたんだけどねぇ」
……消されてない?大丈夫?その母子。
「それより、本当にしたこと無いの?」
「はい、嘘偽り無く」
僕の返事を聞いた奥さんは少しだけ考える素振りを見せたあと、なにも考えてない笑顔で口を開いた。
「ま、いっか。
とりあえず、あたしの部屋に来なさい。
したことなくても意味は分かるわよね?」
「…………あ、あの……流石にそういうのは……まずいのでは……。
村長さんにも悪いですし……」
自分の口から出た言葉が耳に入ってから、なにを言ったのか理解した。
まずい、覚悟はしていたはずなのに思わず逆らってしまった。
前はこんなやり取りもなく無理やりレイプされていたので、もしかしたら断れるかもという考えが頭に浮かんだ瞬間、口から出してしまっていた。
ここで機嫌を損ねるのはまずい。
「…………いいから大人しく来なさい。
村の一員になりたいのよね?」
そうおもって体を固くしていたけど、奥さんの口調は不機嫌そうではあっても思ったより軽かった。
とは言え、言外にここで断ったら村八分にすると言っているし逃がすつもりはないようだ。
……大丈夫、きちんと覚悟は済ませてあるじゃないか。
もう何度もしたことだ。
大丈夫。
「……………………はい、分かりました……」
それでも頷くまでにはかなりの時間が必要だった。
昨日のことがレオンから耳に入っているということか?
どういう話だ?流れは良い方悪い方どっちに変わる?
頭を下げたままの僕の顔に冷や汗が落ちるのが分かる。
無いとは思う。
思うけど、もしすでに奥さんに決定的に嫌われているとしたら……この村で暮らすことは実質不可能なほどに難しくなる。
「ま、とりあえず分かったわよ。
んじゃ、あなたにはちょっと二人っきりで話があるから、子供たちは先に帰っていいわよ」
……これも『前』はなかった流れだ。
『前』は挨拶の後しばらく奥さんの自慢や愚痴を聞かされていた。
とは言え、ここで僕だけが残されるのは予定通りだ。
子供たちにも事前にこうなった場合は素直に帰るように言い含めてある。
「ということだから、お言葉に甘えてみんなは先に帰っててね」
「は、はい……」
「あ、あの……せ、先生……お気をつけて……」
奥さんの舐め回すような酔った目でなにか悟ってしまったのか、ユーキくんとシャルさんが不安そうな顔をしている。
「うん、心配はいらないから、家でゆっくり遊んでてね」
僕が不安な顔を見せる訳にはいかない。
湧き上がってくる不安と嫌悪を押し殺して、笑顔でみんなを見送った。
「ラインハルトだっけ?あんた」
みんなが家から出ていき、ドアがしまったところで奥さんが声をかけてくる。
…………奥さんの声の前に奥の方でもドアが閉まるような音がした気がするけど、なんだろう?
「はい、そうです。
どうぞ、ハルトとお呼びください、奥様」
まあ、気にしても仕方ないのて奥さんとの話に集中しよう。
「んじゃ、ハルト、そんなところに突っ立ってないでこっちに来なさい」
奥さんはそう言うと長椅子に座ったまま無遠慮に手招きをする。
王都どころか貴族の本領なら無礼討ちにされてもおかしくない態度だけど、やっぱり別に奥さんに悪意やその他の含むものがあるわけじゃない。
単に彼女の世界において自分よりも上のものが存在しないだけなのだ。
どうやったらこんな人間が出来上がるのか不思議だけど、ミハイルさんの話からすると先代……奥さんの父親が生きていた頃はもうちょっとまともだったんだろうか?
