血液探偵事務所!

宇地流ゆう

文字の大きさ
6 / 8
第2章「あの子を救え」

6. 探偵助手の心得

しおりを挟む
 第二章 あの子を救え



「その一、助手は何があっても落ち着いて、探偵の指示を信じろぉ?」

 思わずすっとんきょうな声を出してしまった。そしてそれが明治維新について熱く語っていた先生の話を中断させてしまったことがいけなかった。

「真田」

 先生は低い声で名前を呼び、あたしは「はい」と肩をすくめる。

「この間は授業中に爆睡、そして今日は教科書じゃなく一体何を読んでいるんだ?」

 探偵助手の心得です、とは到底言えなかった。そしてあたしが身を固まらせていると、先生がつかつかと机の前までやってきてあたしの持っていた薄い冊子をひょいと取り上げた。

「あっ」

「授業に関係ないものは預かるからな。二度と同じ失敗をしないよう、ここでこれを読みあげたっていいんだが?」

「それは本当に、とても困ります。ごめんなさいもう絶対にしません。よければ返していただけると……」

 あたしは精一杯の笑顔と謝罪を見せたが、そこで先生の表情がさらに恐くなったので、あたしは「いえ、何でもありません」と言う他なかった。

 先生はそれを読み上げることはしなかったものの、その冊子を自分の教科書にはさんで持って行ってしまった。

 やばい。あんなもの見られたらすごく怪しがられる。どうか先生、その「探偵助手の心得」を開かないでください。いい言い訳すら思いついてないんですから———友達と冗談で書いたものなんです、とか、実は凝った設定の同人誌です、とか?正直になんて言えない。

 あたし、ほんとに探偵助手を仕事にしてるんです!



「なあ一花、あれ何だったの?」

 授業が終わると徹也があたしに聞いた。いつもと同じ爽やかでまっすぐな徹也に安堵を覚える。ああ、友達っていいものね。こういうときに相談できる相手がいるっていうのはいくらか心が落ち着く。

 そこであたしはここ最近溜まっていた悩みを打ち明けるべく徹也を連れて屋上に出た。持ってきたお菓子を徹也に分けながらも、昨日起こった一連の話を聞いてもらう。

「だから、その人どう思う?絶対私立探偵なんて怪しいでしょ?」

 徹也はうーん、と考えこんだ。

「まあ鼻っから怪しいと決めつけるもあれだよな。だって私立探偵ってだけなら別に法に触れてもないし。まあそいつが私立探偵と銘打ってアウトローなことをしてるなら、即父さんに報告だけど。でも裏組織とは関係ないんだよな?」

「って本人は言ってるけど」

「まあ様子見るしかない。もしかしたら今父さんが関わってる暴力団の件と関わりあるかもしれないし」

「そうね」
 と言ったところで、突然ケータイの着信音がけたたましく鳴った。あたしは少しびくりとしてから、あまり見覚えのない番号からの電話に出た。

「はい……?」

「真田一花か?」

 フルネームで呼び捨て。電話ではちょっと違った声に聞こえるけど、間違いない。噂をすれば何とやら、とはこのことか———

「……はい、なんでしょう」

 あたしは構えるように言った。こんな昼間に呼び出して、一体なんの用事だろう。場合によっては自分の電話番号を彼に教えるんじゃなかったと後悔するかもしれない。

「1時間以内に星那学園に来てほしい」

「はい?」

「探偵助手の心得は読んだか?心得その八、助手はいかなる時でも探偵の命令に従わなくてはならない」

 えっウソでしょ。そんな心得があったの?あたしはその一を読んだところで日本史の奥山先生にあっけなく回収されてしまったけど、その先にそんな恐ろしい心得が存在していたなんて。

「えっと、それが実は……さっき回収されちゃって」

「何だと?」
 電話の向こうの声色が変わった。

「授業中に読んでたら、先生に見つかって」

 はあ、と鋭いため息が聞こえた。そして奥山先生よりももっと厳しい声が返ってくる。

「心得その十、この冊子はいつでも自分の手元に置き、絶対に紛失したり他人に渡したりしないこと」

「あちゃー……」

「心得その四、探偵助手に失敗は許されない」

「えー……」

「新人の失敗にしてはよくやってくれたものだな。いいか、それについては後で話すとして今から1時間以内に大学に来い。その八とその四を頭に叩きこんどけ」

「えっ、ちょっと待ってこっちだって授業が……」

 という声は、向こうには聞こえておらず、ただ虚しい電子音がツー、ツーと流れるだけ。

 いや、ちょっと何それ。あまりにも強引すぎる。今から1時間以内に来いですって?じゃあ学校の午後の授業はどうするのよ。そりゃうちの高校と星那学園は歩いて三十分くらいの距離だけどね、あたしが高校生ってことを忘れているんじゃないだろうか。

