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第2章「あの子を救え」
7. 世界一の安全保障
しおりを挟むさっきから彼は見るからに面倒くさそうな顔をしていた。徹也も不機嫌そうに相手を睨んでおり、二人の間には目には見えないライバルの電流のようなものがバチバチと流れていた。いや、正確に言えば徹也から一方的に流れているかも。
「まさかお前だったとはな、東城聖。これでようやく名前がわかった」
「……倉橋警部の息子さん、だったかな」
東城はそう言ってから、短くため息をついてあたしに小声で文句を言う。
「なぜこいつも連れて来た?」
「俺が一花を連れてきたんだよ。お前の強引な電話に困ってたからな」
徹也が噛みつくように言った。……一体どうなってるんだろう、さっきから聞いてると、二人は知り合いのようだ。
キャンパス内を行き交う大学生達がこちらを不審げな目で見ている。それもそうだ、制服を着た高校生二人、しかもそのうちの男子生徒は星那学園生と睨みあっている。
「えっと、二人って知り合いなの?」
あたしはできるだけ穏やかに言ったのに、徹也は「知り合いも何もねえよ」と言い放ち、東城のほうは「二、三度事件で関わったことがあるだけだ」と低く返す。
「え?事件で関わった?やっぱり東城って犯罪者なんじゃ……」
「違うよ、一花」
徹也がため息をつきながら首を振る。
「そっち側じゃなくて、俺達と同じ側」
「同じ側?」
「俺と俺の父さんがどうしても解けなかった事件を、こいつが何度か持ってってさっと解決しちまったんだよ。怪しいやつだとは前から思ってたが、それが実は私立探偵だったなんてな。ようやくお前が事件を持ってくわけがわかったよ」
徹也は歯ぎしりをした。え?ってことは、警察が解けなかった事件をも解いてしまう実はすごい探偵だったりして?
些か驚いた顔で東城を見ていると、彼は「早くこいつを帰らせろ」というような視線を送り返す。
でも徹也はきっとすんなりとは帰ってくれないだろう。負けず嫌いの彼にとって、事件をいつも持っていかれる謎のライバルが目の前にいるのだ。
「倉橋君、悪いけど今はあんまり時間がないんだ。君だって事件解決を望む警官の息子ならわかってくれるだろう?」
「気に入らねえな、一花をこき使って事件解決だと?俺は俺だけでその事件解いてみせるから教えてみろよ、どんな事情か」
東城はそこでため息をついて首を振った。
「これはうちに持ち込まれた事件なんだ。君には一切関係ないし、たとえ教えたとしても絶対に解決できない」
東城がそう言い切ったので、徹也はますます喧嘩腰になる。
「へえ、絶対に解決できない?何を根拠に言ってんだよ。お前なんかに一花は渡さないからな」
「渡す?彼女は一昨日正式に雇ったんだ」
「無理やり脅迫して雇ったんだろ」
「そんなつもりはない」
ん?これには同意できないけど。
「お前の名前がわかった以上、父さんに言っていろいろ調べてもいいんだぜ?」
「あまりしつこいとただじゃ済まなくなるぞ」
東城が表情を変えた。
「はっ、やれるもんならやってみろよイカサマ探偵」
「警察ごっこのガキは引っ込んでいてくれないか」
東城が冷ややかに見下ろすと、徹也が瞬間的に一歩踏み出して手を出そうとする———ところをあたしがぎりぎりで止める。
「はいはい、終わり!まったく、それこそ暴力団じゃないんだから、落ち着いてよ」
あたしはそう言って、緑豊かな大学敷地内で始まりそうだった乱闘に休止符を打つように言った。
そしてあたしは徹也のほうを向いてはっきり言う。
「あたし、今回の事件に関してはちょっと気が進まないけど東城の助手になることにしたの。もとはこの事件、昨日ある男の子がわざわざ事務所を頼ってやってきたことだし、それにまだ警察が出る幕じゃないと思うの。
もう少し調べてみて、本当に事態が大きくなったら徹也に言う。だから、ありがとう、ついてきてくれて。東城だって……きっとそんなにあたしのことをひどく扱わないと思う。たぶん」
というか、そうであって欲しいという願いを込めながらも言うと、徹也はあきらかに不満そうな顔をして、それからしぶしぶため息をついた。
「わかったよ、一花が言うなら。俺が必要になったら呼べよ。もしこいつがお前になんかひどいことしたら我慢せずにすぐに言え。俺はいつだって一花の味方だから。じゃ」
徹也はそう言ってふん、と鼻を鳴らして去って行った。
徹也はすごくいい友達だ。ちょっと喧嘩っ早いのは置いといて、すごくあたしのことを考えてくれる。それに対してこの人は……
あたしは東城を振り向いた。彼は徹也の去って行った方を遠目で見ながら口を開く。
「あいつは何か勘違いしてるようだが、僕は世界一の安全を君に保障しているつもりだ」
「は?」
彼の思わぬ台詞に、変な声を出してしまった。今、何て?相手のことを考えない強引な謎男があたしに安全を保障する?しかも、なんで世界一?
あたしがぽかんとしていると、東城は事務的に言った。
「心得その五、探偵はいつ何があっても助手の身を全力で守る」
「え、そんなこと書いてあるの?」
「自分で確かめろ」
「でも何で世界一の安全が保障されるわけ?」
その大げさな表現にちょっと笑ってしまうと、東城は意外と真剣な顔をして言った。
「それは時が来たら話すつもりだ。とにかく事件に関わっていくなかで君の身に危険が迫っても心配するなということだ」
東城が大学構内に向かって歩き出したので、あたしは慌ててその後をついていく。
「ちょっと、あたしの身に危険が迫るってどういうこと?」
「助手をやってればそれくらいのことはあるだろう」
「そんな危険なことするなんて聞いてない!」
「だから危険じゃないと言ってるだろ、僕がついている限り」
「信用ならない」
「またか」
東城はため息をついた。
でも、その時は本当に東城聖が世界一の安全を保障できる理由をわかっていなかったのだ。
大げさかもしれないけど、東城は本当に無敵だった。彼に勝てる人間はきっといない。そしてそんな彼が守ると言ったらそれは世界最高のボディガードだ。
徹也が聞いたらまた闘争心を燃やすだろうけど、その理由だけは徹也にでも話せない。
あたしはこの事件の後、程なくして彼の本当の正体を知ったのだけれど—————
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8. ドラッグではなく
東城が捕まえた怪しい下っ端の尋問に付き合わされるあたし。しかし、そこでさらに怪しいモノが出てきて、謎は深まっていくばかり——————
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