二周目貴族の奮闘記 ~シナリオスタート前にハーレム展開になっているんだけどなぜだろう?~

日々熟々

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第三章

35話 さらに変な精霊

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 ユーキくんと同じように、銀の触媒を持ったアリスちゃんを後ろから抱えて《精霊召喚》の魔法を教える。

「どう?大丈夫そう?」

「はい……たぶん大丈夫です。
 あ、あの、私にもおまじないを……」

 おまじない?……ああ。

 アリスちゃんの頭に「いい精霊が来ますように」と祈りを込めてキスをする。

「ありがとうございますっ!」

「うん、なにが来てもなんとかなるから気楽にね」

「はいっ!」

 僕が離れると、アリスちゃんは目を閉じて魔法の構築に集中する。

 アリスちゃんの魔法適性は、

 【魔法適性 火:- 水:- 土:- 風:- 聖:B 邪:-】

 となっていて、なんの精霊が来るか予想しやすい。

 『前』のときも光の下位精霊のおばあちゃんだったし、今回も光の精霊が来ると思う。

 あと『使用者の魔力により来る精霊の強さが決まる』というのもあるんだけど……これはユーキくんに破られたからなぁ。

 ま、まあ、アレは『主人公』のための例外だと信じたい。

「……我が魔力を糧に、精霊よ、集えっ!《精霊召喚》っ!」

 魔法を励起させたアリスちゃんの前に光が集まってきて……。

 僕くらいの年の女の子の姿にまとまった。

 ユーキくんに続いて若い精霊だけど、子供の魔力には若い精霊が集まってくるんだろうか?

 『前』精霊と契約をしたのはある程度冒険を進めた後、みんながすでに成人したあとのことだから分からない。

 アリスちゃんの呼び出した光の精霊はポチちゃんほどじゃないけれどしっかりとした存在感を持っている。

 そしてその背中には光り輝く二枚一対の翼が広がっていた。

 またいきなり中位精霊か……。

 ユーキくんと同じく、二人の魔力ではまともに使役できない精霊が現れた。

 精霊の年が若い分、好奇心が強くて本来契約しないような相手にも寄ってくるとかそういうのなんだろうか?

 《精霊送還》を励起寸前で留めたまま様子を見守るけど、見た目的にはニコニコとしていかにも穏やかで友好的そうな精霊だ。

「アリスちゃん、このあとはさっき話した通り精霊と『話し』をして契約してくれるようにお願いするんだけど……。
 もしかして、意思疎通できたりする?」

 もしかしたらユーキくんみたいにアリスちゃんも精霊とはっきりと意思疎通できるのかもと思ったんだけど。

「……うーん」

 でも、首をひねりながら光の精霊を見ているアリスちゃんの様子からすると、そんなことはなさそうだ。

「なんとなく言っていることは分かるんですけど、はっきりとは……」

 なんとなくだけでも分かるだけでもすごいな。

 普通、契約前の精霊とは意思疎通は不可能で実際のやり取りでなにを欲しがっているか見つけるしか無い……と言われている。

 そのせいで過剰な条件を出してしまったり、逆に過小な条件を提示して怒らせてしまったりとなかなか難しい。

 だからなんとなくでも精霊の言っていることが分かるならだいぶやりやすくなる。

 経験則のもとになっているのはほとんど下位精霊だから上位の精霊のほうが意思疎通はしやすくなるんだろうか?

「えっと、精霊はなんて言ってる?」

 アリスちゃんのそばに行ってジーッと見つめているからなにか言いたいこととかがあるんだと思うんだけど……。

「えっ!?あ、あの…………せ、世間話ですっ!」

 …………はい?精霊と世間話?

「え、えっと、何の話しているのかな?」

 精霊との世間話とかまったく想像できないんだけど……。

「えっ!?…………あの……えっと……」

 アリスちゃん恥ずかしそうになっちゃったし、本当になんの話ししてるんだっ!?

「え?大丈夫なやつ?
 この精霊追い返そうか?」

 恥ずかしい話をしてくるような精霊とかアリスちゃんの周りにおいておきたくない。

「あ、い、いえ、危険はないと思います。
 こ、恋バナが好きな精霊さんというか……」

 ああ、そういう恥ずかしさか。

 …………いやっ!?人間の恋バナが好きな精霊って一体何だっ!?

「えっと、どうする?契約お願いするのやめとく?」

 一日に二度《精霊召喚》を使うのは良くないと言われているので次に試すのは明日以降になるけど、変な精霊と契約するよりよほどいい。

「………………悪い子ではないと思うので、お願いしてみたいです」

 アリスちゃんはチラチラと精霊を見ながら悩んでいたけど、そこまで印象が悪かったわけではないようだ。

「それなら、ここからは精霊がなにを欲しがっているかを探るんだけど……ある程度意思疎通できるなら聞いちゃったほうが早いかな?
 どうすれば契約してくれるか……うーん、『友達になってください』みたいな感覚で聞いてみて」

