個人授業は放課後に

須藤慎弥

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   振り返ると、橘は少しだけ切羽詰まった表情をしていた。

   これなら、ニヤけ顔を浮かべて意地悪を言われていた方がまだいい。

   こうして無表情に三白眼をさらに細めて見詰めてこられると、何も考えられなくなる。

   由宇は焦りを持って振り向いたはずなのに、視線をそらせなかった。

   今橘は、由宇へ何か言いたい事があるはずだと思った。

   けれど、毎度の事ながら言ってはくれない。

   ふいに橘が顔を傾けた。

   ──唇が近付いてくる。


(キ、キスしたい、って事なんだ……)


   乳首を弄ぶ泡だらけの手のひらが由宇の頬に触れて、ゆっくりと唇が重なる。

   至近距離から送られる視線が熱く感じた理由を、橘が今まさに触れている事で確信を得た。

   ……キスしたい、していいかと彼は尋ねたかったのだ。

   いや、そんなお伺いではなく「キスするぞ」だったかもしれない。


「ん……」


   濡れた唇が合わさっているからか、ぴちゃ、ぴちゃ、という粘膜音が生々しく由宇の耳に届く。

   裸で密着し、互いの体温が直に伝わる猛烈なる羞恥心でいっぱいな中、じわりと舌を舐められるとそれだけで下半身が疼いた。

   また、自分から出ているとは思いたくない声が漏れてしまう。

   腰辺りに感じる猛々しい存在が、橘の欲情をそのまま表していると思うと何となく嬉しかった。

   このシチュエーションやキスに興奮しているのは由宇だけではない。

   そう思うと余計に背筋が震えた。


「……っ……ん……ふ、っ……」


   もっと深く絡めようと橘の舌が追い掛けてくる。

   見付かってしまえば優しく吸われて、慣れているそれで内頬をなぞられた。

   息が苦しくなってきた由宇は、橘の腕を弱々しく掴んで抵抗を試みる。


(くるし……っ、先生、……俺、先生みたいに経験値高くないから……っ)


   当たり前のように何分もキスをしようとしてくる橘の手腕に、付いていくことなど出来ない。

   苦しくて、やっとの事で大きくのけ反って橘の舌から逃れた。


「ふはっ……っ……」


   のけ反った拍子に橘の上から落ちそうになり慌てて逞しい肩を掴んだが、無表情の橘も由宇の体をがっしりと支えてくれた。

   ……不服そうに目を細められはしたけれど。


「まだ足んねんだけど」
「それ、……さっきも聞いた……!  先生、どうやって息してる、……っんだよ」
「鼻」
「鼻……っ?  鼻から呼吸してるの?」
「そ。  練習すっか」
「んっ!  ……っ……」


   まだ呼吸を整えている最中だった。

   間髪入れずにまたしても唇が重なり、すかさず舌も入り込んでくる。


(れ、練習すっかって……!  まだ俺くるし……っ)


「興奮すると呼吸も忘れんだけどな」
「……ん、っ……っ……」
「まぁお前はまだ慣れなくていんじゃね。  息苦しくてはぁはぁ言ってる方がそそるし」
「……っ、んむっ……!  んっ……!」


   分かったから、一回離れてほしい。  舌を絡ませながら喋るとは器用過ぎる。

   何一つ返事は出来なくて、橘からの熱いディープキスで由宇は文字通り翻弄された。


「んっ……っっ……んーっ」


   優しく頬に触れてくれていた手のひらが、いつの間にか乳首に戻っていた。

   指の腹で押されたり、きゅっと強めに摘んできたり、指先で挟み込まれたり、あらゆる技巧で由宇の快楽の扉を開かせようとしてくる。

   最初はくすぐったいだけだったはずが、今は思わず下半身をモゾモゾさせてしまうほど、何かが由宇を攻め立てた。

   これが気持ちいいという事なのか、不確かでありながら性器は正直だ。

   乳首からお腹、腰へと橘の大きな手のひらが這ってゆく。

   そして、勃ち上がって静かに雫を溢していた性器が見付かってしまった。


「イくなよ。  お前寝そーだから」
「んむ、むっ……っ……!」
「そのまま気張っとけ」


   上顎を舐めた橘は、唇の端を上げて不敵に微笑んだ。

   鼻からの呼吸をしようと意識していても、なかなかうまく出来ない由宇の視界がぼやけていく。

   苦しい。

   恥ずかしい。
  
   でも、すごく興奮する。

   ──気持ちいい。

   大好きな橘にされているからなのか、どんなにいやらしいキスをされても、いたずらに体を撫で回されても、全身の火照りが治まる事はなかった。

   おずおずと橘の首元に腕を巻き付ける。

   橘を背にしていたはずの由宇の体は、いつの間にか橘の方を向き必死でキスに応えようとしていた。

   するとふと、橘の指先が後孔に触れた。

   危険を回避したと思っていたのに、また触れられた。


「ん、んんんっっ──!?!」


(冗談だよね、先生っ……!?  お尻、っお尻なんていじくるもんじゃないって……!)


「ひッッ!」


   橘の指先が無断で侵入しようとしてきて、由宇の喉がヒクついた。

   もしかして冗談ではないのか。

   そこに橘のものを挿れると言ったのは、本当だったのか。


(う、うそ……っ!  や、痛いっ……やめて、抜いてよ……!)


   瞳を見開いて慄く由宇の唇を食んだ橘が、神妙に頷いている。

   平然と、指先を少しずつ奥へと挿入してくる橘へ、小さく「痛い」と呟いた。


「分かるぞ、うん。  こんなとこに俺の巨砲が入んのかってな、不安だよな」
「い、痛、い……っ……抜いて、……っ抜いてよぉ……!」
「だからこその拡張だ。  優しいだろ、俺」


(人の話を聞け!  ……うぅ……っ痛い、……指でもう痛い……!)


   由宇も無視されているので、橘が言っている事も聞いてやりたくない。

   痛いと言っているのにやめてくれない橘は、決して優しくなどない──。




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