あなたがそれを望むなら! ~私はストーカーをしてしまう人に全力の愛を贈ります~

極限環境微生物

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第2話 ゲームセンター山田 (コメディ回)

レーシング◯グーンは名作

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 ――四本目【レースゲーム】

 既にチーム《北村》が二本先取している。そのため絶対に負けられない。
 北原さんは僕と『好きだけどイケナイと分かってるからこそツンツンしちゃう実の兄妹ごっこ』をするんだ。
 少し不安はありつつも必ず勝利すると思い込んでいた山田は、そう考えると胸が高鳴る。

 その胸の高鳴りは、やっと彼の本来の実力を見せられるからでもあった。

 彼が選んだレースゲームは最大で四人対戦が出来るが、今回は三人でプレイする。山田は左端に座り、その隣に北原、村井と並んだ。

「志帆、こういうの得意?」

「やったことはないけど、多分大丈夫。りんごを集めて、三連ターボと着地ターボ、ショートカットを駆使するんだ」

「ふむふむ」

「あとは相手が平気でフライングすることに怒らないこと」

「なるほど分かった。チョチョイのパ~じゃよ」

 二人が顔を合わせて微笑み合う。和やかな雰囲気が漂ったが、ここで負ければ山田は北原と『少し冷たい態度を取るくせに、やたらと近付いてきてくる。実は僕とえっちがしたくて仕方ない先輩を押し倒しちゃう後輩役』の設定で遊べない。
 勝利報酬を考えると彼の精神にブレはなかった。

「さぁ……行こうぜWarrior…………最速の彼方へ…………」

 三人がアクセルペダルを踏み込むと、轟音と共にシートから振動が伝わった。

 ――3.2.1 GO!!

 スタートと同時に北原は、山田に車体をぶつけスピードを落とさせる。それを見て村井が、山田の前を塞ごうとした。
 “ブロッキング”だ。もちろん現実世界リアルでは罰則があるどころか下手をすれば刑事事件。

「ほう、あの動きは……“ブロッキング”ですか、やりますね」

「ムッ!? 知っているのか、クロウ」

 ありがちな解説役となっている二人の近くにはギャラリーができていた。それ自体はゲームセンターではよくある光景だった。

 ガイアやクロウもよく見るギャラリーの一人から、お前らとうとう友達を女装やコスプレさせてんのか……と言われるとガイアが正直に答えた。

「あの二人は同学年の女子だ。いま互いの身体を賭けて真剣勝負をしている」 

「なにぃ!? 女友達とゲーセンだぁ!? って身体ぁ!?」

 ギャラリーは激昂した。

「またガイアさんが『戦場』で無遠慮な発言をしてしまいましたか……。全く」呆れたような口ぶりをしながら、クロウは上着からデッキを取り出す。「――本当は嫌いなんですよ。『力』で誰かを『屈服』させるのは――」

 クロウは黒いオーラを放ちながら不敵に笑った。


 後ろのギャラリー達がそんなやりとりをしてる間に山田は、彼女達の連携を予測していたようでブロッキングを回避していた。

 そしてレースゲームでの技術と経験の差というのはコーナーで如実に現れる。三人が選択した車にスペックの差はほとんどなくとも、コーナーへの進入アプローチでまた少し、また少しと遠く離れ、山田は彼女達を、バックミラーの点にしてやった。

「…………遅い奴には、ドラマは追えない」

 山田がうっとりした表情で彼女達を圧倒する。
 しかし一度のミスで大きく距離が詰まってしまうゲームだ。
 
「ああ!!」とギャラリーの声がする。

 負けられないというプレッシャーの中、操作ミスにより山田は壁と接触し、減速してしまった。

 彼女達はその隙を逃がさない。
 既にコースは中盤を超えて終盤に差し掛かる、先程の“事故”は、緩やかなコーナーが続く難所での出来事だった。山田のバックミラーが彼女達のヘッドライトの光を捉える。

「待ってたぜ…………さぁ……『吹けよ』……新しい『風』……! …………」

 彼女達が迫り来る。ゴールまでは残りは二千メートル。最後の長い直線。山田の車のエンジン音はこれ以上高くはならない。
 クロウが、「どうか逝かないで……。」「あー! としちゃった……。」「マアァァァァ!」と言っているが無視する。

「熱…………感じたさ……俺と…………お前達の熱を……でもまだ、その向こうには行かせない…………フッ…………」


 ミスによってはひっくり返る状況ではあった。しかしそれでもゴールと彼女達までの距離から、スリップストリームには入れない位置だ。
 つまり『接待』がなければ順位が変わることはない。

 服がぼろぼろになったガイアとクロウが後ろでハイタッチをしていた。
 彼らの緊張した空気が緩んだ次の瞬間、信じられないことが山田に起きた。

 ――――北原が左手を伸ばして山田のハンドルを握っているじゃないか。
 そして彼女は掴んだ腕を上下に振り回した。

 山田は北原の暴挙で車体が左右に振られる。そのため全力でハンドルを握りしめて制御するがしかし、気付いた時には彼女はすでに身体を乗り出して、『両手』で彼のハンドルを『握っている』。その力は強く、山田は体ごと揺さぶられながら言った。

「…………冗談じゃねぇ……」

 北原は精一杯身体を伸ばして山田のハンドルを握り暴れている。熱狂したギャラリーの爆笑がフロアを包む。

「なにやってんだよ離せぇ! せめて人間らしく闘ってくれぇ!」

 ガイアが彼女のシートから乗り出して声を掛けるが、山田は無駄だと分かっていた。彼女の力には本気が伝わる。

「行け! 志帆ーーーー!!」

 北原の声がゲームセンターに響いた。



 四本目 ○●○チーム《北村》 ●○●チーム《ビギニング オブ ザ ワールド》

「いや負けるんかい」

「スペック変わらないのに直線で抜くのは無理」村井が北原の突っ込みに冷静に返す。

 山田は彼女達にRespectを贈る。何がなんでも勝とうとする『風』なんかじゃない本気の『嵐』を、笑うことはできても貶すことは出来なかった。
 しかし山田は、村井からの嫌悪感の混じる視線が気になった。北原は彼女に対して、次で終わるから。となだめているようだ。

 少し不安な気持ちになったが、山田の試合(ゲーム)を見ていたガイアもクロウも今は「あれはひっでぇよなwww」と笑い飛ばしていたことで彼は安心していた。

 残すは一本。彼女達は、最後のゲームを選んだ。


続く
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