「はいっ!聞いてみます」

 ニコニコと笑いながらアリスちゃんを見つめている精霊を、決意のこもった表情のアリスちゃんが見上げて見つめ返す。

 しばらくそのままたまにアリスちゃんがアワアワする時間がすぎる。

「あの…………なんか『見させてほしい』って言ってるんだと思うんですけど……」

 アリスちゃんの言葉を聞いて少し緊張する。

 言葉通りアリスちゃんを見ているだけでいいというのならなんの問題もないけど、そんな物が『対価』になるとは思えない。

 となると、想像できるのは……。

「もしかして、目がほしいって言ってる?」

「え?…………あ、はい、たぶんそうだと思います」

 精霊との契約の際に、首から上の部位については差し出してはいけないと言われている。

 いくら魔力の少ない人間と言っても、目や耳や鼻、それに脳などに精霊を住ませると感覚に異常をきたすことが多いからだ。

 光の精霊な上に友好的だからって見誤ってしまったけど、結構厄介な精霊だったようだ。

 いや、精霊としては単に住みたいところの希望を出しただけで悪意とかがあるわけではないんだろうけど……。

 僕の説明を聞いた子どもたちが不安そうにアリスちゃんのことを見てる。

「ここは残念だけど帰っていただいたほうがいいと思う」

 交渉で要求を落としてもらうことも出来るかもしれないけど、下手に機嫌を損ねてしまうより友好的な状態でいてくれている今のうちに帰ってもらったほうがいいだろう。

「えっと、その場合はどうすれば……?」

「僕が《精霊送還》で無理やり帰らせてもいいけど、話して帰ってくれそうならそれに越したことはないかな?」

 《精霊送還》はつまり精霊に『帰ってくださいっ!』とお願い……いや、怒鳴りつける魔法なので、使うとほぼ間違いなく精霊を怒らせることになる。

 そうなると精霊に怒られた相手――この場合は僕とアリスちゃん――は数日から長ければ一ヶ月程度契約した精霊を含めて《精霊召喚》をしても誰も来てくれなくなってしまう。

 大体の場合、2、3日もすれば精霊の怒りも収まるんだけど、危険を冒さないで帰ってくれるならそれに越したことはない。

「分かりました、話してみますね」

 アリスちゃんがまた精霊を見つめるけど、精霊はニコニコと笑ったままで帰る気配がない。

「あの……『そこをなんとか』って言われました……」

 ユーキくんの精霊といい、精霊は普通一刻も早く『還り』たがるものなんだけどなぁ。

 押しが強いと言うか不思議な子が続いてしまった。

 これは無理やり帰ってもらうしか無いかなぁ、と悩んでいたら。

「あの、精霊さんが『見てるだけだから』『邪魔しないから』『大人しくしてるから』『迷惑かけ無いから』ってうるさいんですけど……」

 えっ?このニコニコ笑って静かに佇んでる精霊さん、そんな事になってるの?

 そこまで言っている状態だと、下手に帰らせるとすごい怒りそう……。

「えっと、それじゃ、もっと軽い対価にならないか話はできそうかな?」

「やってみます。
 ……………………『目が一番良く見えるからそこが良い』みたいなこと言ってると思います」

 むぅ、減額交渉失敗か。

「あ、あの、私この子と契約してみます」

「えっ!?いや、それは危ないよっ!」

 さっき言った通り、目に住ませるのは禁忌とされているから実例は少なく、そして悪いものばかりだ。

「でも、この子、『大丈夫だから』『痛くないから』『悪いことはなにもないから』『ちょっとだけだから』とかうるさくって……」

 大丈夫?この精霊邪悪な精霊とかじゃない?

 そんな精霊住ませるとか僕としては不安で仕方ないんたけど……。

「大丈夫だと思います、たぶん私この子とは気が合います」

 そんな子とっ!?

 びっくりしてしまったけど、アリスちゃんが乗り気なら仕方ないか……。

「もしもの時は契約の解除も出来るから、変な感じになったらすぐ言ってね?」

 一方的な契約解除は《精霊送還》以上に精霊を怒らせてしまうけど、仕方ない。

「はいっ!」

 元気よく頷いたアリスちゃんが光の精霊を見つめて目を閉じる。

「いいよ、おいで」

 アリスちゃんの言葉を聞いて、満面の笑顔になった光の精霊がアリスちゃんの左目のまぶたにキスをする。

 目を開けたアリスちゃんの左目が一瞬金色に輝くけどすぐにいつものきれいな緑色に戻る。

「だ、大丈夫?視界が変だったり、目が回ったりしない?」

「えっと…………はい、特になにもないと思います」

 不思議そうにあたりを見回していたアリスちゃんが安心したようにうなずく。

 とりあえずすぐに分かるような重大な問題は起こらなかったようだ。

「精霊さん、あなたの名前はラファね。
 これからよろしくお願いします」

 アリスちゃんが精霊に名前をつけて、大きくお辞儀をする。

 それを見た光の精霊……ラファちゃんはまた満面の笑顔を浮かべる。

 ……そして、なんかユーキくんと僕の手を引いてアリスちゃんの左右に並べた。

 …………ピッタリとくっつけて並べた。

 アリスちゃんを左右から抱きしめる感じになってしまっている僕たち三人をラファちゃんは少し離れたところから満足そうに笑いながら見ている。

「えーっと、アリスちゃん、これは一体?」

「…………分かんないです。
 ……………………何もしないって言ったのに……」

 うーん、契約を済ませた以上、さっき以上にアリスちゃんとラファちゃんは意思疎通がしっかり出来ているはずなんだけどなぁ。

 とにかく、また不思議な精霊と契約してしまったようだ。
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