「どうした?」

 徹也が心配そうにあたしを見た。

「緊急呼出し食らっちゃった。例の東城聖から。1時間以内に星那学園に来いだって」

 あたしは唇を噛む。そんなに切羽詰まった用事?この命令に逆らったらどうなるんだろう。

「東城ってやつ、ほんと強引だな。一花、行くのか?」

 徹也は短くため息をついて言った。

「わかんないわよ唐突過ぎて。これってやっぱり行くべき?」

「午後の授業何だっけ?」

「体育と数学よ」

「ならサボろう」

「へ?」

「俺、一回その東城聖に会ってみたいから。それで俺が判断するよ、そいつが真っ当なやつかどうか。一花は、午後の授業出たい?」

 真面目に授業を受けるかと言われれば、今はそんな気分ではない。東城から電話がかかってきた時点であたしは落ち着いてなんていられない。どっちにしろ今、命令を無視すれば何だか後が恐いし、これが本当に事件の解決につながる重要な呼出しだとしたら取り返しがつかない。(まあそんなことないと信じたいけど……)

 そこであたしは首を振った。

 徹也はにやりと笑って「よし、乗り込もうぜ星那学園」と呟いた。まるで犯人からの脅迫電話を受けて現場に急行する警察のようだ。まったく東城聖は探偵より犯罪者に近いと思う。


===========================

次回、7. 世界一の安全保証

 東城からの脅迫....いや、緊急呼び出しを食らった一花は、徹也とともに星那学園に現着する。
 どんなブラック会社のどんな鬼畜マニュアルより鬼畜な「探偵助手の心得」には、なんと意外なことも書かれてあった......
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。

ママはヤンママ女子高生! ラン&ジュリー!!

オズ研究所《横須賀ストーリー紅白へ》
キャラ文芸
神崎ランの父親の再婚相手は幼馴染みで女子高生の高原ジュリーだった。 ジュリーは金髪美少女だが、地元では『ワイルドビーナス』の異名を取る有名なヤンキーだった。 学校ではジュリーは、ランを使いっ走りにしていた。 当然のようにアゴで使われたが、ジュリーは十八歳になったら結婚する事を告白した。 同級生のジュリーが結婚するなんて信じられない。 ランは密かにジュリーの事を憧れていたので、失恋した気分だ。 そう言えば、昨夜、ランの父親も再婚すると言っていた。 まさかとは思ったが、ランはジュリーに結婚相手を聞くと、ランの父親だと判明した。  その夜、改めて父親とジュリーのふたりは結婚すると報告された。 こうしてジュリーとの同居が決まった。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

ビジュアル系弁護士シンゴ&パラリーギャル織田マリア!

オズ研究所《横須賀ストーリー紅白へ》
キャラ文芸
元ホストの蒲生ヒロユキは西園寺財閥の令嬢、レイカと結婚するため、邪魔になった元カノの石原百合香の殺害を計画した。嵐の中、岬の崖から突き落とし計画を遂行した。 ようやく邪魔者を処分した蒲生は清々とした気分で自宅へ戻ってみると、三人の男女が現れた。 ビジュアル系弁護士シンゴとパラリーギャルの織田マリア。そしてイケメン刑事の星優真だ。 織田マリアは、会った瞬間から蒲生を『真犯人に決定』と詰め寄った。 蒲生からすれば心外だ。 なにしろアリバイ工作は完璧だ。 百合香が殺害された時間、蒲生が家に居た事はピザのデリバリーをした配達員が証言してくれるはずだ。 だがマリアはそのピザをねだって遠慮なく開けてしまった。蒲生は注意するも、わざわざデリバリーしてもらったのに、冷えているとクレームをつけた。蒲生も美少女パラリーガルを甘く見たと後悔するが、時すでに遅しだ。 次々とパラリーギャルのマリアは難癖をつけて蒲生を追い詰めていった。 やがて一億分の一のような奇跡に見舞われ蒲生は自滅していった。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...