「……いえ……奥様相手にそんな失礼なことは出来ません」
「…………良いから、あたしが来いって言ったら来なさいよ」
一応、最後の抵抗として常識を振りかざしてみるけどやっぱりダメだった。
それどころか逆らわれたと思った奥さんの機嫌が一気に悪くなる。
仕方ないから大人しく長椅子の奥さんから少し離れたところに座る。
「……ふん、そうやって素直にしてればいいのよ」
そうするとさっきまでの不機嫌さが嘘のように、機嫌良さそうに笑い出す。
一瞬で沸騰する分、逆に一瞬で機嫌も良くなる。
むしろ、ただ言うことを聞いてさえいれば常に機嫌がいい上に、機嫌を悪くしてしまってもすぐに挽回できるのでので扱いやすいとすら言える。
「ねえ、あんたが貴族って本当なの?」
離れて座った僕ににじり寄ってくる奥さんの口調は年齢不相応に幼い。
確か30くらいだったはずだけど、可愛らしい系統の整った顔をしていることと、なによりその無邪気な表情と口調のせいで20代どころか10代と言われても不思議に思わない。
「はい。信じていただけないかもしれませんが、ヴァイシュゲール伯爵家の次男です」
にじり寄られて思わず逃げそうになるけど、子供たちの顔を思い浮かべて耐える。
ここで嫌がる素振りをしたらまた一瞬で機嫌が悪くなることは分かっているので、なんとか笑顔を取り繕う。
「へえっ!?確か伯爵って偉いんだよね?」
「あー……まあ、そうですね」
実際は伯爵家と言ってもピンキリだけど、ヴァイシュゲール領は豊領として名高かったし、宮廷位階も高かったので上澄みの方だったと言える。
まあ、もう国自体が滅んでいるし、ほとんどなんの意味もない話なんだけどね。
奥さんにとっては、僕が貴人であることが重要なのだ。
「偉い貴族って言ったらあれでしょ?代々の家宝とかあるんでしょ?見せて」
「そうですね……色々とありますが、例えばこれです」
そう言って、つけてきていた指輪を外すと手の上に乗せて見せる。
「これは四代前の当主が、当時の国王陛下より下賜されたもので我が家の家宝の一つです」
「へー……」
奥さんは僕の手の上の指輪をキラキラした目で見ると、手を差し出してくる。
「それよこしなさいよ」
「い、いえ……家宝の品なのでそういうわけには……」
僕が断ると一気に奥さんの機嫌が悪くなるのが分かった。
「……あたしがよこせって言ってるんだけど……?」
「………………仕方ありません。
奥様のお望みとあらば」
少し悩むような時間を開けたあと、渋々という感じで奥さんの手のひらの上に指輪を置く。
実際のところ、さっきの逸話は本当だけど別にそれほど価値も思い入れもある指輪じゃないので惜しくはない。
こうなることは分かっていたので、適当にいらないけど見栄えは良いものを持ってきたのだ。
『前』は兄上からもらった指輪を取られて本当に悲しかった……。
奥さんは指輪を受け取ると、さっそく中指にはめて嬉しそうな笑顔で何度も何度も手を返しながら見ている。
奥さんの細い指にはちょっとブカブカなその指輪が光にきらめく様子を飽きること無く見続けるその無邪気な様子に、トラウマの原因だと言うのにちょっとだけほっこりとしてしまった。
「ねえ、レオンから聞いたけどあんた、あの孤児たちのでっかい方とヤッてるってホント?」
「……は?」
だから、無邪気な様子のままそんなことを聞かれて思考が止まった。
「昨日レオンが取り巻き達となんかそんな話ししてたわよ?
ねえ、ホント?」
「い、いえ、それは誤解で……」
これがどんな意味を持っているのか分からないけど、とりあえず『前』はなかった流れでどう転ぶのか予想できない。
突然の話に全然頭が回ってないけど、とりあえず前の流れに戻したほうがいいだろうと、誤解を解こうとしてみる。
必死で状況を説明する僕を、なにを考えているのかわからないつまらなさそうな顔で奥さんは見てる。
「そもそも、僕はそういうことをまだしたことがありませんし……」
いったい自分がなにを話しているのか分からなくなってきた頃、今までなんの反応もなかった奥さんが初めて反応した。
「えっ!?あんたその年でしたこと無いのっ!?」
「え?あ、はい、もちろんしたことないです」
いやまあ、僕くらいの年でそういう事したことある人も、結婚してる人も知ってるけど、一般的な話ではないと思うけど?
驚かれて返って僕が驚いた。
「レオンはあんたの頃にはそこらの子孕ませてたわよ?」
あんたら一家と一緒にすんな。
思わず出かけた言葉を無理やり押し留め飲み込む。
しかし、とんでもねーな、レオン。
…………いや、まあ、考えようによっては権力者にとっては早婚早産は悪いことではないのか?
「あの……ちなみに、その母子は……」
確か『前』はそんな人いなかったと思ったけど……疫病で亡くなったんだろうか?
「え?ああ、妊娠がわかってすぐの頃に村に来た吟遊詩人と一緒にいなくなっちゃったわよ。
……ちょっと孫の顔楽しみにしてたんだけどねぇ」
……消されてない?大丈夫?その母子。
「それより、本当にしたこと無いの?」
「はい、嘘偽り無く」
僕の返事を聞いた奥さんは少しだけ考える素振りを見せたあと、なにも考えてない笑顔で口を開いた。
「ま、いっか。
とりあえず、あたしの部屋に来なさい。
したことなくても意味は分かるわよね?」
「…………あ、あの……流石にそういうのは……まずいのでは……。
村長さんにも悪いですし……」
自分の口から出た言葉が耳に入ってから、なにを言ったのか理解した。
まずい、覚悟はしていたはずなのに思わず逆らってしまった。
前はこんなやり取りもなく無理やりレイプされていたので、もしかしたら断れるかもという考えが頭に浮かんだ瞬間、口から出してしまっていた。
ここで機嫌を損ねるのはまずい。
「…………いいから大人しく来なさい。
村の一員になりたいのよね?」
そうおもって体を固くしていたけど、奥さんの口調は不機嫌そうではあっても思ったより軽かった。
とは言え、言外にここで断ったら村八分にすると言っているし逃がすつもりはないようだ。
……大丈夫、きちんと覚悟は済ませてあるじゃないか。
もう何度もしたことだ。
大丈夫。
「……………………はい、分かりました……」
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